2016 生物学概論 II
1/10 の質問

第 4 回の講義(1 月 10 日)の質問への回答です。


期末試験の過去問は公開されていないのか(?)という質問がありましたが・・・あるよ。
Web シラバスと web テキストのページを見てくださいな。授業関係で,公開してある資料は
すべて見るのが常識です。それを見ずして損をしても,それは自業自得ですよ。



細胞膜の重要な役割

(上原君) なぜ分子量がほとんどかわらない酸素分子と水分子の,細胞膜透過性が違うので
  しょうか。
 (答) 一般に気体の分子は細胞膜を自由に透過します。酸素分子は極性をもたないから
  脂質膜を透過するときに大きな抵抗がなさそうですね。水は極性をもつ分子なので,脂質
  とは馴染みません。だから簡単に透過できないのだと思います。

(藤木君) 脂質二重膜を通ることができるのは組織液ですか?
 (答) 組織液というのは,水や Na+ K+Cl- などの各種イオン,糖やアミノ酸,タンパク
  質などを含むような混合水溶液ですよね。その各成分が細胞膜を透過できるかできないかは
  今日のスライドの表に載っていましたよね。

(山新君) 細胞膜は物質を選択的に透過させますが,細胞壁は細胞の形を保つためだけにあり,
  選択的な透過はしないと考えていいのでしょうか?
 (答) そうですね。細胞膜に比べれば粗いので,いろいろなものが通り抜けますが,例えば
  微生物などや巨大分子などは細胞壁を通れません。そのため,細胞壁には病原微生物などの
  感染を物理的に防ぐ防護壁のような役割を担っています。

細胞内外の物質の輸送

(菊池さん) 細胞膜上にある膜タンパク質は,決まった物質と結合して選択的に透過させるが,
  これは基質特異性としくみが似ているのか。
 (答) いいところに気づきましたね。そのとおりです!!

(在間君) グルコースを細胞内に入れる際に,なぜ Na+ ばかり細胞内に入ってグルコースが
  入れないということにならないのですか。
 (答) グルコース輸送体タンパク質が細胞内に向かって開くような立体構造になるためには
  Na+ イオンとグルコースが両方とも輸送体に結合しないといけないようになっているんだと
  思います。

(井口さん) Na+-グルコース等方輸送体は,グルコースと Na+ が存在し,さらに膜の内外で
  濃度差があることではたらく。もしも Na+ が少なくなった場合は,はたらきはどうなるのか。
  どう対処するのか。
 (答) グルコース輸送体が働けなくなるほどに Na+ の濃度がなくなった細胞というのは,
  既に死んだ細胞でしょうね。細胞膜内外での Na+ K+ の濃度差は,グルコースの輸送
  だけのためにあるわけじゃありません。インターネットなどで是非調べてみましょう。

(谷島君) 細胞膜にあるポンプは,休まずに常に動いているのですか?
 (答) う〜ん。たぶん。

(ヨーグルトさん) アミノ酸ごとにトランスポーターがあるのでしょうか。
 (答) アミノ酸のトランスポーターにはたくさんの種類がありますが,1 種類のトランス
  ポーターは複数の種類のアミノ酸を輸送することが多いみたいです。例えばグルタミン酸と
  アスパラギン酸が同じトランスポーターによって輸送されるとか,グルタミンとアスパラギン
  とヒスチジンが同じトランスポーターによって輸送されるとか…。そんな感じ。

ATP とエネルギー

(小田君) 糖や脂質を分解して得たエネルギーが ATP 合成以外に使われることはありますか。
 (答) う〜ん。ないんじゃないかな〜。

谷岡さん) 吸エルゴン反応発エルゴン反応という名称を初めて聞きました。エルゴンとは
  エネルギーという意味ですか。
 (答) ギリシャ語で「仕事」という意味なのだそうです。大雑把に言うと,エネルギーを
  放出する反応が発エルゴン反応で,エネルギーを必要とする反応が吸エルゴン反応です。
  谷岡さんのような理解で OK だと思います。

