初期胚における転写調節
 

ホヤの胚においては,細胞が 100 個くらいになるころまでには,ほとんどの細胞が,将来筋肉になるとか,将来表皮になるとかを,決めてしまいます。
胚の細胞が 8〜16 個くらいになる頃には,もう,細胞ごとに違う遺伝子が発現し始めます。右の図は,16 細胞期の 8 個の細胞だけで発現する遺伝子です。

どうして,特定の遺伝子が特定の細胞でだけ発現するようになるのか? それは,体づくりの仕組みを考えるときに一つの重要な課題となります。
Ci-ephrinAd/lacZ の発現
16 細胞期の 8 つの細胞だけで発現する遺伝子 (青く染まっている)。

右図の実験は,32 細胞期の 8 個の細胞でだけ発現する ZicL という遺伝子の発現調節の仕組みを調べる実験の例です。
ZicL 遺伝子がいつどこで転写されるかを決めるエンハンサーは,ZicL の転写開始点より上流にあります。その部分を取ってきて,後に大腸菌の lacZ 遺伝子を連結してホヤの胚に導入すると,本来の ZicL と同様に,32 細胞期の 8 個の細胞で lacZ が発現します (A)。 次に,転写制御領域から 「X」 の部分を切り取ると,lacZ は胚の後ろ側の 4 個の細胞でだけ発現するようになります。同様にして 「Y」 の部分を切り取ると,lacZ は今度は胚の前側の 4 個の細胞でだけ発現するようになるわけです。
このような実験から,ZicL 遺伝子が胚の前側の細胞で転写されるためには 「X」 の部分が,後ろ側の細胞で転写されるためには 「Y」 の部分が必要だとわかります。
ZicL 遺伝子の転写調節
X」 や 「Y」 の部分に,どんなタンパク質 (転写調節因子) が結合して転写を活性化したり抑制したり
しているのかを調べれば,細胞ごとに違った遺伝子が発現する仕組みがわかってくるはずです。
私たちは,このような研究で,細胞の分化の仕組みを探っています。

このページで紹介した研究は以下の論文にまとめられています。
*Anno, C., Satou, A. & Fujiwara, S. (2006) Transcriptional regulation of ZicL in the Ciona intestinalis embryo. Dev. Genes Evol. 216: 597-605.