研究内容

1. ストレスによる細胞応答における小胞体の役割の解明と新たな創薬ターゲットの発見

 小胞体はタンパク質の正しい構造の形成や異常な構造を持つタンパク質の分解を行うなどタンパク質の品質管理に重要な細胞小器官です。一方、細胞の生存に 必要な栄養や酸素の枯渇、近年の飽食による過栄養、毒物、ウイルス・細菌感染、変異タンパク質の蓄積や活性酸素など様々なストレスが小胞体ストレスとして 知られており、これらのストレスにより、小胞体内に異常な構造を持つタンパク質が蓄積し、小胞体の機能が低下してしまいます。そこで細胞は異常な構造を持 つタンパク質の再折りたたみや分解を促進し、小胞体の恒常性を取り戻そうとするが、それでも恒常性が取り戻せなかったときアポトーシスが誘導されます。こ れまでに神経変性疾患 (変異タンパク質の小胞体内蓄積が顕著におこる球脊髄性筋萎縮症やハンチントン病、及びパーキンソン病やアルツハイマー病など)、肥満、2型糖尿病や肝硬 変などで小胞体ストレス応答が誘導され、小胞体の機能低下とアポトーシスが疾患の発症や増悪に関与していることが報告されています。このように小胞体はス トレスを敏感に感じとり、ストレスに対抗するためのシグナル応答を誘起しています。
 そこで本研究室では、ストレス応答における小胞体の役割の全容を解明することを目的に、
1. ストレスによる小胞体の構造変化に注目したアプローチ
2. 小胞体と他のオルガネラとの相互作用に注目したアプローチ
3. 小胞体ストレスによるアポトーシスに重要な新規因子の探索 を行っていきます。
そして本研究により明らかになった生命現象から、新規創薬ターゲットとして有望なものがあるかを探索して行きます。




2. 海洋生物が作り出す低分子化合物の薬理作用の解析


 近年、世界中で新薬の開発が困難を極めています。その理由の一つに、探索資源の枯渇があげられます。現在、陸上のあらゆる植物、微生物が探索されつつあ るなかで、注目を集めているのが海洋微生物です。海にはまだ未知の微生物が数多く存在し、利用することで膨大な探索資源の確保が可能になります。一方で、 海に住む生き物はユニークな構造を持つ低分子化合物を作り出していることも良く知られています。実際に、これらの化合物は生体内で様々な生理活性を持ち、 病気の治療に役立つものが数多く発見されていて、多くの医薬品が海洋生物の作り出す低分子化合物を基盤にして開発されています。本研究室でも、ゲノミクス 解析やプロテオミクス解析を行い、ユニークな化合物の新たな生理活性を探索することで、創薬を目指した研究を行っていきます