海産多核緑藻タマゴバロニア（Valonia macrophysa）は仕切のない風船状の巨大細胞である。タマゴバロニアの藻体は細胞表面に形成されるレンズ状細胞によって栄養的に殖える。本研究では，タマゴバロニアのレンズ状細胞の形成過程における核と葉緑体の挙動を調べた。
栄養細胞における葉緑体は細胞質表面に薄く１層に均一に分布していた。核は，隣り合う核がほぼ等距離になるように均一に分布していた。レンズ状細胞形成の初期，核と葉緑体はレンズ状細胞が形成される部域に顕著に集合した。核の密度の増加は核分裂による核の数の増加を伴っていた。レンズ状細胞が突出するとき，その細胞の輪郭が明瞭となり，隔壁が形成され始めた。レンズ状細胞の形成が完了するまで，核と葉緑体の高密度状態が続いた。その後，レンズ状細胞が膨張するとき，その基部以外の部分の核と葉緑体の分布密度が減少した。レンズ状細胞の形成はタマゴバロニアの細胞分裂であるとみなすことができる。