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研究内容

「丸太を用いた新しい液状化対策工法の開発」

 2011年東北地方太平洋沖地震では、約500kmにも及ぶ断層が段階的に破壊し、東日本の広い範囲が被災し、関東7都県の96市町村もの広い範囲で液状化による住宅、道路、ライフラインなどの被害が生じた。東北地方沿岸部の津波被災地についても、港湾施設の変状や埋設管の浮上が見られ、噴砂の目撃談や津波避難行動の遅れも報告されている。発生確率の高い南海トラフを震源としたプレート間地震では、西日本一帯で強震動による被害が想定されており、震源域に近い地域では広域地盤沈降や津波とその後の長期浸水、液状化などにより、東日本大震災を上回る被害が予測されている。このような巨大地震での液状化被害を最小化するためには、事前対策が必要となるが、実施には低コストで地球環境に配慮した工法が望ましい。国土の約7割が山間地の我が国において、森林資源を土木分野に積極的に利活用することは現実的な解決策である。 本研究では、林業従事率の高い高知県をモデルケースとして、丸太を活用した新しい液状化対策工法を開発する。具体的には、丸太打設よる地盤の強度増加を現地試験、室内試験、高知県仁井田地区に埋設された地震計、過剰間隙水圧計による現地計測結果などから解明し、他工法との違いや優位性を検証する。さらに、森林分野に精通した研究者、森林総合研究所と共同で、長期間地盤内に埋設された丸太表面の貫入抵抗値やヤング率を求め、地盤改良材としての丸太の長期耐久性を評価し、丸太打設による杭構造物としての可能性(フェールセーフ効果)を検討する。将来的には、木材の地盤打ち込み時の土粒子の移動や周辺地盤の沈下量を精度よく表現する手法の構築を目指す。


高知市新庁舎での丸太打設液状化対策実施工例

地震動と間隙水圧の現地計測(高知県高知市仁井田地点)

地中利用木材の長期耐久性評価の例(高知県国分川 木製水制工)


「地震と津波の複合災害に耐える盛土・堤防補強技術の開発」

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、東北地方の広い範囲に津波が住宅地等に来襲し、多くの人命が奪われた。沿岸部の海岸構造物などの施設や、海岸部に構築された河川堤防、盛土地盤、擁壁等の多くが津波により崩壊したが、防潮堤・防波堤などの海岸構造物に比べ被害範囲が局所的で、構造物全体が崩壊する事例はほとんど見られなかった。一方、福島県では農業用ため池が地震により決壊し、堤体が土石流化することで多くの人命が奪われた。1995年の兵庫県南部地震でも堤体の被害が報告されており、 特に人口密集地に立地するため池の耐震化が望まれている。実際の被害分析から既存の土構造物の津波抵抗力を求めることは、海岸近傍に立地する土構造物の耐震性評価を行う上で重要であり、来るべき南海トラフ巨大地震への防災・減災効果や避難路の確保、津波対策に盛土などの土構造物が防波堤的役割として活用に必要な結果を提供する社会的役割を果たすことになる。
本研究では、東北地方太平洋沖地震で被災した海岸堤防、道路盛土、ため池などの土構造物を対象に、現地調査や室内試験、数値解析などから、強い揺れと津波の複合災害の地盤被災メカニズムを解明し、耐津波抵抗性を有する新しい海岸保全施設、あるいは河川堤防を提案する。加えて、全国に広く立地するため池を対象に、地震や突発豪雨発生時に破堤を防ぐための低コストで効率的な堤体補強法、基礎地盤の改良技術を開発する。


東日本大震災による河川堤防の崩壊状況

鋼矢板による堤防補強の例

二重鋼矢板によるため池堤体補強の施工例(高知県三山池耐震工事)


「粒径の大きい礫を含む地盤の液状化メカニズムの解明と評価法の構築」

 液状化現象は緩い砂地盤での発生が懸念され、それに対する評価手法は確立されつつある。一方、粒径の大きい礫を含む地盤の液状化リスクの評価や対策は不明な点が多い。実際、北海道南西沖地震や兵庫県南部地震では埋立地などの広い範囲で液状化被害が生じた。高知県沿岸部など、四国地方の津波浸水地域では、礫を含む幅広い粒度分布を有する地盤が堆積しているケースも見られる。特に河川堤防は基礎地盤に礫質土が堆積する場合も多く、周辺の浸水被害が拡大した事実を踏まえると、従来の評価範囲外である礫質土の液状化評価法の策定や簡便な判定技術の確立が必要になっている。 本研究では、高知県仁淀川河口部で採取された河床砂礫に対して直径100mmの中型試験機から求め、粒度分布、密度、材料の透水係数などの違いが液状化強度や液状化後の変形性に及ぼす影響を調べる。さらに、せん断波速度や貫入抵抗値、物理特性などから幅広い粒度分布に対応できる液状化評価方法を構築する。


