遠心によって誘導される多核緑藻バロニアの原形質運動と細胞骨格
櫻井 納美(細胞生物学研究室)

 バロニア(Valonia utricularis)細胞の原形質は,巨大な中心液胞と細胞壁の間に薄い層となって存在する。葉緑体と核は原形質全体にわたって均等に分布し,通常,原形質流動はほとんど観察されない。バロニア細胞を遠心すると,原形質の一部が遠心方向に移動し,葉緑体と核の分布が不均一になる。しかし,遠心された細胞は1-7日の間に葉緑体と核の分布を均一なものに回復させる。本研究では,遠心によって誘導されるこのような原形質の運動と微小管及びアクチン細胞骨格との関連を調べた。
 無傷の細胞では,細胞表層微小管(MT)はほぼ細胞長軸方向に沿って平行配列をしていた。アクチンは葉緑体の周辺に沿って網状に分布していた。細胞を遠心すると,葉緑体と核は遠心基端部で疎に,遠心末端部分で密に分布した。この時,MTの分布は遠心前と変化がなかったのに対し,アクチンは遠心方向に対してほぼ平行に伸長する繊維状配列に変化した。細胞に対して長軸,短軸方向の遠心にかかわらず,遠心後1-7日で不等分布していた葉緑体と核は原形質運動によって均等分布に回復した。繊維状のアクチンは葉緑体が均等分布するまで観察され,その後に原形質運動が停止すると,網状になった。微小管阻害剤による微小管の脱重合は,原形質運動自体には影響を及ぼさなかった。サイトカラシンA, B, C, D, Eのどれもアクチンの脱重合に対してはまったく効果がなかった。バロニア細胞における微小管とアクチン骨格の役割を考察する。

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櫻井納美・峯一朗・奥田一雄:「遠心によって誘導される多核緑藻バロニアの原形質運動と細胞骨格」,日本藻類学会第22回大会,下田 (1998)

奥田一雄・櫻井納美・峯一朗:「多核緑藻バロニア細胞の原形質運動の誘導とアクチンの動態」,日本植物学会中国四国支部第55回大会,米子 (1998)

櫻井納美・奥田一雄:「海産多核緑藻バロニアの原形質流動」,日本植物学会第64回大会,静岡(2000)