◆ 魚肉軟化と細胞外マトリックス分解 ◆

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1.魚肉の軟化とは?  2.冷蔵中の筋肉構造の変化  3.体を支える細胞外マトリックス
 4.コラーゲン分解に関わる酵素  5.魚の組織中のコラーゲン分解活性  6.産卵期のアユでの活性発現
 7.刺し身の軟化に関わる酵素活性  8.軟化に関わる酵素遺伝子  9.TIMP (MMP阻害タンパク質)
10.死後でも生きている? 11.今後の課題 12.お礼

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6.産卵期のアユでの活性発現

■ 産卵期のアユも筋肉が軟らかくなる

   冬に川の下流で孵化したアユは、海へ下り冬の間を過ごします。春から夏にかけて川の上流へ向かって遡上しながら成長していきます。夏の終わりから秋にかけて精巣や卵巣が発達し、産卵期を迎えます。これらの生殖腺の充実のために他の部位のタンパク質分解が進むことにより、この時期のアユの肉は柔らかく、水っぽくなると言われています。7月の成長期のアユと9月の産卵期のアユ筋肉組織の比較により、マイワシの冷蔵中に観察された変化と同様に、筋肉内の結合組織の網目が疎になることが観察されています(Itohら, Nippon Suisan Gakkaishi, 58, 1553, 1992)。


■ 産卵期アユ筋肉でのコラーゲン分解

   コラーゲンの特徴の項で述べたように、コラーゲンには特有なアミノ酸としてヒドロキシプロリンが含まれています。そのため、組織中のヒドロキシプロリン量を測定するとコラーゲン分解が進んでいるかどうかわかります。成長期である7月と産卵期である9月のアユの筋肉と血清中のヒドロキシプロリン量を測定したところ、オスでは筋肉中のコラーゲン態のヒドロキシプロリン量が減少するとともに遊離ヒドロキシプロリン量が増加しました。また、メスでは筋肉の遊離ヒドロキシプロリン量は減少しましたが、血清のヒドロキシプロリン量が増加しました(Toyoharaら, Fish. Sci., 63, 843-844, 1997)。この結果は、筋肉タンパク質(コラーゲン)の分解→筋肉内アミノ酸の上昇→血清へ以降→産卵期の生殖器の充実という図式をあらわしているのかもしれません。


■ ゼラチン分解活性はアユの産卵期にも誘導される

   このように産卵期のアユでもコラーゲン分解が生じている可能性が考えられたので、産卵期筋肉中のゼラチン分解活性を調べてみました。右の図は異なった生殖腺の成熟度を持つ、オスとメスそれぞれ5個体の抽出液のザイモグラフィーです。オス、メスそれぞれ、生殖腺の発達途上にある個体で60kDa付近と25kDa付近に強い活性が検出されました(Kubotaら, Fish. Sci., 64, 1001-1002, 1998)。

   そこで次に、成長期と産卵期のアユそれぞれ数十匹分の筋肉から抽出液を調製し、ゼラチン分解活性を精製してみました(Kubotaら, Fish. Sci., 66, 574-578, 2000)。すると、成長期(7月)では活性が全くみられなかった画分に、産卵期(9月)ではゼラチン分解活性が検出され(下左図)、阻害剤を加えて反応させたところ、セリンプロテアーゼと金属プロテアーゼの阻害剤で活性の減少および消失が観察されました(下右図)。



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