◆ 魚肉軟化と細胞外マトリックス分解 ◆

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1.魚肉の軟化とは?  2.冷蔵中の筋肉構造の変化  3.体を支える細胞外マトリックス
 4.コラーゲン分解に関わる酵素  5.魚の組織中のコラーゲン分解活性  6.産卵期のアユでの活性発現
 7.刺し身の軟化に関わる酵素活性  8.軟化に関わる酵素遺伝子  9.TIMP (MMP阻害タンパク質)
10.死後でも生きている? 11.今後の課題 12.お礼

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5.魚の組織中のコラーゲン分解活性

■ 多くの魚類組織でゼラチン分解活性が検出される

   MMPはコラーゲンを分解できることから、魚肉の軟化の一因と考えられるコラーゲン分解にMMP活性が関与することが予想されました。哺乳類ではMMPに関する多くの研究が行われてきましたが,魚類MMPに関する知見が全くありませんでした。そこで、魚の組織中に活性が検出されるかをゼラチンザイモグラフィー法で調べてみました。
   右に示したのはブリの10種類の組織から5倍量の生理緩衝液による抽出液を調製し、その中に含まれる活性を調べたものです(Kubotaら, Fish. Sci., 64, 439-442, 1998)。分子量約80kDaに全ての組織に共通して白く抜けた活性バンドが検出されます。また、65,55kDa付近にもほとんどの組織に活性バンドが検出されます。さらに、組織によってはそれ以外にも活性バンドが検出されています。

   下の図は、ゲルを反応させるときにプロテアーゼの阻害剤を加えたものです。左がセリンプロテアーゼ阻害剤、右が金属プロテアーゼ阻害剤を加えたときの結果です。その結果、左では主に分子量80kDaの活性が、右では65, 55kDaの活性バンドが見えなくなりました。これらの結果から、ブリの組織中で検出される多くのゼラチン分解活性は、セリンプロテアーゼと金属プロテアーゼに由来するものだということがわかりました。魚の培養細胞の活性を用いたザイモグラフィーや抗体を用いた結果等から、セリンプロテアーゼはプラスミン、金属プロテアーゼはMMP、中でもゼラチナーゼ(MMP-2またはMMP-9)ではないかと考えられます。


         セリンプロテアーゼ阻害剤添加

         金属プロテアーゼ阻害剤添加

   他の魚種でも同様の実験を試みたところ、魚種によって多少サイズは異なるものの、セリンプロテアーゼと金属プロテアーゼ由来の活性バンドが多数検出されました。



■ 正常魚類組織の活性は哺乳類のものより強い

   前にも述べたとおり、哺乳類では発生段階や子宮の退縮、ガンの転移など、激しく細胞外マトリックス分解が生じている組織ではMMPの活性が強く検出されます。しかし、正常組織やがん化していない培養細胞ではMMPを精製して濃縮して始めてMMP活性が検出されることが知られていました。一方、魚類では上に示したとおり、組織を抽出するだけで簡単に多数のMMP活性が検出できます。では、本当に哺乳類では活性が低いのかを知るため、ラットを用いて上記と同様な実験を行いました(Kubotaら, Int. Mol. Biol. Biochem., 47, 579-584, 1998)。
   右に示したとおり、筋肉、皮、腎臓、小腸以外の組織では白く抜けたバンドは検出されませんでした。この実験では魚の実験よりも2.5倍多く試料を添加しているのにも関わらず、弱い活性しか検出されませんでした。
   ザイモグラフィー法は定量性に乏しいため、純粋に比較することはできませんが、魚の組織の活性の方がはるかにラットより強く、種類も多いようです。


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