研究テーマ
早いもので,高知大学に転任してから,もう10年が経過してしまいました。
大学の状況も大きく変わってしまいました(学生気質と修練度,研究費(校費)に教育duty…,昔は良かった)。
現在の高知大学では,(少なくとも筆者の分野では)20世紀型の「研究室」という「集団での研究」は極めて困難になってしまいました。
「研究」はあくまで「個人研究」として,「教育」とは切り離して行わねばならないのが現状です。
老眼も出始め,エタ沈の沈殿も見えにくくなってきましたが,自分一人でできるところまでやるしかないと考えています。
少なくとも年1報のinternational journalへの論文執筆を目標としていますが,さて,いつまで続けられるものやら。
現在,私が手がけている研究テーマは主に以下の2つです。
主に無脊椎動物の遺伝子・タンパク質を研究対象とし、
ささやかでも何らかの「新しい」知見を見出していきたいと考えています。
一応,生化学研究室なので主として生化学的な解析を行っている訳ですが、
遺伝子・タンパク質の進化的側面にも興味を持っており、
「比較進化生化学」とでもいうべき分野を展開していきたいと考えています。
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1. トリプトファン分解酵素(indoleamine 2,3-dioxygenase: IDO)の分子進化と機能に関する研究
インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO1)は哺乳類に特有なトリプトファン(L-Trp)分解酵素として知られてきた。2007年,脊椎動物に広く保存されている新規IDOホモログ(IDO2)が発見され,IDOの分布域は脊椎動物全体にまで拡大した(Yuasa et al. 2007)。IDO1と比較して,IDO2のL-Trpに対する基質親和性・触媒効率は共に低く,生理的機能は依然不明である。しかし,種間のアミノ酸配列の保存性はIDO1より高く(機能的制約が高い),また,マウス腎臓でIDO1とは異なる発現分布を示すことから,何らかの根源的な機能を持つものと予想されている。
一方,近年のゲノム計画により多くの真菌類にもIDOが存在することが示唆された。筆者が酵母(Saccharomyces cerevisiae)とコウジカビ(Aspergillus oryzae)について解析したところ,コウジカビには遺伝子重複によって生じたと考えられる2つのIDO(IDOαとIDOβ)が存在し,酵素特性の類似からIDOαが酵母IDOの機能的ホモログであると考えられた(Yuasa and Ball 2011)。一方でIDOβは通常時の発現量は低く,基質親和性もIDOαに比べて低いが,反応速度はIDOαの40倍と極めて速く,結果,触媒効率はIDOαの約4倍にもなる。詳細は不明であるが,何らかの機能的な役割分担がなされていると予想される。更にごく最近,コウジカビのゲノムを詳細に検討したところ,第三のIDO遺伝子(IDOγ)が発見された)。IDOγは真正子嚢菌(カビの仲間)で広く保存されているが,その分子系統樹上における位置はIDOα,βとはかけ離れていた。また,興味深いことに,調査した5種の真正子嚢菌の全てにおいて,IDOγの基質親和性,触媒効率は非常に低く,その値は脊椎動物IDO2に酷似していた。即ち,脊椎動物と真正子嚢菌で,進化的には完全に独立に,低触媒効率IDO(IDO2とIDOγ)が保存されていることになる。また,IDOγと高い相同性を示すIDO様遺伝子が,繊毛虫(Tetrahymena)や一部の担子菌(Ustilago)からも見出されている。
2. II型カルシフォシンの進化と機能解析 (金欠により,現在休業中)
カルシフォシン(calcyphosine;以下calcyと表記)はCa2+を結合し、
cAMP依存的にリン酸化を受けるタンパク質として1980年代にイヌの甲状腺から見出されたタンパク質である。
生体内の2つの主要な情報伝達経路であるCa2+シグナリング系とcAMPシグナリング系を
橋渡しする分子である可能性が示唆され、一時期注目を浴びた。
しかしその後ヒトの甲状腺での存在量は極めて低い事、マウス等の齧歯類では偽遺伝子化している事が判明して、
calcyに関する報告は近年ほとんど見られなくなった。
時は流れて2002年、筆者が海綿動物に属するカイメンからカルモジュリン(CaM)cDNAをクローニングした際に、
副産物としてEFハンド型Ca2+結合タンパク質をコードしている新規遺伝子を偶然に単離した。
相同性検索を行った結果、そのカイメンの遺伝子は哺乳類calcyとアミノ酸レベルで約40%もの相同性を示し、
また遺伝子構造も酷似していた事から、単離された遺伝子はカイメンのcalcyホモログであろうと推測された。
しかしながら近年のEST解析により、ヒト及びマウスの精巣で、カイメンcalcyと同様に208残基から構成され、
アミノ酸レベルで60%以上の相同性を示す遺伝子が発現している事が判明、更にホヤを始めとする多くの無脊椎動物にも
そのホモログの存在が明らかとなってきた。
分子系統樹上でも、これら哺乳類の精巣の遺伝子は系統的に近縁な哺乳類の甲状腺のcalcyとではなく、
系統的に疎遠であるはずのカイメンcalcyと強固なクラスターを組むことから、
筆者はこれらを従来から知られていた哺乳類の甲状腺のcalcy(I型calcy)と区別してII型calcyと名づけた。
II型calcyは後生動物の進化過程で高い保存性が維持されてきている事から、何らかの根元的な機能を司るタンパク質である事が予想される。
II型calcyの諸性質、機能、及び後生動物における普遍性を解明していきたいと考えている。
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