■ 刺し身の歯ごたえは冷蔵中に弱くなる
刺し身のおいしさは、歯ごたえ、色、におい、味などの感覚を総合的に判断して感じられています。一般に関東では赤身の、関西では白身の魚が刺し身として多く食べられる傾向にあるようです。マグロなどの赤身ではねっとり感が楽しまれているのに対して、タイ、ヒラメなどの白身では鮮度が比較的高い間の硬さが重要視されています。 魚の種類により元の硬さは異なりますが、死後約1日以内に魚肉の硬さは減少します(右図;近畿大学農学部安藤正史先生のグループ)。 一部例外として、トラフグのように3日後でも顕著に軟らかくならず、薄造りにして食べられているものもありますが、一般的にはあまり長時間冷蔵したものは好まれません。
 一方、死後冷蔵中の魚肉では、"IMP"といううま味物質が時間とともに作られます。これは、全ての生き物のエネルギーの貯蔵を担う"ATP"という物質が魚の死とともに分解されていく途中で生じるものです。 以上のことから、白身の刺し身の食べ頃は硬さとうま味が適度にかみ合った時だと言えそうです(左図;京都大学名誉教授坂口守彦先生,うまさを究める,かもがわ出版を改変)。
■ 食べ頃に合わせて刺し身の加工時間を調整する
最近では、この食べ頃から逆算して適時に刺し身の加工が行われています。刺し身が食卓に登場するのが夕食時と考えると、魚を〆るのは真夜中が良いことになります。ある加工会社では、夕方が始業で、夜の8時頃から夜中2時頃までの間に種々の刺し身がパック詰めされて出荷されています。明け方、各スーパーマーケットの配送センターで仕分けされた後、午前中から昼過ぎにかけて店舗へ並べられ、夕食に登場することとなるわけです。 |