2016 生物学概論 II
12/27 の質問

第 3 回の講義(12 月 27 日)の質問への回答です。

『分子遺伝学』を受講している人が,そっちの授業で図解入りで何度か答えたような質問を
こっちでもう 1 回しているケースが複数見受けられました。ちゃんと「質問 & 回答」のコーナーを
読んでますか(笑)? また,「他にどんなのがありますか?」という質問も多いですが,
まずは自分でいろいろ調べてみましょうね。



細胞を構成する物質

(三好君) 尿素はたまたま合成できたとありますが,何か別のものを作ろうとしていて
  実験していたらたまたまできたんですか。
 (答) そうみたいですね。Wohler のことをネットででも調べてみたらいいですよ。
  私自身,化学にはまったく詳しくないので,何のためなのかさっぱりわかりませんが,
  シアンとアンモニアの反応に関する研究をしていたんだそうですよ。それでシアンと
  アンモニアからシュウ酸アンモニウムが得られたのだそうですが,これを加熱していた
  とき,正体不明の白い結晶ができたんだそうです。それが,後になってから尿素だと
  わかったんだとか…。

(小梶君) 有機化合物の定義に関してですが,生体からしか見つからないということ
  でしたが,人工合成された有機化合物(ex. 6,6-ナイロン)も有機化合物です。これは
  矛盾ではないのでしょうか?
 〜同様の質問: 粟田君
 (答) 鋭い! 確かにそうですね。そもそも,従来「生気」があって初めて合成される
  と考えられていた有機化合物を Wohler が合成してしまった時点で,「生体からしか
  みつからない有機化合物」という定義自体が無意味になってしまったようなものです。
  皮肉なこと(?)に,それをきっかけとして,小梶君が例にあげたナイロンのように
  有用な炭素化合物が次々人工合成されました。この分野は“有機合成化学と言います。
  高知大学でも有機合成の研究はとても勢いがありますね。

(小梶君) 生体内にあるケイ素を含む物質にはどのようなものがありますか?
 (答) たぶん二酸化ケイ素シリカ)だと思います。髪の毛や爪,血管や骨などに
  含まれているみたいですよ。また,肌の保湿などにも関わっているみたいだという
  記事もありました。詳しいことはわかりませんけど。

タンパク質の構造と機能

(加藤君) アミノ酸は配列は変えることはできないのですか。
 (答) 例えば,加藤君が,鎌状赤血球貧血症の治療…というようなことを考えていると
  したら,それは難しいです。ただ,研究室で,生物のもつ遺伝子の配列を変えて,
  普通とは異なるアミノ酸配列のタンパク質を作らせようとするならば,そのような
  遺伝子の配列の書き換えはかなり簡単です。どちらのことを質問しているのか,もう少し
  具体的に書いてくれたら,もう少し突っ込んだ説明をしますので,気になるようでしたら
  再質問してください。

(粟田君) タンパク質の一次構造ペプチド結合で安定化し,二次構造水素結合で安定化
  していますが,水素結合が弱い結合だということは二次構造のタンパク質の方が比較的
  もろい(変性しやすい)と言えるのでしょうか。
 (答) よく考えた質問ですね。しかも自分で答えを考えて質問していてとてもよいです。
  粟田君の考えているとおりです。二次構造は,熱などで簡単に壊すことができますが,
  一次構造は沸騰するくらいの温度で煮ても切れません。
   ところで「二次構造のタンパク質の方が…」というフレーズがちょっと気になりました。
  全てのタンパク質はアミノ酸が繋がってできたポリペプチド鎖が立体的に折りたたまれて
  できています。ですから,全てのタンパク質が一次構造をもち,二次構造をもち,三次
  構造を持っています。「一次構造のタンパク質」とか「二次構造のタンパク質」という
  のが別々に存在するわけではありませんよ。

(永野君) α ヘリックスβ シートは,どうしてこう呼ばれるのですか。また別の二次構造
  の名前はありますか。
 (答) 残念ながら名前の由来は知りません。ごめん。ヘリックスやシートなどの構造は
  細かくいくつかに分けられているようです。インターネットや教科書などで調べて
  みましょう。

(佐藤さん) タンパク質は自分が果たす役割をした後,どのようにしてなくなるのですか?
  何かの酵素が分解していくのですか。
 (答) タンパク質は,その構造(立体構造,アミノ酸配列)によって,安定なものと
  不安定なものがあります。つまり,比較的長時間働き続けるものと,非常に短い時間で
  分解していしまうものがあります。長いと言っても,普通はせいぜい数十時間程度の
  時間,働き続けたら,自然に立体構造が壊れていきます。ちょっとでも不自然な構造に
  なって,例えばタンパク質の中心部分に隠れているはずの疎水性アミノ酸が細胞質の
  水分子と接するような状況になりそうになれば,大抵の場合,細胞内のタンパク質分解
  酵素によってどんどん分解されてアミノ酸にまで戻ります。
   もっと積極的に,必要なときだけ働いて,用が済むと速やかに積極的に分解する
  仕掛けもあります。そんなとき,多くの場合,分解すべきタンパク質に,ユビキチン
  という低分子の化合物が多数結合させられます。ユビキチン化したタンパク質は
  タンパク質分解酵素の大きな複合体であるプロテアソームで,分解されます。

