生物学概論 I (物部キャンパス) 2008
10/21 の質問

第 3 回の講義(10 月 21 日)の質問への回答です。

「なぜ〜なのか?」 という質問には答えにくい場合が多いです。長い年月の間に,偶然が重なって
生物のいろいろな仕組みが進化したからです。あらかじめ計画があって,それに従ってデザインされた
ものではないからです。他の可能性もあった中である一つの選択をしてきただけであって,たまたま
そういう生物が生き残ったということです。「そういう風にできている」としか答えようのないことが多い
のです。



細胞内共生

(麓さん) 細胞内共生でミトコンドリア葉緑体が取り入れられたのなら,それ以前はこれらがなくて
  生きていたのですか?
(竹内さん) ミトコンドリアや葉緑体は,細胞内で共生する前はどんな生活をしていたんですか。
(堀内さん) ミトコンドリアや葉緑体が細菌から生物に取り込まれ,一部となり,それ自身では生きて
  いくことが不可能になるまでどれくらいの時間がかかったのですか。
(山崎君) ミトコンドリアを持つ細胞から,ミトコンドリアを取り除いたら,その細胞は再び嫌気呼吸
  して生きていけるのでしょうか。
 (答) 麓さんの考えについては,そのようにしか考えられないでしょうね。真核細胞に進入した細菌の
  方も,共生をする前は独立生活をしていただろうと思います(竹内さんへの答え)。そして,共生が
  始まったばかりの頃は,まだお互いにかなり自立していたんじゃないでしょうか。そして長い年月を
  一緒に暮らすうちに,次第にお互いに依存するようになっていったのでしょう。今となっては,
  お互いの存在なくしてはもはや生存できません(山崎君への答え)。こうなるまでにどれだけの
  時間がかかったのかについては,興味はありますが,わかりません(堀内さんへの答え)。

(神田さん) ミトコンドリアの起源だと思われる生物は見つかっていますか。
 (答) プロテオバクテリアだと考えられているようです。

(栗原君) 細胞内共生説を否定する声はありますか? それともこの説は確立されているのですか?
 (答) かなり確からしいと思います。これを否定する説を聞いたことはありません。

(上枝さん) ミトコンドリアの DNA が細胞の核に取り込まれているという話でしたが,どのような
  機能をもつ部分が取り込まれてしまっているのかというのは分かっているのでしょうか?
(坂部さん) ミトコンドリア葉緑体が細胞の核に渡した DNA の一部とは,例えばどのような事に
  必要な部分だったのですか? また,その一部がミトコンドリアや葉緑体のものだったと分かった
  のはなぜですか?
 (答) 例えば,私たちの細胞の持っているミトコンドリアの DNA には,ミトコンドリア内で機能する
  リボソーム RNA とかトランスファー RNA などの他,主として好気呼吸電子伝達系を構成
  するタンパク質をコードする遺伝子が乗っているくらいです。ミトコンドリア自体は,複雑な構造を
  していて,たくさんの種類の構造タンパク質や酵素をもっています。たとえば,好気呼吸の TCA
  回路クエン酸回路)はミトコンドリアの内部で進むわけですが,その過程を進める酵素はもはや
  ミトコンドリアゲノムの中にはありません。全部核の中にあります。それらは,ミトコンドリア DNA
  から核へ移動したのか,もともと真核細胞が持っていたものを使っているのかどちらかです。
  また,リボソーム RNA はミトコンドリアゲノムにコードされていますが,リボソームを構成するタン
  パクの方は核ゲノムの方にあります。
   これら,移動した遺伝子は,細胞の方に必要だったというよりも,ミトコンドリアや葉緑体に
  必要なものでした。それなのに,核に渡してしまったのです。また,こういう現象は,もともと細菌
  だったはずのミトコンドリアや葉緑体がもつ DNA 上に遺伝子が少なすぎるということや,それら
  の細胞小器官を形づくり,その内部で働くタンパクをコードする遺伝子が核にあることなどから
  考えられたことです。実際,核に存在する遺伝子の由来がミトコンドリアや葉緑体であったか
  どうかを推測するのは,もうちょっと難しいと思います。

