多核緑藻バロニアのレンズ状細胞形成における細胞表層微小管の働きについて
岡田 元一(細胞生物学研究室)

 多核緑藻バロニア(Valonia utricularis)は母細胞表面にレンズ状細胞を形成することによって体形成を行う。レンズ状細胞形成では,局所的に集合した母細胞の一部の原形質がその周辺から発達する隔壁によって他の原形質から分離する。そのため,レンズ状細胞形成はバロニア独特の細胞分裂である。本研究では,細胞表層微小管(MT)がレンズ状細胞形成の過程で起こる原形質の運動と隔壁形成にどのように関与するのかを,間接蛍光抗体法および微小管重合阻害剤アミプロフォスメチル(APM)によって調べた。
 未分裂細胞の原形質は薄い層をなして細胞全体に一様に分布し,MTは互いにほぼ平行に配列していた。レンズ状細胞形成の最初の徴候は細胞の局部で葉緑体の集合が起こることであった。葉緑体の集合する領域には,核やその他の原形質も含まれていた。原形質の集合領域は次第に拡大し,集合が始まってから約24時間で集合領域と原形質の境界が明確になった。MTは原形質の集合領域の中心に向かって求心的に配列した。原形質の集合が停止したとき,求心的に配列するMTの先端が円形の原形質集合領域の境界部分で接線方向に曲折した。この段階では,求心的に配列するMT全体は原形質の集合領域の周辺に平行配列するMTと連結せず,完全に独立したMT系を構築した。その後,MTが接線方向に配列していた原形質の集合領域の境界に沿って,葉緑体がリング状に集合した。リング状の葉緑体集合部から隔壁形成が始まった。APMは原形質の集合自体を阻害するのではなく,集合していた原形質の拡散を誘導した。平行配列するMTがAPMによって約72時間で脱重合するのに対し,求心的に配列するMTは処理後約36時間で脱重合した。以上の結果から,バロニアのレンズ状細胞形成におけるMTの約割について考察を行った。

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