黄色植物の未記載種における生活史と微細構造
近久 由紀(細胞生物学研究室)

 イタリアのナポリで採集された未記載の海産糸状藻 'Schizocladia ischiensis'(仮称)において,その生活史,微細構造及び色素組成を調べた。
 本種は不規則に分枝する単列糸状体制の藻体であった。成長中の細胞の大きさは2.6-4.0 µm x 8.0-18.4 µmで,1-2個の帯状の葉緑体を含んでいた。成熟した細胞の多くは肥大して球状の形(直径5-13 µm)となり,内部で2-10個の遊走細胞を形成した。放出された遊走細胞は5.0-13.0 µm x 5.0-8.5 µmの大きさで,不等長の2本の鞭毛を側生した。遊走細胞の接合は見られなかった。遊走細胞は基物に着生後,約1日で発芽した。発芽体は単列糸状体制に発達し,18℃の長日条件においては,発芽後7-10日で遊走細胞を形成した。電子顕微鏡によって,葉緑体にはガードルラメラとリング状に分布するDNAが観察された。隔壁には原形質連絡が存在していなかった。成熟細胞においては,形成された遊走細胞の間を不完全に仕切る隔壁が形成されていた。この隔壁は遊走細胞の放出後に崩壊した。遊走細胞の鞭毛基部の移行領域には,トランジショナルヘリックスと呼ばれるらせん構造が観察された。光合成色素の組成は,クロロフィルaとc,及びフコキサンチンであった。以上の結果から,本種の特徴と黄色植物に属する各系統群の特徴とを比較した。

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