(小梶君) セルロースセルラーゼで分解すれば,我々は体に取り込むことができるの
  ですか?
 (答) 今日の小梶君の質問は 3 つとも鋭いですねー。そのとおりですよ。セルロース
  を単糖に分解すればグルコースです。そうなれば私たちもエネルギー源として利用
  できますよね。多くはセルラーゼを持ちません。ウシもセルラーゼの遺伝子は持ち
  ませんが,それでも植物の細胞壁を分解できます。その場合には,セルラーゼをもつ
  腸内細菌が消化を助けているようです。最近になって,ヒトの大腸でも,腸内細菌の
  おかげで結構な量のセルロースを分解しているらしいということが言われるように
  なってきています。

ヘモグロビンと鎌状赤血球に関する質問

(谷岡さん) ヘモグロビンにはが含まれており,ヘモシアニンにはが含まれていますが
  これらはより酸素と結合しやすくするための役割を担っているのでしょうか。透明な血液
  をもつ生物がいると聞いたことがありますが,酸素と強く結合しなくてもよい環境にいる
  ということですか。
 (答) 谷岡さんが考えているような補助的な役割ではないです。ヘモグロビンに含まれる
  鉄イオンは,直接酸素と結合します。酸素は,グロビンタンパク質のポリペプチド鎖でも
  なく,ヘムポルフィリン環部分でもなく,鉄イオンに結合しているのです。
   透明な血液…ですが,例えばホヤはヘモシアニンを持っていますが,ホヤの血液は
  無色透明です。血液を持つ動物はすべて酸素を必要とします。ただ,体がとても小さい
  生物では,体を形づくる細胞の 1 個 1 個が簡単に外界からの酸素を直接吸収でき,
  そんな場合は,血液を通して酸素を供給される必要はないですね。

長沼君) ヘモグロビンの中のグルタミン酸バリンになるだけで大変なことになると
  わかりました。仮にグルタミン酸が親水性のアミノ酸と入れ替わるなど,似た性質をもつ
  アミノ酸どうしでも異常が発生するのですか。
 (答) いいところに気づきました! 絶対というわけではありませんが,グルタミン酸アス
  パラギン酸になったり(酸性アミノ酸どうし),リジンアルギニンになったり(塩基性
  アミノ酸どうし),ロイシンイソロイシンになったり(疎水性アミノ酸どうし)した場合
  タンパク質の機能に大きな影響が出ない場合が多いです。実際,タンパク質のアミノ酸配列
  には種内でも個体差があるし,種が変わると結構違っています。そういう場合,異なる
  配列を見比べてみると,似たようなアミノ酸どうしの変化が多いです。下図は,ヒトとマウス
  の β-グロビンの N 末端から 10 個のアミノ酸配列です。例えば,N 末端から 4 番目,
  ロイシン(L)とフェニルアラニン(F)はどっちも疎水性アミノ酸です…。

   Human:  MVHLTPEEKS

   Mouse:  MVHFTAEEKA

井口さん) 鎌状赤血球貧血症は,マラリアが存在するアフリカでは有利に働いていると聞いた
  ことがある。どういうしくみで,鎌状赤血球がマラリアに感染しないのか。
 (答) マラリア原虫赤血球に侵入してその中で増殖します。マラリア原虫が侵入すると,
  赤血球の内部の pH が下がって,鎌状赤血球ヘモグロビンは酸素を手放し,その結果として
  鎌状化が進みやすくなるのだそうです。鎌状赤血球がまだ少ないうちは,そのような赤血球は
  脾臓で取り除かれるらしいです。また,鎌状になった赤血球の内部ではヘモグロビンどうしが
  多数結合して,針(棒)のような大きな結晶になります。そのような赤血球中では,マラリア
  原虫の細胞が,物理的な力で壊されてしまうそうです。そのようなことが起こるので,鎌状
  赤血球の遺伝子をもつ人はマラリアになりにくいのです。ただし,鎌状赤血球の遺伝子を 2 個
  もつ人は,とても重症の貧血になるので,それは苦しくて困ったことには違いありません。

