生物学概論 I (物部キャンパス) 2008
10/14 の質問

第 2 回の講義(10 月 14 日)の質問への回答です。

自分の名前の漢字を間違っている人がいます。 (旧字体と新字体とか,そういうことではありません。)
「手へん」 と 「土へん」 を間違えるような初歩的なミスです。
自分の名前の漢字を間違う人は,大学にはいないからな。
というわけで,その人は欠席とします。
代返するならばれないようにすることだな。



真正細菌と古細菌

(内田君) ラン藻以外で,葉緑体を持たないのに光合成を行う細菌はいますか?
 (答) 真正細菌の中に,藍藻以外に光合成を行うものはいます。前回の質問にも登場したかと
  思いますが,紅色細菌は光合成をします。緑色硫黄細菌も光合成をします。真正細菌は,
  どんな種であっても,葉緑体を持ちません。もちろん,紅色細菌も緑色硫黄細菌も葉緑体を
  持っていません。

(高田さん) 超好熱菌は温泉から見つかったというのは本当ですか?
 (答) 温泉からも見つかりますし,海底の熱水噴出孔(ここは圧力が高いので水温が 100℃ を
  超える場所もあります)などからも見つかります。

(森澤さん) 深海で生きていたり,高温な場所で生きている古細菌は,その場所でしか生きて
  いられないのですか?
 (答) 他の環境で生きられないものもあるでしょう。また,他の環境でも生きられるけれども
  そういう環境に住んでいる真正細菌や他の生物との生存競争に勝てない場合もあるだろうと
  思います。

(大矢さん) タンパク質は 70℃ くらいで失活してしまうものですが,100℃ 以上でも働くことが可能
  というのはどのようなメカニズムによるものなのでしょうか?
 (答) とても重要な質問ですが,あまりよくわかっていないと思います。他の生物と比較して,
  タンパク質を構成するアミノ酸自体に違いはありません。アミノ酸配列は違っているわけですが
  それがどのように高温での構造安定化に関わっているのか,明快な答えはわかっていないの
  ではないかと思います。

バクテリオファージ

(則近さん) 大腸菌 1 つに対して,バクテリオファージは 1 つしか感染しないのですか。
 〜同様の質問: 麓さん
 (答) 複数感染することもあります。一つだけと決まっているわけではありません。

(磯本さん) 過去の授業で大腸菌に感染するのは “T2 ファージ” だと教わったのですが, T4 と
  T2 は同じウイルスなのですか?
 (答) T2 と T4 はよく似ています。少なくとも私は,外見で区別できません。中の DNA がもつ
  遺伝子の配列がちょっと違っているので,違う種のウイルスですが・・・。

(坂部さん) タンパク質の殻と中身の遺伝物質しか持たないはずのウイルスが何故細胞への
  侵入の際に酵素で穴を開けられるのですか?
 (答) これはいい質問ですね。講義に出てきた複雑な形の T4 ファージや類似のバクテリオファー
  ジは,ウイルスの中でも一番大きな部類に属します。そして,殻を構成するタンパクの種類も
  多く,そして実際複雑な形をしていましたね。その中で,細菌の細胞壁にくっつく箇所には
  細胞壁を構成するペプチドグリカンを分解する酵素が数種類含まれているのです。つまり
  殻を構成するタンパクのいくつかが酵素なわけです。他の,もっと単純な構造のウイルスでは
  感染の仕組みも単純です。ウイルス自身が細胞膜などを壊したり穴を開けたりすることは
  できないのが普通です。

(神田さん) ウイルスはタンパク質と核酸のみから構成されていますが,ウイルスが生活する上で
  何かはたらきをおこす上でのエネルギーは何なのでしょうか。また何から得ているのでしょうか。
  必要ないのでしょうか。たとえば,バクテリオファージが細菌に付着した後,DNA や RNA を細胞
  内に注入しますが,膜をとかす作業や核酸を入れるための管をおろす作業にはどのようなしくみ
  がはたらいているのでしょうか。
 (答) ウイルス(バクテリオファージを含む)は,細胞の外においては,どこからもエネルギーを得る
  ことができません。細胞内で,酵素がエネルギーを他からもらう場合には,エネルギーの受け渡し
  のために ATP などが使われますが,バクテリオファージが細菌の細胞壁に結合して細胞壁を
  溶かし,細胞膜に穴を開けて DNA を注入する過程ではたらく酵素類は ATP を必要としないと
  思います。