(蝶野君) ミトコンドリアの DNA が,細菌であった時より数が減っているという話があったが,
  他の生物においても DNA が何らかの原因で減るというのはあり得ることなのでしょうか?
 (答) 生物の進化の過程では遺伝子の数は増えたり減ったりしてきました。特に寄生生活を
  するようになると,独立した生活をする近縁の種と比較して有意に遺伝子数が減ります。

(磯本さん) 真核生物内のミトコンドリアが細胞内で増殖する際,外膜も複製されるのは何故
  ですか? 細菌由来の膜ではないのですよね?
 (答) 鋭い質問ですね。細菌由来ではありませんが,細胞は,細胞自身の成長,増殖に伴って
  細胞膜や小胞体膜,核膜など,あらゆる膜を合成して増やしていかなければならないのです。
  あとは,ミトコンドリアの増殖のスピードと外膜の合成のスピードをどうやって同調させるか・・・
  その仕組みをつくることが重要ですね。こういったサイズの調節に関する研究は,動物の胚発生
  や組織の再生の分野で,最近ようやく少しずつ進んできたところです。まだまだ,私たちは
  その仕組みを説明できるほどにはなっていないのです。これからの課題です。

(西村さん) 細菌が真核細胞に入って共生したという出来事は歴史上何回もあるとききましたが
  真核細胞に入れる細菌は限られているのですか。
(福永君) ミトコンドリア葉緑体宿主特異性をもつということになるんですか。
(門脇君) ミトコンドリアや葉緑体は細菌が真核生物に入って共生したということですが,拒絶反応
  などはおこらなかったのでしょうか?うまく共生できなかったことはないのですか?
 〜似たような質問: 前薗君
 (答) 進化史上何度も起こったとは言っても,いままで残っているものを見れば,せいぜい数える
  ほどの回数です。うまく行かなかったケースもたくさんあったのではないかと思います。すべての
  原核生物について試してみたわけではありませんから,その結果も予想できません。また,次の
  北田さんたちへの回答にも書いたように,細胞内共生が起こったのは,遠い過去のことです。
  そのときの地球環境も生物たちも,今とは全然違います。ですから,現在生きている生物を
  使って実験をしても,昔のことはわからないだろうと思います。

(磯本さん) Pelomyxa palustris は細胞内に細菌を共生させているとのことですが,この先,
  Pelomyxa がこの細菌を自身の細胞小器官として完全に取り込む可能性はありますか?
 (答) この共生がいつから始まったのかわからないので,どのくらいの時間を経過しているのかも
  わかりません。もしも,いまの状態で何億年も生きてきたのだったら,この先何億年経っても
  そのままである可能性が高そうな気がします。ただ,気の遠くなるほどの年月ですから,何が
  起こるかは予測できないと思います。

(北田さん) 多くの原生生物が,葉緑体ミトコンドリアをとりこんだように,人間の細胞内に葉緑体
  を取り入れることもできるのですか? 
 〜同様の質問: 山崎君,本橋さん
 (答) わかりませんが,とても難しいでしょうし,たぶん無理だと思います。ヒトは,生物として
  非常に複雑になっていて,その分融通が利かなくなっています。大昔,生命誕生のころ・・・地球上
  にはそれほどたくさんの生命体が満ち溢れてはおらず,進化上の新しい試みに挑戦する機会が
  多くの生物に残されていたのではないかと思います。また,各生物の細胞は比較的単純で,変化
  に対して柔軟(寛容?)だったのではないかと思います。ただ,何しろ昔のことですし,実験室では
  再現できない時間スケールのことですから,専門外の私にはそれ以上何とも言えません。