(三輪さん) 鎌状赤血球貧血症は,薬ができるまでは深刻な病気だったということは,今は
  薬ができたということですか。
 (答) 薬はいくつかありますが,貧血の発作を抑えるような対症療法では,痛みを抑える
  ためにモルヒネなどが使われることもあるみたいで,それを考えると相当な痛みなんだろう
  な…と思います。また,感染症にも罹りやすくなるらしく,それを抑えるワクチンを投与
  したり,ちょっと変わったところでは,ヒドロキシ尿素が(普通なら胎児でだけ発現する)
  胎児型ヘモグロビン(別の遺伝子によってコードされているので正常なアミノ酸配列の
  ヘモグロビンです)の発現を誘導するらしいので,それが治療薬として使われたりもする
  そうです。いずれにしても,それで症状が劇的に改善したり,病気が根治したりすることは
  なく,依然として重い病気だというところは変わっていません。

(土井さん) 鎌状赤血球のように,アミノ酸配列のわずかな違いで病気を引き起こすものには
  どのようなものがありますか?
 〜似たような趣旨の質問: 山崎さん,磯江さん
 (答) う〜ん。いつも例にあがるのは鎌状赤血球貧血症ですから,他に…というとすぐに
  思い当たる例はありませんね〜。病気じゃないですけど,アルデヒド脱水素酵素のたった
  1 個のアミノ酸の変化で,お酒に極端に弱くなるというのはありますね…。

さまざまなタンパク質

(岡崎君) ヒトの体内に存在しているタンパク質は全部で何種類あるのか。
 (答) ヒトゲノム中にはタンパク質をコードする遺伝子が 2 万ちょっとあります。
  1 個の遺伝子からは選択的スプライシングなどによって数種類の異なるアミノ酸配列の
  タンパク質が作られることも多く,多ければ 10 万種類を超える異なる構造のタンパク質
  があるかも知れません。

粟田君) 酵素の名前には「〜アーゼ(-ase)」がつきますが,酵素以外のタンパク質の
  名前には何か法則が見られますか。
 (答) 決まったルールはありませんが,好みの名前に「-in」をつける習慣はあります。
  その気になってみると「-in」の付いたタンパク質の名前って結構多いですよ。例えば
  グロビンアクチンミオシンチューブリンアルブミンペプシントリプシン…。
  粟田君の言うように,酵素には「-ase」(日本語では「〜アーゼ」と読まれることが
  多いですが英語では「〜エイス」に近い発音になります)という接尾語がつくことが
  多いですね。

(藤木君) 高校生物で Na+K+ も正に帯電しているのに,なぜ K+ は負なのか。
 (答) そうですよね! 私も高校のとき,それを疑問に思ってました。実際には
  細胞内でも細胞外でも,Na+ や K+ だけがイオンなのではなく Cl- とか Ca2+ とか,
  H+ とか PO4- とか…いろいろなイオンがあるわけです。それらの組成がどうなのかも
  無視できませんよね。それから,Na+ と K+ だけに関しても,以下のようなことが
  あります。Na+K+-ATPase によって細胞外に汲み出された Na+ イオンが細胞内に入る
  ためのナトリウムチャネルは普段は閉じています。一方,K+ が細胞外に流出する
  カリウムチャネルの中には,普段開きっぱなしのものがあるのです。なので,K+
  カリウムイオンはせっせと汲み入れても,ちょっとずつ細胞外に漏れ出ているのです。
  そんなこともあり,細胞外の方が細胞内よりも陽イオンの量が少し多いのですね。
  だから静止膜電位は,細胞内が負になっているのですね。

糖や脂質の働き

(小田君) 分解できないグルコースばかり摂るとやせますか。
(井上君) 体に吸収されない L-グルコースは私たちの生活には利用されているのでしょうか?
 (答) 「ばかり」だと栄養失調で命が危険になりますよ(笑)。まったく栄養にならないのは
  確かです。植物が光合成で作るのも D-グルコースですし,L-グルコースは自然界にはまず
  ほとんど(or まったく)存在しないんじゃないかと思います。

(清水さん) スライドには,脂質はエネルギー源になると書いていましたが,生体のエネルギー
  になるのは糖,タンパク質も含みますよね? 特に脂質がエネルギー源となるということで
  しょうか?
 (答) エネルギー源としてもっとも重要なのは糖だと思います。でも,脂質やタンパク質も
  エネルギー源となります。体の中ではそれらの物質は互いに変換して,複雑に絡み合って
  います。詳しくは次回の「代謝経路のネットワーク」で勉強しますのでお楽しみに。
  脂質だけが特別にエネルギー源として重要というわけではありません。

