●切片の免疫染色

■はじめに
 研究対象のタンパク質が,生体内のどの組織,どの細胞で発現しているのか? さらには,そのタンパク質が細胞のどこに存在しているか?
これらは,生物の組織や細胞に対して抗体を反応させることで調べることができます。(タンパク質以外でも抗体が認識する物質なら OKです。)
この実験では,生物を固定して,組織や細胞をできるだけ生きている時と同じ状態に保ち,その試料に対して抗体を反応させます。固定した試料
から組織切片を作製し,切片上で免疫染色をおこなえば,顕微鏡をつかって,目的の物質が存在している場所を詳細に知ることができます。


■実験結果
 切片染色の結果を公開しました。
 みなさんが染色した切片のなかから,各班で一番うまくいった人の切片写真をデータにしました。
(全員分の切片を見せて頂きましたが,切片染色の善し悪しは評価に関係ありません)
 レポートには,各ページの下の方に高解像度版があるのでそれを使ってください。

 このページから新しいウインドウかタブで表示すると見やすいです。

   1班 〜 4班の結果はこちら →→

   5班 〜 7班の結果はこちら →→


■実験結果の解説

 ほとんどの人が上手に染色できていました。ただ,切片をいきなり見ても,何がなんだか分からなかったと思います。
染まっている細胞は観察したけど,よく分からないうちに終わってしまった人もいたでしょう。当日は,自分で作業し,
抗体が抗原を認識し,一部の細胞だけが染まるということを観察できていれば十分です。ここでは,もう少ししっかりと
切片写真を見てください。

 写真は,各班 3 枚ずつです。どの班の切片にもミダレキクイタボヤの芽体(無性生殖でつくられる新しい個体で,からだ
づくりが途中の個体)とその生殖腺,生殖細胞などが含まれています。少しややこしいのは,ミダレキクイタボヤは半人前の
芽体が,無性生殖によって新しい固体(芽体)をつくるので,芽体のとなりにさらに若い芽体がいるということになります。
若い芽体というのが写真のなかの b になります。その他,代表的な細胞や器官などは,ギムザ染色の2枚目の写真で分か
るようになってます。 免疫染色したのは,ギムザ染色した切片から 2μm ほど隣を切った切片なので,ギムザ染色した切片と
ほとんど同じ器官や細胞が含まれているはずです。2 つを見比べることで,どんな細胞が Vasa タンパク質を発現しているかが
分かります。逆に,発現していない(あるいは,抗体で検出することができない)細胞についても分かります。

 どの細胞がどんなふうに染まってますか?どの細胞は染まらなかったでしょうか? レポートの結果には,自分の班の切片を
よく見て
,見えるとおりに記述してください。また,他の班の結果を使っても構いません。自分の班では染まっているのに,他の
班では染まっていないなど,気づいたことがあったら書いてください。あと,自分の切片で染色された細胞や組織のスケッチを
描いたと思います。
レポートには,それも付けてください(書き写さなくても,貼り付けでかまいません)。 アップ した写真と同じ
ような染色像が見えた人もいれば,全く違うものが見えた人がいるかもしれません。

 ところで,ギムザ染色で染まっている青色と,免疫染色で染まっている青色は,発色の仕組みがまったく違うのは分かりますか?
「先生,今さらそんなこと聞かないでください!!」と思ってくれるのが理想ですが,,,,大丈夫??

 ギムザ染色液は,以下の3種の色素の混合染色液です。市販されている原液を適当濃度になるよう PBS で希釈して使いました。
そもそも,ギムザ染色では抗原抗体反応はおきていませんよね。

  
アズールブルー (塩基性色素)
  メチレンブルー   (塩基性色素)

   エオシン           (酸性色素)    


●課題●


「切片の免疫染色」での課題です。まず,下の写真を見てください。

 A は実験でつかったミダレキクイタボヤというホヤの幼生です。オタマジャクシに似た形をして
いるのでオタマジャクシ幼生と呼ぶこともあります(但し,オタマジャクシではない)。B, C, D は A の
四角で囲った部分の断面写真です。C はよく見ると 1つ 1つの細胞の輪郭が赤く光っています。
D では青い点々の1つ1つが核の場所を表しています。実は C と D では全く同じ断面を見ています。
つまり,C と D は写真を重ねることができます。実際に重ねたのが B の写真です。よって B は,
オタマジャクシ幼生に対して,細胞の輪郭と核をそれぞれ染色して,見えるようにした二重染色象
ということになります。
 二重染色とは,同じサンプルを二種類の染色法で処理します。可能であれば3種類以上の染色を
することもあり,まとめて多重染色と呼びます。
 
 では,問題です。
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 これから,あなたは,上の写真で示したサンプルを,さらに 抗 Vasa 抗体で免疫染色し,細胞の輪郭と核,
Vasa タンパク質を同じサンプル(同じ断面)で見えるようにする「三重染色」をします。その具体的な手順
を考えて説明してください。
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 ざっっくりとした問題なので,最低限押さえるポイントやヒントを下に示します。よーく読んでください

@同じ断面(もしくは切片)を観察できる方法を考えること。今回の実験のように,数μm離れたとなりの
 断面(切片)ではなく
,まったく同じ断面(切片)の三重染色象
を観察できなければならない。

A抗体を使う場合は,どんな物質に結合する抗体で,どんな動物でつくった抗体なのかを具体的に示すこと。
 実際に売ってるかとか技術的につくることが可能かどうかはあまり気にしなくてよい。

B使用する抗体が結合する物質(つまりは抗原)や抗体に付けておく標識物質についてはできるだけ具体的な
 物質の名前を考える(調べる)こと
。例えば,「細胞膜を認識する抗体」や「核を認識する抗体」ではなく,
 「XXXという物質に結合するする抗体で染色することにより細胞の輪郭を見えるようにする」のように説明して
 欲しい。同じように,「青く光る物質で標識した抗体」ではなく,「XXXという物質で標識した抗体」と示し,どう
 やって見えるようにするか(光らせる場合は,どうやって光らせるのか)の説明もして欲しい。
 
 Bの条件は,3年生にとってはちょっと難関かもしれないので,どうしてもわからなければ,「赤く光る物質」などと
 書いてもよしとする。ただし,文章を読めば,調べたけど分からなかったのか,最初から調べもしなかったのか
 (手を抜いたのか)はよく分かりますので,注意してください。

C(ヒント)目的の物質を見えるようにする方法には,抗体を使わない方法もある。つまり,自分の見たい
      物質にだけ結合するような分子であれば抗体じゃなくてもいいのです。調べてみよう。

D(ヒント)何を書いたらいいのか全く分からないとき,ホームページの説明に不備があるときは,砂長に
      問い合わせる。


*3年生にとっては,具体的な物質名や細かい方法を説明するのは難題ですので,実験の大まかな手順が
正しく書いてあれば合格点をあげます。高得点を望む人は,是非是非,頑張ってください。

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