生物学概論 I (物部キャンパス) 2008
11/4 の質問

第 5 回の講義(11 月 4 日)の質問への回答です。

後半に入ってきました。講義用の PowerPoint に書いてあること,参考書に書いてあることなどは
なるべくここで答えないようにします。自分で調べてみてください。

宿題のコメントに対する再質問などもあって,ありがたいのですが,この場で全員向けに返事をする
内容とは違うこともあります。そういう内容については,面倒でも直接,質問をしに来てくださいね。
授業の始まる前とか終わった後でもいいし,メールで質問をくれてもいいです。



海綿動物

(大石君) カイメンは,微生物とそれ以外を判別せずに取り込むのですか。
 〜似たような質問: 和栗さん
 (答) そのとおりです。判別しません。小さな単細胞の微生物や,生物由来の有機物の塊とか
  海に漂っている小さなものを食べます。

(長尾さん) カイメンやプラナリアは,吸収した水に含まれている餌の何パーセントくらいを吸収し,
  どのくらい残りカスとして排出するのですか? また餌を吸収しすぎてしまうということは起こるの
  ですか?
 (答) カイメンが,吸い込んだ水の中の餌をどの程度吸収しているのかは,興味はありますが
  わかりません。水質浄化に利用されているらしいですから,結構効率よく食べているのかも知れ
  ませんね。プラナリアは,カイメンよりもっと効率がいいと思いますよ。プラナリアの場合は消化管
  がきちんと備わっていて腸の中で細胞外消化をしますから。

(船奥さん) スライドにあった大きなカイメンは,カイメンの 1 つの幼生が大きく成長したものなの
  ですか?
 (答) たぶんそうだと思います。

(内田君) カイメンの精子はどのように作られるのですか。
 (答) 普通に見られる多くのカイメンは雌雄同体で,1 個体の中に精子も卵も作られて,体内で
  受精して育つそうです。カイメンの卵や精子は,外側の上皮細胞層と内側の襟細胞の層の間
  の中膠mesohyl)(刺胞動物の中膠 mesogloea とは英語では違った単語なのですが日本語
  にすると同じになってしまいますね)にできてくるそうです。生殖巣卵巣とか精巣とか)はない
  ようです。で,起源となる細胞に関してはいろいろな説があったそうですが,おそらく襟細胞から
  分化するようだということです。ただし,私が見た発生学の教科書は相当古いので,今はもしか
  したら違った結論になっているかも知れません。

(上野君) 海綿動物は,細胞をバラバラにしても再生すると言われましたが,プラナリアのように
  未分化の細胞があるからなのですか? それとも他に何か特殊な構造を持っているのですか?
 (答) カイメンの体は数種類の細胞でできていて,ほとんどどの部分の断片をとってきても,それら
  が全部揃っています。カイメンには組織器官がないと言いましたよね。ですからどこを切っても
  同じように全部のタイプの細胞が混ざって入っているのです。で,それらの細胞は,そのままの
  状態で再集合して,またカイメンの形になることができるのです。そんなわけで,プラナリアのよう
  に未分化な幹細胞が体を作りなおしているというわけではないのです。

(磯本さん) カイメンをガーゼに包んでぐちゃぐちゃにすると,細胞がバラバラになって,その細胞が
  再び寄り集まってカイメンになると聞きましたが,カイメンの細胞はどのように運動するのでしょう
  か? 襟細胞鞭毛を用いるのでしょうか?
 (答) 写真でしか見たことがありませんが,アメーバのように仮足を出して移動します。襟細胞は,
  鞭毛を運動のためには使わないと思います。

(松崎さん) 海綿動物は,細胞をばらばらにしても,また再生するとありましたが,死なないのです
  か? 海綿動物の死というのはどのような状況のときに起こるのですか?
 (答) それは難しい質問ですね。ある一塊のカイメンの細胞が全部死んだときが,そのカイメンの
  個体としての死ということになるのでしょうけれども,そもそもカイメンでは何を 「個体」 というか
  わかりませんからね。。。ただ,胚の間は 2 個分の胚がくっついて一塊になることもあるけれど
  成体になったらもう 2 個体がくっついて 1 個体になったりはしないと,発生学の古い本に書いて
  ありましたので,もしかしたら,個体性というものがあるのかも知れません。

