実験レポートの書き方ガイド
(240221 少し改訂)



ここには,主として藤原が担当する実習のレポートを想定して,注意すべき点や,よくある間違い
を解説します。 レポート作成にあたっては,以下の全ての点を頭に入れて丁寧に書くように
してください。 ここに書く内容の多くは,他の研究室が担当する実習のレポートにも共通だと
思いますが,いくつかの注意事項は分野によって異なると思います。 各科目で受ける指示に
従ってください。

ここに書いてあることは,卒業論文を書くときにも重要です。
“今回のレポートだけ” のことでなく,しっかり身につけて自然にできるようになってください。


スタイルに関する注意:

 1 レポート (report) とは 「報告書」 のことです。 自分の行った実験の結果と,そこから導かれる結論を報告するのがレポートです。 そこに書かれている方法は 「実験の手引き」ではなく,自分が実際に行った実験の手順を報告するためのものです。 ですから,レポートに方法を書くときには自分が実際に行っ たことを過去形で書きましょう。
  当然のことながら 「〜しなければいけない」 とか 「〜するように」 といった表現はレポートには馴染まないですよね?  そういう表現は,実験の web テキストなどをコピー&ペーストして作ったレポートによく見られます。 レポートを読むのはそのテキストを作った教員なんですから,「〜すること!」 などと書かれたレポートを見ると 「誰に向かって言ってんだ,この野郎!?」 なんてことになりかねませんよ。
  また,よくある間違いは 「5〜10 分間処理する」 という書き方です。 5 分間処理したのか,それとも 10 分間処理したのか? あなたが実際に何分処理したのかを書きなさい・・・ってことです。
 2  英単 語や数字,小数点などは基本的に半角で書きましょう。 全角文字で数字を書くと間延びして読みにくいです。
 3  英単 語や数字の途中での改行をしてはいけません

悪い例 (1): 
「NaCl の 分子量は 58.44 であるから,1 mol の NaCl は 5
8.44 g である。だから, 1 リッターの水の中に,58.44 g の N
aCl を溶かせば,その濃度は 1 mol/l すなわち 1 M である。」

悪い例 (2):
「SDS と NaOH の混合液を用いて大腸菌の細胞を溶かすと,DN
A が細胞から出てくるために溶液の粘性が高くなる。」

こういった改行は,数字や英単語を全角で書いている人に多く見られます。 Word で書く場合には,以下の設定をしましょう。
「段落」 → 「体裁」 → 「英単語の途中で改行する」 にチェックが入っているようならそれを解除しましょう。
この設定をしたうえで,半角文字を使えば,Word が,単語や数字の途中での改行を自動的に避けてくれます。
 4 数字 と単位の間にはスペースが必要です。これは,英文を書くときに単語と単語の間にスペースを入れるのと同じ感覚 です。半 角のカッコの外側にもスペースが必要です。 また,半角で書かれたコンマやピリオド,セミコロン,コロンなどの 後にもスペースが必要です。

例: 200 mM NaH2PO4 (pH 7.5) を調製した。
この文章では,以下の 「 _ 」 で示した部分にスペースが必要です。
「200_mM_NaH2PO4_(pH_7.5)_を調製した。」

わかりますか?

また,Word を使っている場合には,半角英数字と全角文字との間に自動でスペースを空けてくれる機能があります。 「段落」 → 「体裁」 → 「日本語と英字の間隔を自動調整する」 と 「日本語と数字の間隔を自動調整する」 の二つにチェックを入れましょう。
全然スペースのない文章はとても読みにくいです。

例: 10mlの200mMTris-HCl(pH8.0)と20mlの1MNaClを混合した。

ね? 読みにくいでしょう? 「M」 と 「NaCl」 がくっついたら, 「MNaCl」 という化学式かと思ってしまうよね?
 5 上に書いたことの補足ですが,「℃」 と 「%」 については,数字との間にスペースを入れません。


文字や言葉遣いに関する注 意:

 1  「緩衝液を調整した」 という文章は間違いです。 ここは「緩衝液を作った」 という意味ですよね。「調整」 には「作る」という意味は含まれません。「調製」なら使えます。 ただし,もともと 「調製する」は,“注文に応じて作る” というような意味で使われる言葉なので,最適な使い方ではないのですが・・・。 それでも,「緩衝液を調製する」 というような使い方は,まあ OK です。
 2  「電気泳動用のゲルを作成した」 は間違いです。「作成」 は,計画を作る,書類を作る・・・などのときに使う字です。モノを作るときには使えません。 モノを作るときや,図面を作るときには「作製」という字を使います。 グラフは図面ですから「作製」 が正しいのですが,ここは 「作成」でもまあいいでしょう。 でも溶液やサンプルを作るときに「作成」 の字を使ってはいけません。
 3  サンプルのことを「資料」と書く人が多いですが,「資料」は文献やデータなどを指します。 実験に使うサンプル(物質)は「試料」です。 字を間違って使わないように。
 4  下の文章のおかしなところがわかりますか?