粟田君) アデノシン三リン酸ATP)からリン酸を 2 つ切り離したとき,アデノシン
  一リン酸
AMP)となりますが,リン酸を切り離すとき,1 つずつ切り離されてエネルギー
  が使われるのですか。それとも 2 つ同時に切り離されてエネルギーが使われるのでしょうか。
(菊池さん) ATP からリン酸を切り離すとき,1 つより 2 つ,2 つより 3 つ切り離す方が
  エネルギーは大きいのか。もしそうであれば,エネルギーは大きければ大きいほどよいという
  ことではないのか。
(三輪さん) ATP からリン酸が 1 つ切り離されるエネルギーも 2 つ切り離されるエネルギーも
  同じなのか。
(有吉さん) アデノシン二リン酸をさらに分解するとすれば,ATP 同様にエネルギーが発生
  したりしますか?
 (答) 一般にエネルギーが必要な化学反応で使われるのは
  (1) ATP が ADP とリン酸に分解する反応
  (2) ATP が AMP とピロリン酸に分解する反応
  のどちらかです。有吉さんの言うような ADP を AMP にする反応を,酵素は使いません。
  また,酵素によって(1)と(2)のどちらの反応を利用するのかは決まっていて,それは
  自由には変えられません。酵素の反応特異性というやつです。
   さて,(1)では 1 mol (6 x 1023 分子)あたり約 7 kcal(約 30 kJ)が得られるのに
  対して(2)では 1 mol あたり約 11 kcal(約 46 kJ)です。(2)の反応が起こるときには
  粟田君の言うように「ATP → ADP → AMP」の 2 段階なのではなく,ATP からリン酸
  2 個を同時に切り離して AMP を作ります。

堀川さん) ATP は,ADPAMPリン酸基を結合させて作られるとありましたが,体内
  にある ADP や AMP に限りはあるのですか? また,ADP や AMP はどこで作られるの
  ですか?
 (答) 解糖系のスライドを見てみてください。グルコースから最初に作られるのはグルコース
  6-リン酸
ですね。その後,その経路から外れて,→ 6-ホスホグルコノラクトン6-ホスホ
  グルコン酸 → … という数段階の化学反応を経て,リボース 5-リン酸 が作られます。
  これに対してリボースリン酸ピロホスホキナーゼという酵素が働きかけて,5-ホスホリボシル
  1α-二リン酸(別名ホスホリボシルピロリン酸,略して PRPP)ができます。PRPP に対して
  アミノ酸を結合させていくような感じで何段階化の化学反応が進み,結果としてプリン骨格
  が組み立てられます。そうして最初にできるのが,塩基としてヒポキサンチンをもつ
  イノシン一リン酸IMP)です。このあたりから ADP や ATP が合成されるまでの過程は
  下図にまとめられているので参考にしてください。
  ヌクレオチド合成経路
  さて,細胞内では,常時せっせと AMP や ADP の合成が行われていますが,それでも
  細胞内のそれらの物質の濃度は無限ではありません。限りがあります。そうすると,ATP
  がほしいときに足りなくならないか心配ですよね? それに対する答えが,下の高橋君と
  佐藤さんへの回答に書いてありますので,あわせて読んでみてください。

(高橋君) ATP をエネルギーとして蓄えているのと,グルコースをたくわえるのとは同じ
  ことですか。
(佐藤さん) ATP はさまざまな反応に必要だが,ATP が足りなくなるような状況になる
  ことはあるのですか? また ATP は貯蓄しておくことは可能なのか。
 (答) 私たちの場合,(エネルギー源として)蓄えるものはグルコースよりもむしろ
  グリコーゲンとか中性脂肪とかですよね。ATP として蓄えても同じことじゃないかと
  思うかも知れませんが,実は ATP というのはたっぷり作ってたっぷり蓄えるのには
  向かない分子なのです。
   私たちの細胞にはクレアチンリン酸という物質(下図)があります。クレアチンが,
  ATP からリン酸をもらって生じます。多量の ATP が必要とされ,細胞内の ATP が急激
  に消費されるとクレアチンリン酸から ADP にリン酸が渡されて ATP が補給されます。
  逆に ATP がたくさん作られて,あまり消費されていないときには,ATP のリン酸が
  クレアチンに渡されて,クレアチンリン酸の形で保存しておきます。この方法だと,
  ミトコンドリアの好気呼吸で ATP を生産するよりもさらに速いので,緊急に多量の
  ATP が必要になったときに助かるわけですね。クレアチンリン酸のような物質は
  エネルギーの備蓄をするための分子と考えることができます。

  クレアチンリン酸 クレアチンリン酸

小梶君) アデノシン三リン酸を構成する塩基はアデニンですが,同じようなヌクレオシド
  三リン酸は他にもあります。どうしてエネルギー源として用いられるのはアデノシン
  三リン酸だったのですか?
 (答) ATP 以外に,GTP もエネルギーを供給するために使われることがあります。
  タンパク質が(ATP ではなく)GTP を GDP にするときのエネルギーを利用して働く
  のです。そういうタンパク質は少なくはありませんが,ATP を利用する酵素よりはずっと
  少ないです。なぜか(?)と尋ねられても,答えはわかりません。

好気呼吸

(小梶君) アセチル CoA の CoA って何ですか?
 (答) コエンザイム ACoenzyme A補酵素 A; 下図)のことです。結構複雑な構造を
  していますね。右半分はアデノシン二リン酸にちょっと似てますよ。わかりますか?

