渦鞭毛藻Scrippsiella hexapraecingulaの細胞外被の微細構造と形成過程
関田 諭子(発生学・細胞生物学講座)

 渦鞭毛藻の遊走細胞の細胞外被は,細胞全体を取り囲む原形質膜(PM),そのすぐ内側に分布する扁平な小胞(amphiesmal vesicle = AV)からなる。種類によっては,AVの内部に鎧板(thecal plate = TP)と呼ばれる構造を形成する。無性生殖は,遊走細胞が直接二分裂する様式と,遊走細胞が一旦不動細胞になり,その不動細胞の中で分裂が起こる様式がある。後者の場合,形成された遊走細胞は,不動細胞の細胞外被を脱ぎ捨てて泳ぎだしてくる(ecdysis)。無性生殖における細胞外被の形成過程の詳細については,まだ明らかにされていない。海産渦鞭毛藻Scrippsiella hexapraecingulaはAV内部にTPを有志,不動細胞で分裂が起こる種類である。本研究では,S. hexapraecingulaを用いて,(1) 遊走細胞,(2) 遊走細胞から不動細胞になるとき,(3) 不動細胞の中で新しい遊走細胞が形成されているとき,(4) 不動細胞から新しい遊走細胞が泳ぎだしたとき,の4つの段階での細胞外被の構造を超薄切片法とフリーズフラクチャー法によって明らかにした。また,遊走細胞のAVの内部で形成されるTPの構造,特にミクロフィブリル(MF)がセルロースであることを電子回折法によって初めて明らかにした。
 遊走細胞の細胞外日の構造は,最外にPM,その内側にAVが分布しており,TPは1つずつ完全に閉鎖したAVに含まれた。遊走細胞が基物に付着して不動細胞になると,遊走細胞の細胞外被の構造は変化した。まず,PMとAVの外膜が崩壊し,隣り合うAVの内膜が互いに融合して細胞質全体を取り囲む膜(新しいPM)になった。PMの外側には,すでにペリクルとwallが形成された。PMの内側にはAVが新たに形成され始めたが,不動細胞になった直後では,そのAVは入り組んだ網目状の袋の形を呈した。その後,AVは徐々に網の目が小さくなるように全体の体積を増加させて,最終的に個々のAVは網目のない扁平な小胞に発達し,互いに隣り合う部分で密接して細胞表層全体を覆った。不動細胞から抜け出した新しい遊走細胞は,そのAVの内部でTPを形成し始め,1-2時間で完成させた。遊走細胞から分離したTPを弱酸と弱アルカリで処理することにより,不溶性のMFを得た。このMFは,セルラーゼの一種セロビオハイドラーゼIを結合させた金粒子で標識され,かつ,典型的なセルロースミクロフィブリルの電子回折パターンを示した。

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関田諭子・峯一朗・奥田一雄:「渦鞭毛藻Scrippsiella の細胞外被の構造と形成」,日本植物学会中国四国支部大会,松山(1997)

関田諭子・堀口健雄・峯一朗・奥田一雄:「海産渦鞭毛藻Scrippsiella hexapraecinglaの細胞外被の形成」,日本植物学会第61回大会,習志野 (1997)

関田諭子・堀口健雄・奥田一雄:「渦鞭毛藻の鎧板形成とそこにセルロ−スが存在する証拠」,日本藻類学会第23回大会,山形 (1999)

関田諭子・堀口健雄・峯一朗・奥田一雄:「渦鞭毛藻Scrippsiella hexapraecingulaのセルロ−ス性鎧板の微細構造」,日本植物学会中国四国支部第56回大会,高知 (1999)