紅藻フタツガサネの不動精子の形態学的観察
窪内 ゆか(細胞生物学研究室)

 紅藻類の受精は鞭毛をもたない不動精子が雌配偶体に形成される受精毛を認識し,接着・融合することにより行われる。不動精子の細胞外構造として被膜や付属枝が知られており,これらが受精時における初期の配偶子接着に関与していると考えられている。本研究では,イギス科のフタツガサネAnthithamnion nipponicumを用い,被膜と付属枝の形態を蛍光顕微鏡,共焦点レーザー走査顕微鏡,走査型及び透過型電子顕微鏡で観察した。
 精子の細胞は直径約3 µmの球形で,厚さ約2 µmの無色の被膜に包まれていた。精子の細胞膜,被膜の内層(厚さ約1 µm)及び付属枝はともに,FITC-Con Aによる特異的染色によりマンノースを含むこと,また,組織化学的研究から酸性多糖を有することが示された。受精毛への結合を媒介すると考えられる付属枝の形態は細長いリボン状を呈し,長さは約30 µmに達した。1つの精子細胞あたり2本の付属枝がその被膜の内層から伸長していた。電子顕微鏡による観察では,付属枝は微細な繊維状の構造が長軸方向に縦に配列して構成されていることが明らかになった。

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峯一朗・窪内ゆか・奥田一雄:「紅藻フタツガサネの不動精子の形態」,日本藻類学会第21回大会,東広島(1997)