(川村君) バクテリオファージの仲間の行動はすべて受動的だとすると,なぜ細菌の中で潜伏
  することができるんですか。まるで生き物のようですが。
 (答) 溶菌サイクルに入る(増殖して細菌を破壊する)か,溶原化する(宿主ゲノムに組み込まれ
  て潜伏する)かは,細胞内の化学的な環境によって決まると考えられます。ファージが何らかの
  意図をもって能動的に選択するわけではありません。

(宮田君) 細菌にウイルスの DNA が組み込まれると,細菌が別の細菌に変わったりしないの
  ですか。
 (答) 今日の講義でも少し話しましたが,病原性を示す細菌の多く(たとえば O157 とか)では
  細菌自体のもつ遺伝子ではなく,細菌ゲノム DNA に組み込まれた状態(溶原化していると
  いいます)のバクテリオファージの遺伝子が悪さをしていると言われています。そういう意味
  で,バクテリオファージの DNA が組み込まれた細菌と,組み込まれていない細菌で,違った
  性質をもつようになるということができます。ただし,それは別のの細菌に変化したという
  ことではありません。

(脇さん) ファージのタンパク質を壊す二種類の方法とはどのような方法ですか?
 (答) 講義では曖昧なままでしたね。バクテリオファージは,分子生物学の研究用の道具として
  市販されています。バクテリオファージの DNA の一部に,自分が研究したい遺伝子を組み
  込んで,これを大腸菌に感染させると,目的の遺伝子を増やすことができるので。。。
  このとき,自分の遺伝子を組み込んだバクテリオファージの DNA は,まず最初に大腸菌の
  力を借りずに,殻に包まれた一人前の(?)バクテリオファージの姿にしてやる必要があり
  ます。このときに使うのは,バクテリオファージの殻を壊した,タンパク質溶液です。それは
  2 種類のタンパク溶液からなっています。 1 つは凍結融解を繰り返して抽出したタンパク。
  そしてもう 1 つが超音波で殻を破壊して得られるタンパクです。

ウイルスの感染と生活環

(三苫君) ヒトには感染しないウイルスが突然変異を起こして感染することはありえますか。
 〜同様の質問: 前薗君,後藤君
(上野君) 新種のウイルスなどが発見されることがありますが,ウイルスも進化しているのでしょうか。
 (答) 以前は見たこともなかったウイルスが突然流行し始めることがありますよね。そういう例の
  いくつかは,もともと別の動物を宿主とするウイルスに突然変異が起こってヒトに感染するように
  なってしまったものなんじゃないか,などと言われています。
ただ,そういうウイルスの存在には,
  ヒトで流行が始まってから気づくものなので,元がどんなものだったかはわからない場合が多いです。
  このことからもわかるように,ウイルスの遺伝子は突然変異を起こして変化しやすいです。

(西村さん) ウイルスは,複数の宿主に感染できるものもあると聞きましたが,その場合どうやって
  感染するのですか。
 〜同様の質問: 福永君,鍋島君,杉野君
 〜似たような質問: 長尾さん
 (答) 
ウイルスの宿主は多くの場合,1 種あるいはごく近縁の数種に限られていますが,中には
  比較的広い範囲の宿主に感染できるウイルスもあります。ウイルスが最初に細胞に取りつくときは,
  細胞膜上のどれかのタンパクに結合するのですが,そのタンパクの構造が共通ならば,他の宿主に
  感染することも可能なわけです。宿主が変わっても,基本的に感染と増殖の仕方は変わりません。
  インフルエンザウイルスやアデノウイルスの宿主に関して質問がありましたが,個々のウイルスの
  宿主に関しては,私はほとんど知りません。また,アデノウイルスと呼ばれるウイルスには何十種類
  もあるそうで,それらが感染可能な宿主は,ウイルスの種ごとに違うかも知れませんね。