(三原さん) 三重や四重の膜の葉緑体をもつ植物がいるのは新しく知りました。それ以上(五重や
  六重)の膜をもつ植物はいるのですか?
 (答) 私の知る限りでは,葉緑体の膜に関しては四重が最大です。そういった変わった葉緑体を
  もつ生物は,原生生物です(ユーグレノゾアとかストラメノパイルとか・・・植物ではありません)。

(坂部さん) 三重膜や四重膜の葉緑体があるように,そういうミトコンドリアも存在するのですか?
 (答) 現生の生物がもっているミトコンドリアは,すべて,過去に一度だけ起こった細胞内共生
  由来すると考えられています。葉緑体に見られるような二次共生(一度細菌が共生した真核細胞
  が,さらに別の真核細胞の中に入って共生関係を作ったというような現象)はないようです。

(尾崎さん) 細胞内共生説の例として,ミトコンドリア葉緑体がありましたが,他の例はあるの
  でしょうか。
 〜同様の質問: 和田さん,松崎さん
 (答) 真核細胞の細胞分裂で重要な役割を持っている中心粒も,細菌起源だと言われています。

(松本さん) ウミウシは,他の生物を食べて,葉緑体は吸収せず,自分のものにすると聞きましたが
  なぜ葉緑体だけ吸収されないのでしょうか。生物によっては葉緑体の膜が三重,四重あると言い
  ますが,それも関係して吸収されにくい構造になっているんでしょうか。
 〜似たような質問: 坂部さん,栗田さん
(山本君) ウミウシのように細胞内に取り込んで利用する例は他にどんなものがあるか?
 (答) どうなんでしょう?必ずしもそういうことが理由じゃないような気がします。別の種のウミウシ
  や一部のヒラムシ類は,刺胞動物(イソギンチャクなど)を食べて,その刺胞を自分の武器にして
  しまうそうです。他の動物が藻類や刺胞動物を食べても,その葉緑体や刺胞を自分のものには
  できませんから,単純に消化しやすいとかしにくいとかじゃなくて,そういうものを細胞に取り込む
  積極的なメカニズムがありそうですよね。・・・答えになってないか。。。

原生生物の多様性

(高橋さん) 原生生物の主要な 6 つの分類に属さないもので,あと大体何グループができそうである
  とか少しはわかっているんでしょうか。
(和栗さん) 原生生物の分類について,色々な考え方があるのがわかりました。この分類は,どの
  ようにしてひとつの全員納得するような考え方へまとまっていくのでしょうか?過去の進化過程を
  知ることはできないので,ひとつの考え方へまとまることはないのでしょうか?
 (答) いやー。まだほとんど見当はついていないんじゃないかと思います。過去の進化の過程を
  手に取るように知ることはできませんが,いろいろな証拠(現代にまで残っているような痕跡)を
  一つ一つ丹念に見ていけば,少しずつ理解が進むとは思います。それでも全部を解明するのは
  難しいでしょうね。

(栗田さん) Pelomyxa palustris は 1 つの細胞なのに核がたくさんあるということですが, 1 つの
  細胞には 1 つの核というわけではないのですか?
 (答) そうとは限りません。今日の授業に出てきた変形菌変形体も多核です。また,この回答の
  ページで紹介した子嚢菌類真菌類の中の大きなグループ)の菌糸は,1 個の細胞あたり 2 個の
  核をもっています。私たちの体の中でも,骨格筋は多核ですし,肝臓には 1 この細胞あたり 2 個
  の核をもつような細胞もいるのですよ。

(宮本さん) ホシズナプランクトンの死骸だと聞いていたのですが,そもそもプランクトンとは
  どういうくくりなのですか?
 (答) プランクトンというのは生物の分類学上の括りではありません。水中を漂う生物をまとめて
  いう言葉です。泳ぐことができないか,あるいは泳ぐ力が非常に弱くて,流れに身をまかせて受動
  的に移動する生物のことです。分類群としては,動物やさまざまな原生生物が主だと思います。

