◆ 魚肉軟化と細胞外マトリックス分解 ◆

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1.魚肉の軟化とは?  2.冷蔵中の筋肉構造の変化  3.体を支える細胞外マトリックス
 4.コラーゲン分解に関わる酵素  5.魚の組織中のコラーゲン分解活性  6.産卵期のアユでの活性発現
 7.刺し身の軟化に関わる酵素活性  8.軟化に関わる酵素遺伝子  9.TIMP (MMP阻害タンパク質)
10.死後でも生きている? 11.今後の課題 12.お礼

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10.死後でも生きている?

■ 細胞の死と個体の死

   「魚介類は鮮度低下が速い」。これは、一般的に良く知られた事実です。ですから、生鮮食品の中でも特に鮮度が重要視されています。鮮度低下を起こしている魚肉で何が起こっているかを知るために、これまでに様々な化学分析や物性測定などが行われてきました。その結果、どの教科書にも載っている「死後硬直→解硬→自己消化→腐敗」といった順に変化することや、死後数時間の間にグリコーゲン、クレアチンリン酸やATPが減少し、乳酸の蓄積やpHの低下が生じることなどが明らかにされてきました。しかし、ここでうやむやにされてきたのが個体の死と細胞の死の区別です。普通は、魚が動かなくなったら「死んだ」といいます。魚が死んだから、魚体内では制御が利かなくなるので、酵素反応等が次々と生じて一連の死後変化を引き起こすと考えられてきたわけです。
   しかし、上に示した様な研究結果からは、次のようなことが見落とされてきた可能性があります。クレアチンリン酸やATPが死後の魚肉で数時間かけて減少して消失するということは、その間に何らかの細胞活動が行われている可能性の高いことを示しています。もちろん個体の死という生きているときとは全く異なった状態なので、各細胞は非常事態であることを感じながらクレアチンリン酸やATPを消費して生きながらえようとしているはずです。魚を〆てさばいていると、身がぴくぴく動くことがあります。このことも、死んでいる魚肉の中で細胞がまだ生存している可能性を示しています。
   これらのことから、死後直後の魚肉の中にある細胞が起こす非常事態反応が、魚肉の死後変化に何らかの影響を及ぼしていると考えています。


■ 死後の魚肉における遺伝子発現の変化

   そこで、魚肉の軟化に関係している可能性のあるMMPとTIMPの遺伝子発現の死後変化について調べてみました。その結果、遺伝子によって強い発現の観察された時間は異なるものの、死後直後よりも強い発現を示す時間帯が存在することがわかりました。このことは、上に述べたように魚体の死により、魚肉中の細胞が何らかのストレスを感じて、その反応の結果として新たな遺伝子発現を引き起こしているものと考えられます。


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