黄金色藻Dinobryon sociale var. americanaにおける細胞外被の構造と形成
大崎 丈二(自然環境科学科専攻・生物科学講座,細胞生物学研究室)

 すべての細胞は細胞外被をもつが,細胞外被の構造や機能,形態形成は生物群によって多様性がある.黄緑藻綱に属するサヤツナギ属藻類はロリカとよばれる細胞外被をもつ.細胞は,壷状の形態を呈するロリカの内部に存在するが,ロリカの開口部分から出る鞭毛で遊泳する.現在までに,ロリカを構成する構造と成分,およびロリカの形成過程は詳細に研究されてきていない.本研究では,黄緑藻サヤツナギ属の一種Dinobryon sociale var. americanaを用い,そのロリカの構造と細胞の微細形態を電子顕微鏡によって明らかにし,さらに,ビデオ撮影により,ロリカの細胞外への瞬間的な出現を初めて明らかにした. ロリカは無定形のマトリックス成分とマトリックス成分に埋没するミクロフィブリルから構成されることをシャドーウィング法によって明らかにした.また,ロリカの円筒側面に沿って帯状にミクロフィブリルが厚く沈着する領域があり,その領域がフルオステインIで強く染色される領域と一致することが分かった.
 ロリカから化学的に分離したミクロフィブリルは,CBH-I金コロイドによる標識と電子回折パターンの分析から,セルロースであると同定された.また,ロリカの断面では,ロリカの外側の層だけがCBH-I金コロイドで標識され,内側の層はまったく標識されなかったので,セルロースミクロフィブリルはロリカの外側の層に局在することが示唆された.
 細胞の微細構造を超薄切片法によって観察した.鞭毛小毛と鞭毛基部のベーサルプレート,眼点と向き合う鞭毛膨潤部が存在することや,葉緑体ERによってつながった核ー葉緑体連合とミトコンドリアに管状クリステをもつことなどから,本種は黄色植物を特徴づける細胞形態を示した.また,本種には,ゴルジ体が顕著に発達し,そのまわりには,形態および電子密度の異なる種々の小胞が多数存在した.巨大な中心液胞をもち,その内部に繊維状の物質をもつ細胞が観察された.
 細胞培養のいかなる時期においても,形成途上であると思われるロリカは観察されなかった.そこで,細胞を10ー20時間に渡って連続的にビデオ撮影し,ロリカの形成過程を追跡した.その結果,ロリカの内部から外へ抜け出た比較的大きい球形の細胞が,細胞内から細胞外へ数分間以内にロリカを放出することを初めて明らかにすることができた.

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