バロニア（Valonia utricularis C. Ag.）はミドリゲ目に属する海産の多核緑藻である。バロニアは母細胞表面にレンズ状細胞を形成することによって体形成を行う。本研究では，バロニアのレンズ状細胞形成の過程における核と葉緑体の分布および表層微小管（MT）の配列変化を間接蛍光抗体法により，共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて観察した。
レンズ状細胞形成前の細胞は薄い層をなした原形質が細胞周縁部に一様に分布し，MTは原形質膜に結合して互いにほぼ等間隔で平行配列をした。レンズ状細胞形成が始まると，細胞の局部で葉緑体が集合し，原形質の厚い部分が生じた。また，葉緑体の集合と同時に核の密度も増加した。核分裂はレンズ状細胞形成部で特によく観察され，葉緑体集合部の拡大に伴って中心部から周辺部へと分裂部が移動した。MTは平行配列から葉緑体集合の中心域への放射配列へと変化した。円形の葉緑体集合部の輪郭が明確となるとき，葉緑体集合部のMT配列はランダムであったのに対し，葉緑体集合部外縁のMTは平行配列であった。葉緑体集合部の周縁部から細胞内部へカメラの絞りが閉じるように，求心的に細胞壁が形成され，レンズ状細胞が分裂した。レンズ状細胞内の核は密に分布していたが，母細胞内の核はレンズ状細胞形成前の核の分布とほぼ同じであった。形成されたレンズ状細胞が成長するとき，MTは成長軸方向に配列した。これらの観察結果から，バロニアのレンズ状細胞形成における表層微小管の役割について考察した。
上野昌子・峯一朗・奥田一雄：「バロニアのレンズ状細胞形成における表層微小管の配列変化」，日本藻類学会第20回大会，船橋（1996）
上野昌子・峯一朗・奥田一雄：「多核緑藻バロニアのレンズ状細胞形成における微小管と核の動態」，日本植物学会中国四国支部大会，岡山（1996）