(蜂谷君) トリの肉腫ウイルスのようにもともとは宿主側にあった形質を取り込んでしまったケースは
  他にもあるのですか?
 (答) ラウス肉腫ウイルスでは src という遺伝子を取り込んでいましたが,それ以外にも,宿主の
  遺伝子を取り込んだウイルスはいろいろいます。たとえば,EGF 受容体遺伝子を取り込んだトリ
  赤芽球症ウイルスや,ras 遺伝子を取り込んだマウスの肉腫ウイルスなどが有名です。ちなみに
  取り込むのは “形質” ではなく,“遺伝子” です。

(高橋さん) ウイルス DNA がすぐに複製を始めるものと,一度染色体に組み込まれるものとは
  ランダムで,わかれるのですか。
 (答) レトロウイルスの場合,一度必ずゲノム DNA染色体 DNA)中に組み込まれる必要が
  あります。この場合は絶対です。一方,バクテリオファージλなどの場合(上の方の川村君への
  回答もちょっと読んでみてください),細胞内の環境によって,大腸菌のゲノム DNA に組み込まれる
  場合と,すぐに複製して菌を破壊する場合とがあります。

(磯本さん) また,これも過去に耳にした話なのですが,RNA を持つ生物は原始的であると聞いたこと
  があるのですが,ウイルスにも適用される説なのでしょうか? 今回の講義を聞くかぎり,RNA をもつ
  レトロウイルスなどはとても原始的とは思えないシステムをもっているので気になりました。
 (答) 生命誕生の頃,最初の生命体の中では,タンパク質ではなく RNA が酵素の役割も担っていた
  と考えられています(RNA ワールドというキーワードでネット検索でもしてみたら,いろいろな
  話題が出てくると思いますよ)。磯本さんが聞いたのはその話だと思います。一方,ウイルスは
  というと,「生きた細胞が存在しない限りウイルスは増殖できない」 ということを考えると,この世に
  ウイルスが誕生したときには,既にそこに完全な機能を備えた生物がいたことになります。従って
  磯本さんの考えはとても鋭いと思います。最初の生命体がウイルスであったということは,あり得ない
  と思います。

(天間君) 宿主 B に感染するウイルス A が,宿主 B の中で増え,増えた A ウイルスが宿主 B の
  細胞膜を被って外に出た場合,A ウイルスどうしがお互いを宿主 B と間違ってしまうことはないの
  でしょうか?
  ウイルス感染の図
 (答) 面白い質問ですね。考えてもみませんでした。そういうことが起こるという話を,私は聞いた
  ことがありません。いい質問ですが,私にはわかりません。エンベロープをもつウイルスの場合,
  感染後に,ウイルス自身のゲノムにある env 遺伝子がコードするエンベロープタンパクを発現し
  このエンベロープタンパクが細胞膜上で集合してきます。そこに,ウイルスの gag 遺伝子がコード
  するカプシドタンパクが結合します。これがきっかけで,ウイルスが細胞膜に包まれ始めます。
  そういうわけなので,細胞膜のどこからでもウイルスが飛び出てくるわけではありません。
  エンベロープの表面には,もしかしたら宿主の細胞自体がもっているタンパクはあまり(or 全く?)
  残っていないのかも知れませんね。

(磯本さん) インフルエンザウイルスは感染した細胞の細胞膜をまとって出て行くとの話ですが
  A さんから出たウイルスが B さんに感染する際,A の細胞膜と B の細胞表面で拒絶反応は
  起こらないのでしょうか?
 (答) これもいい質問ですね! インフルエンザウイルスが感染しようとするとき,その瞬間に
  免疫担当細胞がそこにいれば必ずやインフルエンザウイルスを攻撃することでしょう。その
  ウイルスが他の人から出てきたものであるかどうかより以前に,ウイルスのエンベロープには
  ウイルス特有のタンパク(もちろん B さん自身のタンパクではない)が突き出ているからです。
  しかしながら,感染が成功する場合には,それはあっという間の出来事です。次にウイルスが
  増殖するときには,感染時に持っていたエンベロープ自体は捨ててしまいます。もしも,B さん
  に感染したウイルスが,A さんの細胞膜由来のエンベロープを着たまま,細胞外で増殖する
  としたら,B さんの免疫反応によって駆逐されてしまうかもしれません。しかし,実際には
  ウイルスの増殖は B さんの細胞内に侵入した後で密かに(?)しかし爆発的に行われます
  ので,感染と増殖を防ぐのはなかなか難しいのです。