  Coenzyme A

藤木君) TCA は英単語の頭文字だと思うのですが,そうであれば知りたいです。
 (答) TCA は「Tricarboxylic Acid」の略で,日本語では「トリカルボン酸回路」といい
  ます。「tri-」は「3 つの」という意味の接頭語です。「カルボン酸」というのはカルボ
  キシル基
をもつの総称です。カルボキシル基( ーCOOH )は酸で,電離して( ーCOO-
  となりプロトン(  H+ )を放出します。下図のクエン酸の構造を見てください。カルボキ
  シル基が 3 つありますね。だから,クエン酸もトリカルボン酸の一種です。クエン酸回路
  では,クエン酸から cis-アコニット酸D-イソクエン酸へと変換されていきます。それら
  もカルボキシル基を 3 つずつ持っているので,トリカルボン酸回路とも呼ばれているのです。
  クエン酸

(磯江さん) TCA 回路でさまざまな酵素が使われていたが,ここで使われている酵素は
  どこで作られているのか。
 (答) リボソームです。細胞の中ではたらくタンパク質は,全部,その細胞のリボソームで
  合成されています。

(井上君) 電子伝達系で,2NNADH が 1 つ分解され,H+ と 2NAD+ になる反応では
  ミトコンドリア内膜に電子 3 つが移動するのでしょうか?
 (答) いいえ。NAD 1 個に対して H+ が 1 個結合して NADH になります。だから
  1 個の NADH が NAD+ と H+ になり,2 個の電子が出てくることになります。

(小梶君) 電子伝達系において H+ の濃度差によって ATP 合成酵素を回すとありましたが
  これは H+ の浸透圧のようなものと考えて大丈夫ですか?
 (答) そういう風に考えてくれて OK だと思います。

(永野君) 電子伝達系で生じた水は細胞内の他の化学反応で使われることはわかりましたが,
  二酸化炭素はどこで使われるのですか。
 (答) 私たち動物は,二酸化炭素は使いません。細胞から血液中に放出され,赤血球に
  運ばれて肺まで戻ると,そこで呼気の中に放出されます。植物などでは,呼吸で生じる
  二酸化炭素を材料にして,光合成などの炭酸同化を行い,再びグルコースなどの有機物を
  作ることができます。

(永野君) グルコース分解時に,熱となって放出されるエネルギーは,体内であるから,
  外に放出されないので,すべて使われるということですか。それは体温維持以外に使われる
  ことはないのですか。
(長沼君) ATP 合成の際にグルコースが重要なエネルギー源であり,そのエネルギーの 3
  割り程度が合成に,残りが熱などに変わるとわかりました。高知も冬は寒いですが,
  たくさん食べてたくさん呼吸する(グルコースを多く摂取し,好気呼吸の回数を増やす)
  と体の中から温まるということですか。
 (答) 熱自体は体温の維持以外には使えないんじゃないかと思います。たぶん。ただ,
  その熱は,体の外に出て行きますよ? 例えば寒い部屋で布団に入って一眠りしましょう。
  布団から出た後,その布団の中って自分の体温で温まっていますよね? それは自分の体
  から放出された熱で温まったのですよ。つまり外に放出してしまったわけです。
   ところで体を温めるために,食べて呼吸をするのはもちろんなのですが,その他
  寒いときには筋肉を小刻みに収縮させて熱を発生させたりもします。寒いと震えるのは
  そうして体温が下がらないようにしているってことなのです。

代謝経路のネットワーク

(粟田君) イントロン分解の説明であった,シトシンウラシルアセチル CoA になる過程の
  反応は,ピルビン酸がアセチル CoA になる反応とは異なるものですか。異なる酵素が用い
  られるのですか。
 (答) シトシンやウラシルは 6〜7 段階ほどの化学反応を経てアセチル CoA になります。
  その途中でピルビン酸になることはありません。ピルビン酸をアセチル CoA に変換する酵素
  は,シトシンやウラシルからアセチル CoA を作る過程では使われていません。

(植本さん) プールしてあるとは,貯蔵しているという意味と認識して大丈夫ですか。
 (答) それで大丈夫です。

加藤君) 電子伝達系水素イオンの流入のエネルギーを使って ATP を作ったり,細胞膜内外
  のカリウムイオンの濃度勾配にわざと逆らったり,人体の不思議を感じさせられました。
  こんなすばらしい構造はどうしてできたのでしょう。やはり神様が作ったのですか?
 (答) 「生物ってすごい!」と感じてくれたとしたら嬉しいです。講義した甲斐がありました。
  私は神様の存在を信じませんが,神様のしたことと考えることは自由です。





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