ハエトリソウの捕虫葉の運動に関する形態学的研究
理学コース 生物科学分野    小山 晴瑠菜

ハエトリソウ(Dionaea muscipula)はワナ式の食虫植物である。二枚貝のような形の捕虫葉の内側にある感覚毛に虫が触れると,捕虫葉が急速に閉じて捕虫される。このような捕虫葉の速やかな運動に関する多くの研究がなされてきているが,そのメカニズムの詳細は明らかにされていない。捕虫葉の細胞組織は5つに分けられ,感覚毛がある方から内側表皮組織,内側皮層組織,髄組織,外側皮層組織,外側表皮組織が配列する。捕虫葉が開閉運動するとき,捕虫葉組織の変形が伴うと考えられる。本研究ではまず,同一の捕虫葉を用い,開いた状態と閉じた状態における5つの組織の細胞の大きさを測定した。捕虫葉が閉じるとき,組織間で急速に水が移動することが知られている。本研究では,水が移動するときの原形質膜の構造を調べるため,閉じる途中の捕虫葉を急速凍結固定し,フリーズフラクチャー法によって原形質膜割断面を電子顕微鏡で観察した。
 感覚毛を刺激して捕虫葉を閉じさせ,カミソリで前端部と後端部の半分に分断した。前端部の捕虫葉を窒素スラッシュで急速凍結し,凍結保存した。植物体に付けたままの後端部は,切断後1~3日で開いた。開いた捕虫葉の後端部を葉柄から切断し,窒素スラッシュで急速凍結した。閉じた前端部と開いた後端部の捕虫葉を解凍し,2%グルタールアルデヒドによる前固定および1%四酸化オスミウムによる後固定を行い,アセトンで脱水後,スパー樹脂に包埋し,厚さ約2 µmの切片を作製して光学顕微鏡で観察した。切片上で捕虫の上部・中部・下部別に各組織の細胞の断面積を計測し,閉じた状態と開いた状態の細胞の大きさを比較した。また,原形質膜割断面のタンパク質顆粒の分布を運動中の捕虫葉と開いた状態の捕虫葉との間で比較した。
 開いた捕虫葉の上部・中部・下部の内側表皮組織の細胞は,対応する閉じた捕虫葉の各部の内側表皮組織の細胞よりも有意に大きかった。外側表皮組織では,中部の細胞の大きさにのみ有意差があった。髄組織と皮層組織では,主に上部の細胞に有意差があった。一方,開いている捕虫葉と運動中の捕虫葉の両方の原形質膜割断面のタンパク質顆粒はランダムに分布していたが,運動中の原形質膜にはタンパク質顆粒が分布しない領域がしばしばパッチ状に観察された。
 以上の結果から,ハエトリソウの捕虫葉の運動と細胞形態との関係について考察した。

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