(北田さん) インフルエンザが,細胞膜のくびれを切るとき,何か酵素がでるのですか?
 (答) インフルエンザウイルスに限らず,エンベロープをもつウイルスが膜を被って細胞外に出る
  ときの仕組みですよね。 ・・・細胞は,細胞膜上のタンパクを必要に応じて細胞内に取り込んで
  分解します。このときには,分解したいタンパクを含む細胞膜の小領域をエンドサイトーシス
  よって細胞内に取り込みます。そうして細胞内に小胞ができるのですが,ここから,分解したい
  タンパクを含む極小の領域を,小胞内にくびり出します。この過程を進めるタンパク (ESCRT I
  と ESCRT II といいますが,これはウイルスではなく細胞自身がもつタンパクです) を,ウイルス
  は勝手に利用します。これらのタンパクのおかげで,細胞膜に包まれたウイルス粒子が細胞膜
  から外側に絞り出されていくそうです。

(大林さん) 私は DNA を持っているもの = 生物だと思っていました。でもウイルスは DNA または
  RNA を持っているが,生物ではないと知りました。ウイルス以外に DNA または RNA を持って
  いるが生物ではないものは他にいますか?
 (答) 植物に感染するウイロイドというものがあります。 「〜oid」 は 「〜のような」 という意味
  です。ウイルスのようなものだけどちょっと違うのでウイロイドです。ウイロイドは一本鎖の環状
  RNA 分子のみでできていますが,その RNA はわずか数百ヌクレオチドしかありません。そして
  その RNA 上には,タンパク質をコードする遺伝子は 1 個ももっていません。つまり,ウイロイド
  に由来するタンパク質は 1 個もないのです。したがって,複製などに関しては完全に宿主の
  酵素類を利用していると思われます。
   それから,プラスミドというものもあります。こちらには感染性はありません。プラスミドは
  環状の二重らせん型 DNA で 1 つ以上の遺伝子を持っています。また,宿主細胞における DNA
  複製の起点となり得る配列をもっていますので,宿主細胞の DNA 中に入ることなく,宿主細胞
  の DNA と同時に複製されることができます。細胞分裂を通じて子孫細胞に受け継がれることが
  できますが,細胞から出て他の細胞に感染することはできません。

(山下さん) 「ウイルスが生物である」 と考える少数派の人たちは,どのような根拠でそう主張
  しているのでしょうか? 「ウイルスは生物ではない」 という考えに対抗できるほどの理由はある
  んでしょうか?
 (答) 自己複製能力・・・でしょうか。生物の定義(条件)としてあげられる事柄はたくさんあります。
  しかし,特に寄生性の生物などにおいて,そういった条件のうちいくつかを満たさない例が
  あるのです。ですから,全部の条件を満たさなければ生物とは言えない・・・という風に
  厳密に条件を適用するのは難しいのですね。そうだとすれば,遺伝子を持っていて自己複製を
  するけれども,他の条件は満たしていないウイルスだって,生物として扱ったっていいじゃないか
  というような考えだと思います。

(くぎゅううう君) 膜をもったウイルスの話を聞いているときに,ミトコンドリアが独自の DNA を
  持った二重膜構造であることを思い出しました。ミトコンドリアはウイルスの一種と言えますか?
 (答) いいところに注目しましたね。ミトコンドリアは,ウイルスよりずっと大きく,細菌と同じくらい
  のサイズです。そして,ミトコンドリアの内部にはたくさんの種類のタンパクが存在しています。
  ミトコンドリアの DNA も,ウイルスのものよりはかなり長く,ウイルスよりはたくさんの遺伝子が
  乗っています。また,ミトコンドリアの内部には多数のリボソームがあって,タンパクを合成して
  います。このリボソームは,細胞質に存在するものと違って細菌のリボソームによく似ています。
  これらのことから,ミトコンドリアは真核細胞共生した細菌が期限なのではないかと言われて
  います。・・・というわけで,ミトコンドリアの起源はウイルスではなく細菌と考えられています。