(則近さん) ホシズナの中には核など細胞小器官があるのですか。
 (答) ホシズナは有孔虫と呼ばれるグループに属する原生生物ですから,真核生物です。真核
  生物ですから,当然核をもっています。また,その他の細胞小器官も持っています。

ユーグレノゾア

(山本君) ユーグレノゾア生物群は独立栄養生物従属栄養生物もある。どんな特徴をもっている
  ものがユーグレノゾア生物群とされるのか?
 (答) 細胞の前方(移動の方向)に鞭毛が 2 本生えています。そのうち 1 本は後ろ向きに引きずる
  ようにしています。後ろ向きの鞭毛は退化している場合もありますが,痕跡は残っています。
  緑藻二次共生を起源とする葉緑体をもちます(葉緑体をもたない=捨てたと思われるものも
  います)。また,従属栄養のものでは,細胞の前の方に cytostome と呼ばれる捕食用の構造を
  持っていて,これもユーグレノゾア生物群が共有する特徴となっています。

(船奥君) ユーグレナの葉緑体は本来 4 枚あるべきなのに,どうして 3 枚になったのですか。また
  3 枚ということで葉緑体を持つ細胞を 2 度取り込んだからと決める決定的なものになるのですか。
 (答) 決定的というわけではないと思います。膜の数が(2 枚ではありませんが) 多いということに
  加えて,葉緑体のもつ DNA の配列比較のデータが,ユーグレナの葉緑体と緑藻類との近縁性
  を裏付けたようです。

(栗原君) ユーグレナ類の一部がもつ葉緑体と植物の葉緑体とでは膜の数に違いがあるとのこと
  でしたが,それによって機能の違い,メリット・デメリットなどの差はあるのですか?
 (答) 役割はほとんど一緒で,特にメリット・デメリットなどは違わないと思います。

(大石君) 少し変わったミトコンドリアであるというキネトプラストは,他のミトコンドリアとどう違うの
  でしょうか。
 (答) キネトプラストは,もともと鞭毛の根元にあってフォイルゲン染色でよく染まるものを指して
  つけられた名前であり,それはどうもそれらの生物のもつ大きなミトコンドリアの中の DNA らしい
  です。他の生物のミトコンドリアは 1 種類の環状 DNA を持っていますが,キネトプラスト類の
  ミトコンドリアは,大小二つの環状 DNA (マキシサークルとミニサークルと呼ばれます)を持って
  います。また,このミトコンドリアでは,転写された後の mRNA塩基配列が書き換えられる
  という特殊な現象(RNA 編集)が起こっています。また,ミトコンドリアのクリステ(内膜のひだ)
  の構造が両者とも “うちわ型” であり,他の生物のミトコンドリアとずいぶん違っています。

(森澤さん) 授業と関係ないかもしれませんが,睡眠病の治療法はあるのですか?
 (答) トリパノソーマが原因のアフリカ睡眠病の治療に使える薬は開発中のようですが,効き目の
  あるもの(トリパノソーマの増殖を抑制できる薬)が何種類かあるそうです。ただ,一般的には
  ハエに刺されないように注意するのが一番だそうです。

アルベオラータ

(脇さん) アルベオールとは何をしているのか?
 〜同様の質問: 磯本さん,神田さん
 (答) 細胞膜の裏打ち構造を作っていて,細胞の補強に役立っているようです。渦鞭毛藻では
  アルベオールの内部に鎧板を作っていますから,これは文字どおり鎧の役割をしますし,
  繊毛虫では,柔軟だけれども丈夫な外被ペリクル)を作っています。

ストラメノパイル

(竹之内君) 珪藻は葉緑体と共生する前からケイ酸の殻を持っていたのか?
 (答) 珪藻の硬い殻は,化石になりやすいのですが,すごく古いものは別の鉱物に置き換わって
  それが珪藻なのかどうなのかわかりにくくなってしまうそうです。一方,葉緑体の共生は,化石が
  残っているよりもずっと昔に起こったと考えられるので,その時点で何らかの殻を持っていたのか
  どうか,今となってはわからないんじゃないかと思います。