礫を含む事前地盤の液状化の発生例

礫地盤の現地撹乱試料採取


「微地形と土質の堆積環境に着目した液状化危険度評価に関する研究」

 2016年4月14 日、16 日に発生した熊本地震では、前震、本震の2度の強震動を受け、 震源地に近い益城町や熊本市内で火山灰を含む砂質土が液状化し、家屋の被災、埋設管の浮上や道路の不陸に伴う交通障害などの被害が生じた。今次地震では住宅地の被害も多発し、地震後2年以上経過した時点においても復旧が進んでいない地域も見られる。液状化危険度を分かりやすく住民に知らせるためのツールとして、ハザードマップが活用されるケースが多い。これらの多くは液状化履歴と微地形、限られた範囲での地盤調査結果から作成されている。一方、熊本地震の液状化被害は公開されたハザードマップと乖離する箇所が多く、従来法での予測精度や判断基準に課題が見られた。本研究では、既往の自然堆積地盤で生じた液状化の多くが河川近傍の軟弱地盤で発生していることに着目し、微地形や土質の堆積環境に配慮した新しい液状化危険度評価法を考案する。既往の液状化発生地点に対して、河川の氾濫に伴う地質の生成要因や地形の成り立ちと液状化発生履歴との関係を原位置試験や室内試験、微地形解析から調べ、予測精度を向上させるためのパラメーターを抽出する。最終的には、南海トラフ地震による液状化被害が想定された高知市街を対象に、微地形、土質などの観点から液状化危険度を再評価し既存のハザードマップ等の精度向上を目指す。


熊本地震で被災した住宅群

被災地のヒアリング調査と簡易測量

原位置試験における土質の堆積環境の推定


「地域防災力向上を目指した地震被害予測マップの構築に関する研究」

 1946年の南海地震では、高知県や周辺各県で地盤振動に起因した構造物の倒壊などにより多くの人的・物的被害が生じた。2011年東北地方太平洋沖地震では逃げ遅れによる津波避難の遅延が見られ、2004年新潟県中越地震では中山間地域間を結ぶ主要道の寸断などにより救援活動が大幅に遅れ、一時的に孤立する集落が散見された。高知県の平野部は盆地構造地形が発達しており、ここに人口・産業のほとんどが集中するが、このような地形では、軟弱地盤が厚く堆積し局所的に揺れが集中し被害が拡大する恐れがある。一方、南海トラフを震源とする地震は被災範囲が広域に渡るため、救援活動に人的資源が集中するため十分な公助が得られない可能性が大きい。率先避難を促すためには、地域の事情に即したリスク分析と住民啓発が肝要で、地震による揺れ易さや液状化、津波災害などを解りやすく表現したハザードマップの作成は、事前に地震による揺れを視覚的に確認できるツールとして有効である。 本研究は、地震動予測手法の高度化に向け、地盤の揺れが卓越する可能性がある 高知県内の海岸平野部や山地が迫る平野部等を中心に常時微動観測を行う。具体的には、行政機関と密接に連携しながら通常のボーリングではとらえられない局所的な軟弱層を250mの密な間隔で推定し、地層構造分布や揺れやすさを面的に評価し、既存の揺れ易さハザードマップを高度化する。また、3次元GPS測量機材による現地画像の収集とそれによる建物の形状分析、木造家屋を対象とした個別要素法(DEM)に基づく倒壊解析を行い、揺れによる避難困難地域の分析し、津波浸水地域の早期避難を促すためのツールを構築する。


常時微動計測による地盤の堆積構造の推定

360°全方位カメラとGPS測量に基づく人口密集地の画像計測


「蛇籠を用いた耐震性道路擁壁の開発」

 蛇篭は、金属性のかご状構造物の内部に礫等を中詰めした自然環境にやさしい構造物で、道路擁壁、砂防施設や河川護岸等の構造物、法覆工、水制工、床止め工などの防災施設に幅広く用いられている。運搬や材料調達が容易で施工性に優れるため、防災土木インフラとして広く活用されているが、耐震性が定量的に示された研究事例はほとんどなく、強地震に対する変形性が明瞭でないなどの課題を有する。一方、2004年の新潟県中越地震や2008年の岩手・宮城内陸地震では、コンクリート擁壁等が被災しているにも拘わらず、蛇篭の持つ屈撓性が発揮され、地震による地盤変形に追随し崩壊を防いだ事例が報告されている。2015年のネパール地震においても、道路法面の崩壊を抑制するためのコンクリート製擁壁に被害が集中していたが、蛇篭擁壁は崩壊に至らず、その後の大雨により斜面災害が生じた地点であっても孕み出し程度の被害に留まる例が多数確認された。特に、自然環境に厳しい東南アジアでは、施工の容易な蛇籠構造物が多用されている反面、蛇篭の製作過程や設置は経験側に則るため、設置後の健全性はまちまちで施工直後から崩壊するものも多い。本研究では、産学官が連携し、蛇籠中詰土の粒子配列や番線の拘束効果、蛇篭間の摩擦特性等の力学特性を室内試験や数値解析により明らかにし、耐震性を有する道路擁壁の開発と性能評価手法を提示する。さらに、発展途上国の経済的事情を勘案しながら、広く認知された蛇篭道路擁壁の有用性を定量的に評価し、低コストで迅速に施工できる防災土木インフラの普及を目指す。


蛇籠による地震被災地の復興(新潟県旧山古志村)

蛇籠の道路擁壁への活用例(ネパール国)

改良蛇籠の設置と技術支援(ネパール国)


地盤防災学研究室の研究に関する基本方針

  1. 大地震に負けない施設・人づくりに寄与する
  2. 社会に役に立つ研究
  3. 高知大だから出来る独創的な研究
  4. 国・県・市町村・地域社会に信頼される研究室
  5. 社会に開かれた研究室

地盤防災学研究室の教育に関する基本方針

  1. 地盤の研究から人間性を磨く
  2. 自由と責任を自覚した社会人を目指す
  3. 創意と工夫につとめる技術者を目指す

(教育方針は、指導教員の恩師である國生剛治中央大学名誉教授の教えを受け継いでいます)

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