ウイルスの遺伝子

(竹内さん) ウイルスは DNA か RNA どちらかしか存在しないんですか? 両方存在するウイルス
  もありますか?
 (答) 私の知っている限りでは, DNA か RNA のどちらか一方だけです。カプシドの中に DNA と
  RNA の両方を持っているウイルスはいないと思います。

(尾崎さん) ウイルスによって DNA,RNA ・・・ DNA でも二重らせん状のものをもつなど,さまざまな
  種類にわけられますが,RNA は DNA を転写したときにできるものではないのでしょうか。RNA
  だけをもつということはどういうことですか。
 (答) 例えば講義で紹介したレトロウイルスですね。ウイルスの中には RNA が入っています。
  レトロウイルスのカプシドの中には RNA の他に数分子の逆転写酵素が入っています。ウイルスが
  細胞に侵入すると,ウイルスの RNA を鋳型にして,逆転写酵素が DNA を合成します。 DNA が
  宿主のゲノム DNA に組み込まれます。それからウイルスの遺伝子は発現を始めるのです。
  ウイルスの遺伝子(いまや DNA になっていますね)から,転写によって合成される RNA は
  タンパク合成の設計図ともなりますし,同時に新しいカプシドに包まれて子ウイルスとなります。

(吉見君) 細菌やウイルスの遺伝子の数はどのように見極めているのか。
 (答) ウイルスのもつ DNA や RNA は短いので,配列を全部調べるのも簡単ですし,その配列から
  どんなタンパク質が作られているのかも比較的簡単に調べることができます。そして,そういった
  配列の一部を欠くウイルスの感染能力や増殖能力等を調べることによって,各遺伝子の機能が
  解明されたり,遺伝子がないと思っていた部分に予想外の遺伝子があることがわかったり・・・と
  そういう風に研究が進みます。細菌の場合,細胞内の全 DNA の配列は数百万塩基対あるので
  調べるのは大変ですが,ここ数十年の技術の進歩のおかげで,全配列を調べることも,もはや
  “簡単なこと” と言えるようになりました。

(山崎君) バクテリオファージはたった 44 個の遺伝子でできているということですが,それほど小さい
  遺伝子が,どうしてあのような複雑なウイルスの構造を作ることができるのですか。 44 個の遺伝子
  ということは,文章にすると 44 文字ということだと思うのですが,それだけの情報量でどうして
  体がつくられるのですか。
 (答) 一つ勘違いがあります。私の説明不足だったと思います。遺伝子一つは通常は数百〜数千
  文字の情報量に相当します。それで,44 個の遺伝子を持つバクテリオファージの DNA の全体は
  およそ 4 万文字に相当します。もちろん,それでも完全なバクテリオファージの形をつくるのには
  情報量としては全然足りません。足りない分については,宿主となる細菌の道具(タンパクなど)
  を借用することで補っているのです。

(芝野君) 細菌の遺伝子はウイルスよりもかなり多いが,それは細菌の方が多くの機能をもっている
  ということですか?
 (答) そのとおりです。独立した 1 個の生命体として生きるためにはおびただしい種類のタンパク
  が必要です。それだけ遺伝子数は多くなります。

(村山君) 転写のメカニズムとはどんなものですか。
 (答) これに関しても分子遺伝学のテキストのページ
  http://www.s.kochi-u.ac.jp/~tatataa/genetics/contents.html 
  から,「転写」 の PowerPoint ファイルをダウンロードしてください(ダウンロードは ここ をクリック)。

(栗原君) 逆転写酵素はレトロウイルス特有のものなのですか?
 〜同様の質問: 石田さん
 (答) 実は,細胞も逆転写酵素をもっています。前回の永友君他たくさんの人たちからもらった質問
  を読みなおしてみてください。私たちの DNA は直線状のため,複製のたびに短くなっていきます。
  ある程度以上短くなると,細胞はそれ以上分裂増殖をできなくなり,老化して死んでいきます。
  しかし,考えてみると,生殖系列細胞精子になる細胞)は,数えきれない世代を超えて
  分裂し続けていることになりますよね。実は,こういう細胞では,逆転写酵素が働いていて,短く
  なる DNA を長くするのに役立っているのです。