(大矢さん) 襟鞭毛虫由来の細胞というのには,例えばどんなものがあるのですか? 独特な形態を
  保っていたりするのでしょうか?
 (答) 動物の祖先が襟鞭毛虫だと考えられているわけですから,動物の体の細胞は,たとえ現在
  襟を持っていようといまいと,すべて襟鞭毛虫由来の細胞だと言うことができます。襟鞭毛虫の
  ような形を残した細胞(襟細胞)は,私たちがよく知っている動物の中で言うと,刺胞動物
  (花虫綱)や棘皮動物に見られるそうです。

(坂部さん) カイメンが植物だと思われていたときの根拠は何だったのですか?
 (答) 私たちの身の回りでは,動物というのはとてもわかりやすい(動物以外の生物と区別しやすい)
  ですよね。それに対して,「動物じゃない生物」 は,昔はみんな植物とされていました。原始的(?)
  な二界説ですね。そこでは,カビやキノコも植物として扱われていましたから,カイメンだって
  “見た目” で植物扱いされてもおかしくはなさそうだと思いませんか?

(竹之内君) カイメンのスポンジになるところは細胞外構造か,細胞の一種類か?
 (答) 細胞外に作られる柔軟性のある骨格です。主成分はコラーゲンに似たタンパク質でできた
  繊維状の物質だそうです。

刺胞動物と有櫛動物

(北田さん) クシクラゲの内部構造は二放射相称なので,放射相称動物とは外見が放射相称のもの
  をいうのですか?
 (答) そうですね。体内の細部の構造がわかってくるまでは,外見で放射相称と言われていたと
  思います。また,長い間,真正後生動物の最初の祖先は放射相称動物だったと考えられていた
  ので,刺胞動物や有櫛動物に見られる二放射相称の構造は,後から少しずつ獲得されたもので
  このグループにおいては派生的な形質と考えられていました。だから,そういう面を多少持ち合わ
  せていても,この動物群は放射相称動物と呼びならわされてきたのです。

(磯本さん) クラゲやイソギンチャクに目はありますか?
 (答) 分類階層としての 「(もく,order)」 ではなくて,物を見る目(め)のことですね。
  眼のある種はありますよ。特に,ハコクラゲ類の中にはとてもよく発達したレンズ眼を持つもの
  (アンドンクラゲだったと思う)が
いるみたいです。イソギンチャクの眼というのは聞いたことがあり
  ません。

(芝野君) 刺胞動物の中には人を死なせるような強い毒をもつものがいると知りましたが,逆に全く
  毒のない刺胞動物は存在しますか。
 似たような質問: 三苫君,山崎君
 (答) すべての刺胞動物は刺胞をもっていて,刺胞には毒があります。ただ,多くの場合,その毒は
  餌となる小動物を麻痺させるのに必要な程度の強さなので,大抵の刺胞動物については,私たち
  が触っても何ともないのが普通です。一部の種だけが強い毒をもっているのです。山崎君からは,
  刺胞が自分の体に触れても大丈夫なのかという質問をもらいましたが,刺胞動物の同士討ちとか
  自殺とかは聞いたことがないので,どういう仕組みでか,同じ種どうしでは刺胞が発射されないか
  毒が効かないのでしょうね。すみません。詳しいことはわかりません。

(青木君) 刺胞動物,有櫛動物はどちらも腔腸を持っているが,腔腸のような特徴的な摂食方法を
  持つ動物は水中にしかいないのですか。
 (答) そうですね。刺胞動物は陸上にはいないと思います。

(中尾君) 刺胞動物の中で,腔腸細胞外消化をして吸収すると聞いたが,消化酵素は人間の
  消化酵素と違うのでしょうか? また消化スピードはどれくらい違うのでしょうか?
 (答) 酵素の構造(アミノ酸配列とか立体構造)は,ヒトの酵素と,似ていても同一ではありません。
  酵素の機能についても,たとえばヒトの酵素は 37℃ 付近でよく働きますが温度が下がると機能が
  低下します。一方,刺胞動物の体温は海水と同じですから,その温度で酵素はよく働きますが,
  逆に 37℃ に置くと失活して働かない場合があります。

(三苫君) 刺胞動物のポリプ型はどのようにして栄養を摂取しているのですか。独立栄養生物なの
  ですか。
 (答) いいえ。動物はあくまで従属栄養生物です。ポリプ型は,イソギンチャクやヒドラのような
  生活をしていると思ってくれたら OK です。

