緑藻ハネモモドキの多核細胞における配偶子嚢の性分化
原 朋之(細胞生物学研究室)

 ハネモモドキはイワヅタ目ハネモ科に属する海産緑藻である。本種は大型の配偶世代と小型の胞子世代が交代する異型二相の生活史をもつ。配偶体は隔壁のない嚢状の細胞からなり,核相nの多数の核を含む。配偶体は雌雄同株である。雌性及び雄性の配偶子は配偶体の一部(側枝)が膨らんで発達する雌雄それぞれの配偶子嚢で形成される。本研究では,配偶子嚢の性が決定される過程を明らかにする目的で,以下の4点について調べた。1.栄養成長期において,側枝は性分化しているかどうか。2.環境条件が性分化に影響を及ぼすかどうか。3.いつ性が決定されるのか。4.性が決定されるときに,細胞の構造が変化するかどうか。
 個々の側枝は周期的に複数回,雌性または有性配偶子嚢を形成した。温度は配偶子嚢の雌雄比(性比)を変化させた。性比の変化は配偶子嚢が形成される以前の特定の時間帯で起こった。側枝の核の分裂指数が性比の変化する時間帯で増加した。配偶子嚢が形成されるとき,側枝から配偶子嚢に多数の間期核が入り,その後,配偶子形成のために同調的に核分裂した。これらの結果は,1.側枝は配偶子嚢の性を配偶子嚢を形成するたびに決定すること;2.配偶子嚢の性は配偶子嚢形成前に決まること;3.性を決定する特別な核分裂が存在する可能性があること,を示唆する。

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