ウイルスと病気

(川崎さん) 毎年冬になるとインフルエンザが流行するのはなぜですか? インフルエンザウイルスは
  常に私たちの周りに存在している訳ではないのですか?
 〜似たような質問: 船奥さん
(堀内さん) ウイルスはおもにどんな場所や時期を好みますか?
 〜似たような質問: 村上君
 (答) ウイルスは細胞外にあるときは物体と一緒です。自分で場所を選ぶことはなく,小さいので,
  ホコリと一緒に空気中をいくらでも舞います。冬になると,人の方の鼻や喉の防御力が弱まって,
  ウイルスが感染しやすくなるということと,夏の間は暑いので細胞外にあるウイルスが分解して
  感染力を失ってしまいやすいことから,夏には病気の流行はないようです。インフルエンザウイルス
  はエンベロープをもつウイルスです。こういうウイルスの場合,タンパクでできた外被(カプシド
  に比べて,ふにゃふにゃの脂質膜でできたエンベロープがもろいせいで,細胞外のウイルスは
  ちょっとした温度や湿度の違いで不活性化しやすいのです。

(三苫君) ウイルスと聞くと悪いイメージしか持たないのですが,人間にとって有益なウイルスも
  あるのですか。
 〜似たような質問: 吉田君,松崎さん
 (答) 前にも他の人に尋ねられて探してみたことがあるのですが,見つかりませんでした。感染しても
  とりたてて悪さをしないウイルスはいますが,“有益” なものはいないみたいです。

(宮本さん) 人の生活に深くかかわっているのは一本鎖の RNA を持つウイルスということですが,
  それは人に感染するものは一本鎖の RNA のが多いからそう言われているのですか? それとも
  影響が大きいやつがその RNA であることが多いからですか?
 〜同様の質問: 濱口君,山中直人君
 (答) 一本鎖 RNA をもつ,いわゆるレトロウイルスの中には病気の原因になるものが多いので,
  それで目立っているということじゃないかと思います。ヒトに感染するウイルスの中にも二重鎖 DNA
  をもつものもたくさんいます。宮本さんの二つめの考えの方があたっていると思います。

(土屋君) 細胞のトランスフォーメーションとは何ですか?とても格好良い呼び方なので気になりました。
 (答) おなじ生物学でも,分野によって違う意味に使われることがありますが,今日の講義内容に
  関連する分野では,細胞が “がん化” することをトランスフォーメーションといいます。もともとの意味
  は,遺伝子の変化によって細胞の形質(フォーメーション)が変化すること(トランス)を指しています。
  がんは,細胞の中で遺伝子に突然変異が起こることによって生じるので,まさにトランスフォーメー
  ションなのです。

(清水さん) 講義で最後に話していた,地域のみで起こるウイルスというものに大変興味を持ちました。
  一部の地域の外へは出ていかないのですか?
 (答) 他の地域へ出て行くことができないわけではありません。成人 T 細胞白血病のウイルスは,
  感染力が弱いため,ほとんどが母乳を通した母子感染のみなのです。それで一部の地域に(他より)
  多く見られるという傾向があるのです。  

その他

(中尾君) 自分専用のタンパク質を持っているからこそ,臓器移植時に拒絶反応が起こると聞いたん
  ですが,実際,この作業を行うときに,臓器移植が成功するのはタンパク質が似ているからなので
  しょうか? それぞれが全く同じということはあり得ないのでしょうか?
 (答) ヒトは,何万種類ものタンパクをもっています。一卵性双生児以外のどの組み合わせであっても,
  2 人のタンパクを全部比較したときにそれらのすべてのアミノ酸配列が完全に一致することはあり
  ません。ただし,移植の場合に特に問題になるのは,数あるタンパクのうちでも,主要組織適合性
  抗原クラス I)と呼ばれる一群のタンパク質の構造です。これが一致していれば強い拒絶反応は
  起こりません。




生 物学概論 I のトップページに戻る