黄緑藻 Botrydiopsis intercedensにおけるセルロースミクロフィブリルの形成とセルロース合成酵素複合体の構築
吉永臣吾(発生学・細胞生物学講座)

 セルロースミクロフィブリル(CMF)は原形質膜上のセルロース合成酵素複合体(terminal complex=TC)によって合成される。今までに,構造の異なる複相のタイプのTCが見つけられ,同じ系統群に属する植物種は同じタイプのTCを持つことが明らかになってきた。黄緑藻綱におけるCMFおよびTCに関する研究は,フシナシミドロ目に属するフシナシミドロ属の一種(Vaucheria hamata)とフウセンモ属の一種(Botrydium stoloniferum)の2種についてのみ報告がある。本研究では,黄緑藻綱ミスココックス目に属するフウセンモモドキ属の一種(Botrydiopsis intercedens)において,そのCMFの形態とTCの構造を明らかにし,本種と他の2種との間でTCの構造を比較した。また,本種のTC構築の過程を考察した。
 B. intercedensの細胞から化学的に分離したミクロフィブリルを電子回折した結果,そのミクロフィブリルがCMFであることが明らかになった。CMFにネガティブ染色を行い,透過型電子顕微鏡で観察した。CMFの幅は3.0〜17.5 nm(平均値は7.66 nm)の間で大きく変化するのに対し,厚さの変化は3.75〜5.0 nm(平均値は4.35 nm)の範囲内であった。
 本種のTCは以下の特徴を持っていた:(1)TCは原形質膜PF面にのみ存在する;(2)顆粒列がCMFの軌跡に対して複数列斜め階段状に配列する;(3)顆粒列の列間距離が広い(平均6.9 nm);(4)CMFは斜めに傾いた顆粒列の広報先端から発する;(5)TCの幅がほぼ一定(平均56 nm)であるのに対し,その長さは137〜333 nmの範囲で変化する。これらの結果から,B. intercedensがリボン状のCMFを合成すること,TCが斜め階段状顆粒配列からなる構造であることは他の2種と一致した。しかし,他の2種と比較してCMFの厚さが厚く,幅が狭いこと,TCを構成する顆粒列の列間距離が広いことが本種の大きな特徴であった。
 本研究では,今までに知られていないTC様構造が多数観察された。すなわち,CMFの軌跡を伴わないが,TC同様に斜め階段状に配列する顆粒集団と,そのような顆粒集団が2〜5個集まった集合体構造である。さらに,これらのTC様構造は原形質膜だけではなく,細胞内小胞の膜にも観察された。この小胞はゴルジ小胞ではなかった。本種におけるTC形成および構築過程を以下のように考察した:(1)TCの前駆体となる顆粒群がゴルジ小胞とは異なる特殊な小胞で形成される;(2)これらの顆粒群は,小胞と原形質膜との融合により,原形質膜に供給される;(3)これらの顆粒群が原形質膜上で規則正しく斜め階段状に配列する;(4)配列した顆粒群はTCとして活性化され,CMFを合成する。

題目一覧へ

吉永臣吾・関田諭子・奥田一雄:「黄緑藻フウセンモモドキの一種のセルロース合成酵素複合体」,日本植物学会中国四国支部第58回大会,山口(2001)5月12日

吉永臣吾・関田諭子・奥田一雄:「黄緑藻Botrydiopsis intercedensにおけるセルロース合成酵素複合体の構築」,日本藻類学会第27回大会,三重(2003)3月29日

関田諭子・吉永臣吾・末友靖隆・村中愛麻・奥田一雄:「黄色植物におけるセルロース合成酵素複合体の進化」,日本藻類学会第28回大会,札幌(2004)3月29日