血液型に関する質問

(在間君) 糖鎖の構造がどうして遺伝子によって決まるのですか。
 〜同様の質問: 横田君
 (答) ABO 式の血液型の話ですよね? この血液型を決定している遺伝子は糖転移酵素
  いう酵素(タンパク質)をコードしています。A 型遺伝子は N-アセチルガラクトサミン
  転移酵素
をコードしています。B 型遺伝子はガラクトース転移酵素をコードしています。
  両者は,アミノ酸配列にして数ヶ所異なっていますが,互いによく似ています。一方,
  O 型遺伝子は,糖転移酵素遺伝子にフレームシフト変異が起こっていて,機能する酵素を
  作れない遺伝子です。そのようなことですから,それぞれの血液型のヒトの赤血球の
  表面には,下図のように,異なる構造の糖鎖が出てくることになるわけです。つまり,
  糖鎖の構造を決める遺伝子は,糖鎖を合成する酵素の遺伝子だというわけです。

  血液型抗原

(藤木君) 血液型と性格は関係していると思いますか? 僕はそのように思いません(笑)。
 〜似たような趣旨の質問: 谷島君
 (答) そうですね。私も関係があるとは思いません。

(高橋君) 血液型があるのはヒトだけなのか。また,他の生物にも A,B,AB,O などは
  あるのか。
 (答) 哺乳類には ABO 式の血液型があるみたいですね。動物の種類によっては,A 型
  しかないとか B 型しかないとか,そういうのもあるみたいですけど。また,血液型みたいな
  ものは,ホヤにもあります。ず〜っと昔に,筑波大学の渡辺浩さんが解明して有名になった
  のは,出芽で増える群体性のホヤの血液型です。かなり細かい部分を端折って,大雑把な
  説明をしますね。イタボヤ類は,出芽で増えた多数の個体が互いに血管でつながって群体
  作っています。群体の中の個体が無性生殖をすることで,群体内の個体数が増え,群体全体
  のサイズが大きくなります。同じ血液型の群体どうしが接すると,互いの血管がつながって
  一つの群体になってしまいます。一方,血液型の合わない群体どうしが接すると,互いの
  血球細胞どうしが殺し合いをしてしまい(拒絶反応),群体は一つにはなりません。

ゾウリムシの切断の問題

(谷島君) 核ごと 2 つに割ると,どちらの細胞も死ぬと思います。
 〜同様の質問: 粟田君
 (答) どうしてそうなると思いましたか? その理由を聞きたいです。

(有吉さん) 核を 2 つにすると,核膜が破壊され,核としての役割を持たなくなる?
  DNA が流出する?
 (答) 上手にやらないとそうなるでしょうね。実際,核を割る実験を私自身は見たことが
  ないので,今回の質問はあくまで仮想的な実験です。もし仮に核を二つに分けることが
  できたとしたら,半分になった核をもつ細胞断片は生きられるか…ということを考えて
  ほしいという問題でした。

(山新君) ゾウリムシを核で 2 つに分けた場合,DNA 量が半減するため,増殖はできるが
  不完全な状態になると思う。
 (答) いいところに気づきましたね。核の中には DNA があります。何千も何万もの種類
  の遺伝子を含む核を半分に割ったとき,その半分の断片に全部の遺伝子が入ることがある
  のかな(?)と考えれば,半分に切った核をもつ細胞の断片がその後どうなるか,想像する
  ことができるかな…と思います。
   ただし,ゾウリムシは特殊な生物で,独特の生活に合わせた特別な状況があります。
  ゾウリムシの細胞には小核大核という 2 種類の核があるのです(下図)。小核は生殖核
  
とも呼ばれ,接合有性生殖)のときに仕事をします。この核にはすべての遺伝子が含まれ
  ています。一方,大核は栄養核と呼ばれ,普段の生活に必要な遺伝子を残してゲノムの
  かなりの部分が捨てられた上,残った DNA が何度も複製を繰り返して倍数体になっている
  のです。ゾウリムシの日常生活では大核の遺伝子が働いているわけですが,その大核の中
  には同じ遺伝子が数百個ずつもあると言われています。この場合,半分に切ったら…
  どうなるでしょうね?
  
   
ゾウリムシ 2 個のゾウリムシの細胞
核が赤く染まっていますが,小さいのが小核,
大きいのが大核です。

(Yang 君) ゾウリムシはがん細胞になりますか。
 (答) ゾウリムシの「がん」ってのは聞いたことがありませんね〜。

前回の内容に関する質問・その他

(植本さん) 前回の宿題の説明のときに思ったんですが,ウイルスは細胞を持たないですよね。
  あれは生物ですか。無生物ですか。福岡伸一さんの「生物と無生物のあいだ」では無生物だ
  と思う,とありました。
 (答) 本を読んだのですね。感心です。私も,ウイルスは生物とは違うと思います。「全ての
  生物が細胞でできている」という細胞説を認めるならば,植本さんの言うとおり,ウイルスは
  細胞ではできていないので,生物とは言えないということになります。ウイルス学の権威の
  Andre Luwoff さんは 「ウイルスはウイルスだ」 と言ったそうです。





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