多核緑藻キッコウグサの接着細胞の発生と形態形成について
高野 友子(細胞生物学研究室)

 キッコウグサ(Dictyosphaeria cavernosa)はミドリゲ目に属する多核緑藻である。細胞は分割細胞分裂によって一度に多数の孃細胞を形成する。嬢細胞は母細胞内で成長してお互いの細胞が接着した後,その接着面に接着細胞(tenaculae=te)を形成する。本研究では,teの発生と形成過程を明らかにし,teの形成を誘導する要因を調べるための種々の実験をした。
 teは細胞分裂後4-5日で形成し始めた。母細胞から嬢細胞を取り出し,隣接する嬢細胞が接着している細胞壁表面でteがどのように形成されるのかを時間を追って調べた。分裂後4日で,teは母細胞壁側の接着面のかどに形成された。teは,かどの部分から接着面の境界に沿って形成が進み,分裂後6日で1列直線状に形成した。分裂後9日には,個体内側の嬢細胞接着面の境界にも1列直線状に形成した。teは平均38 µm間隔で配列し,隣接する嬢細胞から交互に形成された。分裂後29日で,既に形成されたteの列と平行に更にもう1列のteが形成された。このように,teは嬢細胞同士が接着することによって発生し,接着面の縁に規則正しく列をなして形成することが明らかになった。teの発生が細胞接着によって誘導されるかどうか,およびその形成位置の決定要因を明らかにする実験をした。分裂後,母細胞から取りだした嬢細胞をバロニアやマガタマモの袋状の細胞壁に詰めて培養した。さらに,嬢細胞をバロニア細胞,マガタマモ細胞,イオン交換樹脂,ガラスビーズとともに袋状の細胞壁に詰めて培養した。これらの場合,嬢細胞同士または嬢細胞と他の基物との間にteが形成された。嬢細胞を海水面に浮かせたまま培養すると,嬢細胞表面に海水面との境界にteが形成された。以上の結果から,teの発生を誘導する要因は,嬢細胞表面に海水と直接接しない領域ができることであり,接着によって発生する圧力ではないことが示唆された。

題目一覧へ