(鳥羽君) ポリプ型クラゲ型のメリットとデメリットは何ですか?
(栗田さん) ヒドロ虫の中にはポリプ型もクラゲ型もとれるものがいるということですが,他のものが
  1 つの形に特化している中,両方の形をとれるというのはやはり有利なものなのでしょうか?
 (答) 海の底の方が海の上の方よりは餌が豊富だと思います。しかし移動できないか,できても
  遅い場合には環境の変化に対応できずに,その場所の多くの個体が死ぬかも知れません。
  一方,海を漂うクラゲ生活は,分布を広げるのには役立つと思いますが,運が悪いと岸に打ち
  上げられてしまったり,魚などに食われてしまう危険性が高いかと思います。素人の考えですが。

(川崎さん) ウリクラゲは複数の色の光のように見えるのですが,細胞によって違う色の光を出して
  いるのですか?
 (答) 有櫛動物の中には発光するものが多いですが,写真で見たときにキラキラ光って見えるのは
  特に櫛板部分の微細な構造が光をいろいろな方向に反射して見える光だと思います。そして,
  その部分の構造の特性によって,角度を変えると光の色が違って見えるのです。こういうのは
  構造色といって,実際の色素とは関係ありません。ある種のチョウの翅は,見る角度によって
  青や緑や金色に輝いて見えますが,それと似た現象です。

(坂部さん) 今のところクラゲ型ポリプ型はどちらが先だと思われていて,その理由となる根拠は
  何なのですか?
 〜同様の質問: 大賀君
 (答) 刺胞動物の中では,イソギンチャクやサンゴが原始的で祖先的と考えられることが多いので
  ポリプ型という説の方に分があると思いますが,決着はしていないんじゃないかと思います。

扁形動物

(栗原君) 血液がない動物の,栄養の循環の方法は扁形動物の腸の例と同じですか?
 (答) そういうわけではありません。扁形動物(プラナリアなど)のように,腸が激しく枝分かれをして
  体の隅々まで届いているという様子は,血管のない他の動物でもほとんど見ることが出来ません。

(吉田君) 扁形動物は,を持ち,肛門は持たないと言われましたが,排泄物はどこから外へ出して
  いるのでしょうか?
 〜同様の質問: 竹内さん
 (答) 扁形動物の消化管内では消化酵素により食物の分解が行われますが,完全ではないようです。
  腸の内壁には食細胞があって,ある程度分解された固形物(?)を食作用によって細胞内に取り
  込んで細胞内消化もするようです。それでも残った食べカスは,再び口から外に出すようです。
  そんなわけで,食べることと排泄することは同時にはできないようですね(当り前か)。 ところで
  関係ない話ですが,私たちの親戚であるヘビは,鳥などの卵を丸飲みした後,何時間もしてから
  殻だけを口から吐き出しますよね。
   プラナリアの話に戻りましょう。全身の細胞の代謝によって生じた老廃物に関しては,原腎管(私
  たちの腎臓のような機能を持つ器官)へ集められ,排出孔から外に出されるそうです。

(石川君) 扁形動物は血管がないのに,どうやって酸素を供給しているのですか?
 (答) 多くの扁形動物はとても小さい(大きくても平べったい)ので,体表から直接酸素を体内に吸収
  し,体内のほとんどの細胞がそのようにして染み込んでくる酸素で必要量を確保できるのです。
  だから血管がいらないのです。

(土屋君) 海にいるプラナリアと川にいるプラナリアとでは体のつくりに違いはないのですか?
 (答) ありますよ。海にいるのはプラナリアとは呼ばず,ヒラムシと呼びますが,一般的には川のと
  比較して横幅が広いです。それと,当然のことですが,海は塩分濃度が高いので,体内の水分を
  奪われないような仕組み(あるいは塩分を排出する仕組み)を発達させないといけませんし,川は
  逆に塩分が少ないので,塩分を奪われないような(あるいは必要以上に水が体内に入らないよう
  な)仕組みが必要になりますよね。これは扁形動物に限ったことではありませんが。

(川村君) 扁形動物の仲間は,なぜ未分化幹細胞がつまっているのですか? 中胚葉由来の
  未分化の細胞のまま,体の細胞として機能しているのですか?
 (答) 一般的な幹細胞がそうであるように,扁形動物のもつ幹細胞も,消耗して死んで脱落する
  体の組織の細胞(腸とか,筋肉とか・・・)を補って,細胞を補給する働きをしています。

