多核緑藻キッコウグサの核分裂と染色体分布
天野美娜(発生学・細胞生物学講座)

 キッコウグサ(Dictyosphaeria cavernosa)はアオサ藻綱ミドリゲ目に属する多核緑藻である。ミドリゲ目緑藻の核分裂は分裂期を通じて核膜が保存される閉鎖型であり,核内に紡錘体が形成されることが知られている。閉鎖型核分裂における紡錘糸の形成と染色体の移動については,未だ明らかになっていない問題が多い。キッコウグサにおいては,動原体が観察されず,染色体の一部が核膜に接近して分布するという報告がある。本研究では,キッコウグサの核分裂を蛍光顕微鏡と電子顕微鏡によって観察し,紡錘糸と染色体との結合および染色体と核膜との結合を調べ,核分裂中における染色体分布を明らかにした。
 配偶子形成期における細胞を固定し,間接蛍光抗体法とDAPI染色によって蛍光顕微鏡で紡錘糸と染色体を観察した。また,連続雪片を電子顕微鏡で観察し,分裂核の構造の立体構築を行った。
 間期核では,核小体は明確に観察された。核内には,中心子が存在し,微小管が核膜の外側に沿って網目状に取り囲んでいた。前期核では,核小体が消失し,クロマチンは凝縮して粒状の染色体になった。2個あるいは稀に3個以上の極が形成された。前中期では,核内に紡錘体が形成され始め,染色体上に動原体が出現した。核内では,二系統の微小管,すなわち染色体と結合する動原体微小管と染色体と結合しない極間微小管が区別された。動原体微小管は動原体と結合し,極間微小管は極付近の核膜内膜の電子密度の高い領域に収束した。格外では,中心子から伸びる微小管が観察されたが,核内に侵入することはなかった。中期では,染色体は赤道面に並び,後期では,染色体が分離し,両極へ移動した。分離した染色体の間に新たな微小管が発達し始め,終期では,二つの孃核の間で長く伸長した中間紡錘体となった。
 間期核のクロマチンのそれぞれは核膜内膜の内側に接していた。紡錘体の形成後,核膜内膜と接する染色体の部分が減少したが,それぞれの染色体は核膜と完全に分離することはなかった。以上の結果から,キッコウグサの染色体移動について考察した。

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天野美娜・峯一朗・奥田一雄:「多核緑藻キッコウグサ(Dictyosphaeria cavernosa)の核分裂と染色体分布」,日本藻類学会第27回大会,三重(2003)3月29日