◆ 魚肉軟化と細胞外マトリックス分解 ◆

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1.魚肉の軟化とは?  2.冷蔵中の筋肉構造の変化  3.体を支える細胞外マトリックス
 4.コラーゲン分解に関わる酵素  5.魚の組織中のコラーゲン分解活性  6.産卵期のアユでの活性発現
 7.刺し身の軟化に関わる酵素活性  8.軟化に関わる酵素遺伝子  9.TIMP (MMP阻害タンパク質)
10.死後でも生きている? 11.今後の課題 12.お礼

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

4.コラーゲン分解に関わる酵素

■ 細胞外マトリックスタンパク質は常に作り変えられている

   体を構成しているタンパク質は常に作り変えられることは古くから知られていました。しかし、骨や腱など強固な組織に含まれるコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分はほとんど代謝されないと考えられてきました。カエルへ変態するおたまじゃくしのしっぽでコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ)が発現し、コラーゲン分解を引き起こしていることが1960年代に発見されました。その後、このコラゲナーゼに似た酵素が、個体発生の様々な過程や出産後の子宮の退縮など、急激に組織が小さくなったり変形したりする部分で働いていることが次々と見つかり、金属イオンを要求する酵素であったことから、マトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase; MMP)と命名されました。さらにこのMMPの多くがガン細胞の転移などにも関わっていることが明らかにされ、1990年代になって急激に研究が進展しました。
   現在までに、20種類を超えるMMPが哺乳類で見つかっています。主なMMPの名称と分解基質を下に示します。




■ コラーゲンはMMPにより分解される

   コラーゲンの構造のところで示したように、コラーゲンに特徴的な3重らせん構造は普通のタンパク質分解酵素では切断できません。しかし、このMMPのうちいくつかは、コラーゲン3重らせんを切ることができます。おもしろいことに、MMPはコラーゲン3重らせんの特定の場所を3本同時に切ることができます。切られた結果、生体内で繊維を形成していたコラーゲンの性質が変化し、変性してゼラチンになると言われています。繊維を形成することができなくなった不要なゼラチンは細胞に吸収されて分解されてしまいます。(下図)




■ MMP活性の多くはゼラチンザイモグラフィー法で検出される

   現在では、20種類以上知られているMMPの多くが1980年代までなかなか発見されなかった理由に、活性の低さが挙げられます。体を支えている細胞外マトリックスが次々と分解されてしまっては、体が溶けてしまうかも知れないので当たり前かもしれませんが・・・。その後、MMPの研究が飛躍的に発展した理由の一つは高感度な活性検出法であるゼラチンザイモグラフィー法が普及したためだと考えられます。コラーゲンの変性物であるゼラチンが多くのMMPの基質であることを利用した方法です。生化学・分子生物学実験でタンパク質を分析するのに広く用いられているSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動のゲルへゼラチンを混ぜておき、MMPを含んでいる試料をこのゲルで分離した後、酵素反応を行います。MMPは分子の大きさによってゲルの中を決まった距離だけ移動し、その場にとどまってゼラチンを分解します。反応後、ゲルをタンパク質染色剤で染めると、酵素の部分だけ染まらずに透明なゲルとなります。(下図)



←3.体を支える細胞外マトリックスへ