黄金色藻の細胞壁構造
池 恩燮(細胞生物学研究室)

 セルロースは植物の細胞壁の中で結晶化したセルロースミクロフィブリル(CMF)の形で存在する。原形質膜に内在するセルロース合成酵素複合体(TC)が原形質膜上で直接CMFを合成・結晶化し,その大きさと形を制御すると考えられている。TCはフリーズフラクチャー法によって原形質膜割断面に観察される。今までに種々の構造をもつTCが発見されてきたが,同じ系統群に属する種が同一構造のTCをもつことがわかってきた。色素体にクロロフィルaとcをもつ植物は複数の系統群を含むといわれているが,その細胞壁におけるCMFの存在様式や大きさ,形態はほとんどわかっていない。本研究では,クロロフィルaとcをもつ植物のなかで,褐藻と共通の祖先をもつと考えられている多細胞定着性の黄金色藻の一種の細胞壁構造を電子顕微鏡を用いて調べた。試料はサルシノクルシス目の新属新種として記載中の株(E株)を用いた。
 E株の細胞壁断面の超薄切片では,細胞壁は少なくとも電子密度の異なる3つの層が観察された。樹脂を溶解してシャドーウィングした切片では,細胞壁に繊維構造はみられなかった。細胞壁を破砕してアルカリまたは酸で処理した細胞壁断片をネガティブ染色すると,扁平な断面をもつ繊維が観察された。繊維は多数のさらに微細な繊維からなる束構造を示した。フリーズフラクチャー法によって原形質膜割断面のタンパク質顆粒を観察した。原形質膜で規則正しく配列するタンパク質顆粒の集団が存在したが,現在のところ,その集団がTCであるという証拠は得られていない。

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池恩燮・川井浩史・峯一朗・奥田一雄:「抗アルギン酸抗体を用いた黄色植物の細胞壁の免疫電顕観察」,日本植物学会第61回大会,習志野(1997)