(後藤君) 未分化の細胞ネオブラストは,なにか研究され,使われていますか?
 (答) 細胞の分化の仕組みとか,動物の再生の仕組み,逆に細胞の未分化性を維持する仕組みを
  研究する材料として使われています。

(鍋島君) プラナリア以外にも再生する扁形動物はいるのか。
(川村君) サナダムシも切断して分裂しますか?
 (答) サナダムシには,節のような構造が見られますよね。あの 1 つ 1 つが,生殖能力をもっていて
  比較的独立しています。切断しても簡単に再生できます。

胚葉と体腔

(堀内さん) 外胚葉中胚葉内胚葉は,どの順番で作られていくのですか。すべての動物で同じ
  順番なのですか。
 (答) これは難しい質問ですね。実際にはもっと複雑なのですが,ものすごく単純化して答えてみます。
  多くの動物では,細胞の分化をどうにかして人為的に抑制すると,外胚葉(たいていは表皮)だけ
  でできた不完全な個体になります。ただし,そんなとき,本来内胚葉になるはずだった細胞は,
  外胚葉に変化するわけではなく,何ものにもなれないままでいます。正常な胚発生では,内胚葉が
  胚の内部に入り込んで行きます。それと前後して,内胚葉の一部から(動物の種によっては外胚葉
  の一部から)中胚葉の細胞が生じます。中胚葉になるはずだった細胞は,大抵の場合,何らかの
  方法で中胚葉になれないように邪魔してやると,内胚葉あるいは外胚葉になってしまい,中胚葉を
  全く持たない体になってしまいます(当然,とちゅうで死にます)。

(尾崎さん) 二胚葉三胚葉かという説があるようですが,二つの説がでた場合に,これらの動物の
  後に生まれた生物たちの分類や存在した順は異なったりするのですか。
 (答) 刺胞動物の間細胞などを中胚葉性の細胞を見なす場合,刺胞動物は三胚葉か(?)という
  ことになるわけですが,そこの扱いをどうするとしても,そのことによって刺胞動物と有櫛動物が
  左右相称動物と最初に分岐したという構図に大きな変更が要求されることはないと思います。


(蜂谷君) 体腔に液体を満たしたり抜いたりすることによって体の硬さの調節やくねりのような運動を
  すると聞きましたが,その液体はどこからどうやって満たされ,どうやって抜かれるのでしょうか?
 (答) 外部との間で液を出し入れするというわけではなく,体腔の中の体腔液を循環させる・・・
  う〜ん,難しいですね。体の一部分の筋肉を収縮させて,その部分の体腔液を,別の部分に
  絞り出すとか・・・そういう動きによって,体の各部分の硬さや形を変えたりするのに利用される
  と言われます。その結果として,蠕動運動をしたり,砂や土の中に穴を掘ったりする力が生まれる
  ということらしいです。

放射相称と左右相称

(本橋さん) 左右相称から放射相称になった可能性があるとのことですが,海での生活のどういった
  点が,変化する原因になったのか,もう少し具体的にお願いします。
 (答) 一般に,岩などに固着して生活する(ヒドラやイソギンチャクなどのように)場合や,プランク
  トンとして海の中を漂う場合には放射相称の体が適していて,活発に泳いだり,水の底を這い
  まわるような生活には左右相称の体が適していると考えられています。それで,祖先の動物が
  どうだったのか・・・という話になるのですが,そこはよくわかっていないということです。

(麓さん) 左右相称動物が先というのは遺伝子的にも証明できるのか?
 (答) 遺伝子を調べてわかることは,現在生きている動物たちの系統関係です。共通祖先が
  どんな動物だったかは,その系統関係から推測することができるだけです。遠い昔に絶滅した
  祖先動物の DNA 配列を直接調べることはできませんし,仮に DNA の配列がわかったところで
  その動物が左右相称か放射相称かを,配列から推測することは不可能だと思います。

その他

(松本さん) そもそも系統分類を細かく進めていくのにはどのような理由があるのでしょうか?
 (答) 生物の進化の仕組みと道筋をただ純粋に知りたいというのが一つの動機だと思います。
  また,系統や分類を専門にする人以外で生物に関わる仕事をする人(たとえば農学部での
  研究もそうだと思います)にとっては,自分の扱う生物の素性を知ることが,その生物の体の
  仕組みを理解し利用するための基盤となるからです。




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