(石田さん) ストラメノパイル生物群の珪藻類はきれいな左右相称なのに,繊毛虫類ラビリン
  チュラ類は非対称に見えます。これは珪酸質の量(もしくは有無)によるものなのですか?
 (答) ラビリンチュラはストラメノパイル生物群ですが,繊毛虫はアルベオラータ生物群です。
  これらは互いに近縁だとされていますが・・・。左右相称性と
珪酸質の量に関する石田さんの
  考察は興味深いですが,どうなんでしょう,わかりません。

細胞性粘菌,変形菌,アメーバ

(竹之内君) 真正粘菌は細胞一つ一つが捕食行動を行うのか。
 (答) 真正粘菌(変形菌)は,細胞質分裂をせずに核分裂だけをするために多核になっています。
  細胞膜で仕切られていないので,言ってみれば全体で 1 個の細胞です。どの細胞が(?)という
  区別はありません。

(大林さん) 変形菌は環境が悪い所で胞子を出して,良い所で胞子から生まれる(?)とありましたが
  環境の良し悪しとはどういう条件なんですか。
 〜同様の質問: 山中君
 (答) 細胞性粘菌では詳しく研究されていて,主としてエサのあるなしで胞子を作ろうとすることが
  わかっています。十分なエサを摂れず,飢えたときに胞子をつくってエサが増えるのを待つという
  仕組みです。変形菌の方はよくわかりませんが,乾燥させると胞子を作るという実験もできるよう
  ですから,それも条件の一つだろうと思います。

(らんらんるー君) 細胞性粘菌は環境が悪くなると集まってくるということですが,何を手がかりに
  して集まるのですか。
 (答) そういう状況になると,粘菌アメーバサイクリック AMPcAMP)という低分子の物質を
  細胞外に分泌します。その物質は放出された細胞から周囲に拡散します。アメーバは,cAMP の
  濃度の高い方へと誘引されると同時に自分自身も cAMP を分泌するようになります。結果的に
  どこかに偶然にアメーバが集まり始めると,ますます多くのアメーバがそこに惹きつけられること
  になるわけです。

(天間君) 粘菌の移動体はどれくらいの距離を移動することができるのでしょうか?
(川村君) 最後に出てきた粘菌は移動したければ(エサとかのために)胞子を飛ばした方が効率が
  よいと思うのですが。
 (答) 細胞性粘菌の移動体は,ほんの一時的なもので,それほど遠くへは移動しません。むしろ
  川村君が指摘したように,胞子が風で飛ばされる方が,距離を稼げるんじゃないかと思います。

(蜂谷君) 細胞性粘菌は最初はアメーバとして動き,エサや水分がなくなると移動体となって胞子
  を作ると聞きましたが,この 2 つの形態は目的以外に異なっていることがあるのですか?
 (答) 移動体の中では細胞の分化が起こります。集合したアメーバの中で栄養状態の悪いもの
  は,移動体の先頭に集まり,将来子実体になる細胞(予定柄細胞)になります。一方,
  相対的に栄養状態のよい細胞は移動体の後側に集まって,予定胞子細胞になります。移動体
  の前側 3 分の 1 か 4 分の 1 くらいの領域に集まった予定柄細胞を全部除去すると,予定胞子
  細胞の一部が予定柄細胞に変化します。このような細胞どうしの情報交換(全体の比率の調節
  など)をするのが移動体の特徴です。

(西村さん) アメーバは環境が悪ければ胞子をつくって待てるので,アメーバが死ぬということは
  ないんですか。
 (答) 死ぬことはあります。アメーバは 1 個の細胞で生きていますから,元来弱々しい生きもの
  です。ただ,多くの原生生物は,乾燥や飢餓などに耐えるためにシスト形成(胞子のようなもの
  になって環境がよくなるのを待つこと)ができます。そういう機能を獲得したことは,弱い生きもの
  が現在まで生き延びて繁栄してきたことと関係あるでしょう。

