◆ 魚肉軟化と細胞外マトリックス分解 ◆

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1.魚肉の軟化とは?  2.冷蔵中の筋肉構造の変化  3.体を支える細胞外マトリックス
 4.コラーゲン分解に関わる酵素  5.魚の組織中のコラーゲン分解活性  6.産卵期のアユでの活性発現
 7.刺し身の軟化に関わる酵素活性  8.軟化に関わる酵素遺伝子  9.TIMP (MMP阻害タンパク質)
10.死後でも生きている? 11.今後の課題 12.お礼

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3.体を支える細胞外マトリックス

■ 細胞外マトリックス成分が体を支えている

   動物の体は多数の細胞から構成されています。ヒトの場合、その数は60兆とも70兆とも言われています。しかし、体を構成しているのは細胞だけではありません。多数の細胞が肝臓や心臓など体中の各器官を正しく形作るためには、細胞の外側で細胞どうしの接着や引っ張りや圧縮などの外圧に対抗するため強度を持った構造の存在が必要となります。細胞外マトリックスは、このような働きをする物質の総称で、現在までに、非常に多くの成分の存在が明らかにされています。


■ コラーゲンは細胞外マトリックスの主要タンパク質である

   量的・質的に最も主要な役割を示すタンパク質の一つとして「コラーゲン」が一般的に良く知られています。コラーゲンは生体内で一番多く含まれるタンパク質で、骨、皮、腸、皮膚などに大量に含まれるほか、ほとんどの器官に存在しています。コラーゲンは他のタンパク質にないユニークな特徴を持ちます。

1.様々な太さや形状の繊維を形成できる
   繊維を形成するタンパク質はいろいろありますが、コラーゲンほど分子の種類が多様なものは他にありません。(参考) 東京大学大学院総合文化研究科の水野一乗先生のHP (文字化けする場合は、表示−エンコード−日本語(シフトJIS)で変換)

2.細胞や多くの種類の細胞外マトリックス分子に結合できる
   単に強度を保つために存在するのではなく、細胞外の種々の物質と細胞の橋渡しをしています。

3.生体液中では溶けない
   体中に多くのタンパク質が溶けた状態で存在しますが、コラーゲンは、1.分子の性質自体が不溶性、2.分子の間に架橋がかかっていることから反対の性質を示します(下図)。

4.加熱により簡単に溶けるようになる
   動物が生きている状態ではとても溶けにくい性質を持つのですが,加熱により簡単に変性して水や生体液中に良く溶けるようになります。これがお菓子の材料として使われるゼラチンです(下図)。

5.分子は3重らせん構造を持つ
   タンパク質なので,アミノ酸がペプチド結合でつながっていますが、コラーゲンとしての機能を発揮するためには3本が規則的にらせん構造をとる必要があります (下図)。この3重らせん構造をとるために、コラーゲンを構成するアミノ酸のうち2番目に多いプロリンの一部が水酸化されてヒドロキシプロリンとなっています。

6.多くのプロテアーゼが3重らせんを切断できない
   このコラーゲン特有の構造は、後述する一部の酵素を除いては分解することができません。




■ プロテオグリカン・グリコサミノグリカンは細胞外マトリックスに存在する多糖類である

   細胞外にはコラーゲンのようなタンパク質以外に、巨大な糖鎖であるグリコサミノグリカンやこれがタンパク質に結合したプロテオグリカンが存在します。この糖鎖は多量の水をひきつける性質を持ち、外圧に対して抵抗する機能を果たしていると言われています。また、細胞の増殖・分化に関わる因子を結合したり、他のマトリックス成分と相互作用することも知られています。(参考) FCCA (Forum Carbohydrate Coming of Age)のHP


■ 魚肉の構造変化の一因はコラーゲン分解である

   魚肉の顕微鏡写真で観察されていた白い網状の繊維はコラーゲンであると考えられています。冷蔵後に網目がスカスカになっていたことから、冷蔵中の魚肉ではコラーゲンの分解が起こっていることが想像できます。京都府立大学の佐藤先生のグループにより、数魚種の筋肉で生じるコラーゲンの死後変化が調べられています(Satoら, J. Agric. Food Chem., 45, 343-348, 1997他)。顕著な軟化の観察されるマイワシやニジマスで、魚肉中に観察されている繊維性コラーゲン、I型コラーゲンとV型コラーゲンのうち、V型コラーゲンに特異的な分解が見出されています(下図)。



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