先端成長細胞の円筒形部 における細胞壁伸展性
小林 太久(細胞生物学研究室)

 細胞壁の伸びやすさ(伸展性)は植物細胞の成長や形態形成の大きな要因と考えられている。植物細胞の成長様式の一典型である先端成長では,円筒形細胞のドーム状先端部 で局所的に細胞表 が伸展し,細胞は長軸方向に伸長成長する。このような細胞ではやはり先端成長部 の細胞壁が他の部分よりも伸びやすくなっていることが,巨大細胞性黄緑藻フシナシミドロの単離細胞壁に内圧をかけ人為的に伸展させる実験により示されてきた。一方,細胞の円筒形部分では細胞伸長が起こらないことに加え膨圧による大きな応力に耐えて細胞形態を保つためにも,先端部より細胞壁が伸びにくく強度が高いことが予想される。本研究では,本藻細胞壁の円筒形部分だけに内圧をかける実験手法を開発し,それを用いて円筒形部 の細胞壁強度を調べた。
 円筒形部分の単離細胞壁の伸びと破裂に要する内圧(伸展・破裂圧)は 0.8MPa以上であり,先端成長部 に比べて2倍以上を要した。細胞壁をプロテアーゼで処理することにより伸展・破裂圧は著しく低くなった。また,酵素処理により弱くなった細胞壁ではセルロース微繊維間に存在する基質成分が消失していた。これらの結 から,円筒形部分の細胞壁は成長部 に比べ強度が高く,細胞壁の基質成分によりその強度が維持されることが示された。
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