(一丸君) ずっと乾燥したままのところにアメーバを置いておくとどうなるのですか?
 (答) アメーバというのにもたくさんの種類があると話しましたよね。乾燥への対処法はそれぞれ
  だと思いますが,細胞性粘菌の胞子に関して言えば,乾燥したところに置いておけば相当長い間
  胞子のままでじっと耐えます。

(大賀君) 粘菌が作る胞子は,菌類の胞子と同じものなのですか?
 (答) 細胞性粘菌の場合,アメーバ半数体核相n )です。飢餓状態となって胞子を形成
  するときには,接合減数分裂もせずに,そのまま核相 n の胞子を作ります。つまり無性生殖
  わけです。変形菌の方でも,半数体アメーバを生じるのですが,そのアメーバが接合して二倍体
  (核相が 2n )の細胞ができます。そしてその二倍体の細胞が,細胞質分裂せずに核分裂のみを
  繰り返し,多核変形体となります。変形体が胞子を形成するときには,減数分裂をして半数体の
  胞子を作ります。
   大賀君の質問の中の 「菌類」 というのは真菌類(カビ・キノコなど)のことですよね。真菌類の
  胞子形成は非常に複雑で,一つの種でも何種類かの胞子を形成する例が多数知られています。
  ごく大雑把に見てみると,キノコ類(担子菌類)では菌糸は通常 1 個の細胞に 2 個の核をもって
  います。キノコの傘の下に胞子ができるときには,まず 2 つの核が融合し,その後,減数分裂を
  経て半数体の胞子となります。子嚢菌類(アオカビ,アカパンカビなど多くのカビや酵母,一部の
  キノコ類)では,菌糸は通常半数体で,子実体を作るときに接合が起こって二倍体となります。
  子実体には,減数分裂を経て半数体の胞子ができます。一方,半数体の菌糸も,そのまま減数
  分裂をせずに無性的に胞子(分生子)を作ります。そんなわけで,真菌類の胞子形成は複雑です。
  なかなか比較するのは難しいですね。

(長尾さん) 環境が悪化したときに作られた胞子が発芽するときには,その胞子はすぐアメーバ
  に変わるのですか?
 (答) 途中の段階の別な形態があるか(?)という質問だとしたら,それはありません。胞子は
  耐久性の強い細胞壁をもっており,その細胞壁の殻から,アメーバが這い出してきます。

(山本君) 細胞性粘菌真正粘菌は,南方熊楠が研究していたというものと同様のものですか?
 (答) 南方熊楠さんは変形菌(真正粘菌)の研究をしていましたね。同じものです。

(石川君) アメーバ細胞性粘菌の違いがよくわかりませんでした。
  アメーバの集合体 = 細胞性粘菌?
 〜同様の質問: 青木君
 (答) アメーバというのは鞭毛繊毛でなく仮足を伸ばして運動をする原生生物につけられた
  名前です。俗に 「アメーバ」 と呼ばれるものの中には,系統分類学上ほとんど関係ない様々な
  生物が含まれているようなのです。

(石井君) アメーバは,乾季や雨季がはっきりしているサバンナなどの地域でも生活しているので
  しょうか? ずっと乾季が続くと死んでしまうのでは?
 (答) はっきり言うとわかりません。私の勝手な予想ですが,雨季には大量の水があります。
  川や湖や湿地ができます。また,乾季においても,植物や動物の体内には水があります。
  そういった環境で生きるアメーバもいるのではないでしょうか。それから,アメーバも含めて
  多くの原生生物はシストという構造を作って相当長い期間の乾燥に耐えることができます。
  乾季をやり過ごすくらいのことはできるんじゃないかと思います。




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