巨大細胞性緑藻カサノリにおける葉緑体の強光忌避運動
椎木 陽子(細胞生物学研究室)

 海産緑藻カサノリ類の一種Polyphysa peniculusは円筒形の主軸を持ち,楕円形の葉緑体が細胞の表層全体に多数存在している。また,透明な原形質の「すじ」が長軸方向に十数本配列しており,この「すじ」に沿って葉緑体は細胞内を主軸先端または基部方向に移動している。細胞の一部に強い青色光を照射すると,照射範囲内の葉緑体が照射範囲外に動く強光忌避反応が起こることが知られている。本研究ではこの葉緑体の強光忌避運動の特徴を明らかにするために,顕微鏡ビデオ画像において葉緑体運動の解析を行った。
 光照射開始数秒〜数十秒後に,照射範囲内にあった葉緑体の移動速度が急激に増加し,原形質の「すじ」に沿って高い速度で数秒間移動した後,徐々に減速して照射前の速度に戻った。照射光強度・照射時間を増加すると,移動速度が増加するまでの時間が短くなり,速度の増加も大きくなり,葉緑体が照射範囲外に出た後も,増加した速度がより長く維持されるようになった。一方,照射範囲外にあった葉緑体には速度変化は見られなかった。アクチン細胞骨格阻害剤により葉緑体の運動が可逆的に阻害されたことから,この強光忌避運動には通常の原形質流動と同様に細胞の長軸方向に配列するアクチン繊維が関与することが示唆された。

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