「37℃ で 30 分間,放置してゲルを固めた。」

放置」 というのは,置きっぱなしにして顧みもせずに捨てておくことです。 37℃ で 30 分間待っている間も,常にゲルが固まったかどうか,気になっているはずですよね。その場合には 「静置」 という言葉なら使ってもいいです。 くれぐれも,大切な実験のサンプルを放置したりしないでください。


結果の書き方について:

 1  例えば,電気泳動のゲルの写真を Word ファイルに貼りつける場合がありますよね。 ゲルの写真やグラフなどといったデータは「結果」に相当します。 で,写真だけを貼り付けて「結果」の記述を終了しているレポートがたくさんあります。でも,説明なしでは報告書になりません。そのゲルのどのレーンのどの バンドに 注目すべきなのかを,図の中に矢印などで示し,レポートの本文中でそれに関 する説明をしてください。電 気泳動に関して言えば,期待された分子量のバンドがあったのかなかったのか? 何本のバンドが出たのか? 強かったのか弱かったのか? 分子量は? それは期待した結果と一致したのか食い違ったのか? その他,気づいたことはないか? そういったことを文章できちんと記述し,それを読む際に写真の中のどの部分に注目すべきかがわかるように,文章中に図を引用して ください。
 レポートの中心はあくまで本文です。 ゲルの写真などといった図は,本文を理解してもらうための補助的な役 割をもつものです。そのことを心得てください。
2
『結果』はデータそのものを見たままに記述するセクションで す。『考 察』は,そのデータから何が読み取れるかを考え,何らかの結論を導き出すセクションです。内容をきちんと区別しましょう。例え ば,「SDS-PAGE で,試料 b に約 36 kDa のバンドが見られた」というのは結果です。そのことから「Ni2+-NTA ビーズに mCherry タンパク質が結合しなかった可能性が考えられる」というのが考察です。わかるよね,その違い。


よくある間違い:

 1  1 M の NaCl 溶液 (濃い溶液 = ストック) を利用して, 100 mM の NaCl 水溶液を 100 ml 作りたいと思います。この場合, 1 M の NaCl を 10 分の 1 に薄めればよいのですから, 1 M NaCl を 10 ml と,水を 90 ml の割合で混ぜれば,最終的に 100 mM の NaCl 水溶液ができますよね。これをレポートに書こうとすると,非常に多くの人が以下のような書き方をします。

「水 90 ml に対して,100 mM NaCl を 10 ml 入れた。」

この文章を素直に読めば,できあがった NaCl 水溶液は 10 mM になりますよね。どう見たって間違いなのですが,現実にほとんどの人がこういう書き方をするのですよ。・・・これはたぶん国語の問題だな。
 2 1 M の NaCl 水溶液を 100 ml 作りたいと思います。 NaCl の分子量は 58.44 ですから,5.844 g の粉を水に溶かした後に全量を 100 ml にすれば,それが 1 M の水溶液ですよね。これをレポートに書くとき,非常に多くの人が,以下のような書き方をします。

「1 M の NaCl 5.844 g を水に溶かして,メスシリンダーを用いて全量が 100 ml になるように合わせた。」

「1 M」 というのは,濃度を表していますよね? つまり, 1 リッターの溶液に対して 1 mol の割合で溶質が溶けていることを表しているのです? では,NaCl の粉を 5.844 g 計りとるとき,この “粉” の濃度は 1 M なんですか? 違いますよね? 粉は水溶液じゃないのだから “濃度” で表すのはナンセンスです。 5.844 g の NaCl の粉を,水に溶かして 100 ml になった時点で,はじめてこの溶液の濃度が 1 M になるのですよ。 だから, 「1 M の粉を溶かした」 という表現は間違いなのです。・・・これもたぶん国語力の問題だな。





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