多核緑藻バロニアにおけるマイクロフィラメントの免疫蛍光染色
佐藤 健(細胞生物学研究室)

 ミドリゲ目の数種の多核緑藻では,細胞が障害を受けて膨圧を失うと,急速に原形質が収縮する細胞運動(wound healing)が起こる。障害を受けた細胞表層部に出現するマイクロフィラメント(MF)の束がこの細胞運動に関与することが知られている。バロニア(Valonia utricularis)はミドリゲ目に属する多核緑藻である。バロニアの細胞が分裂するとき,母細胞の原形質の一部が局部的に集合してレンズ状の嬢細胞を形成する。バロニアの細胞分裂で起こる原形質の集合は傷害に対して起こる原形質の収縮運動と同様にMFが関与することが予想される。しかし,いままでにバロニアにおけるMFを観察した報告がない。本研究はバロニアのMFを抗アクチン抗体を用いた免疫高校染色によって観察する方法を検討した。
 バロニアの培養藻体から抽出した可溶性タンパク質をSDS-PAGEで展開し,イムノブロッティング法でアクチンの検出を試みた。市販のいくつかの抗アクチン抗体のうちシグマ社のA2066抗体によってアクチンの標準分子量44 kDa付近のペプチドが標識された。このことから,バロニアのMFを間接蛍光抗体法によって観察するためにA2066抗体を用いた。細胞の最適固定条件および試料作製法を設定し,バロニアのMFの間接蛍光像を得ることができた。MFは原形質膜と葉緑体の間または葉緑体同士の間に分布し,その多くは束状になり,しばしば分岐した。また,対照実験によって以下の非特異的染色像の存在が明らかになった:葉緑体と核の間に分布する網状構造;原形質膜に接して分布する筋状の構造。

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佐藤健・峯一朗・奥田一雄:「多核緑藻バロニアのアクチンフィラメントの観察」,日本植物学会第61回大会,習志野(1997)