生体機能物質工学実験 II

みんなのレポートへのコメント (2002 年度)
(分子生物学的実験法・遺伝子工学的実験法)


1 つめのレポート(RNA 抽出)へのコメント
2 つめのレポート(逆転写〜PCR〜制限酵素処理)へのコメント
3 つめのレポート(ゲルからの DNA の精製〜大腸菌への導入〜タンパク合成まで)へのコメント
4 つめのレポート(リコンビナントタンパクの精製とプラスミドの塩基配列決定)へのコメント


1 つめ(RNA 抽出)

課題 1:
* レポートに書く「実験方法」は、プロトコル(マニュアル)とは違って、実際に自分が
  どうやってやったのかを書かなければいけません。みんなのレポートはきちんと
  「・・・した」 という風に ”過去形” で書いてあったのでその点は感心です。ただ、
  どのレポートを見ても、氷に 20 分つけて遠心を 15 分行ったと書いてあります。
  でも、私の記憶では、実際には氷につけてあった時間は人によってまちまちだった
  はずです。早く作業が終わったけれども遠心機待ちで氷に長い時間つけていた
  人もたくさんいたと思うのですが・・・。
  レポートでも論文でも同じです。「こういう実験をしたらこういう結果が出た。だから
  こういうことがわかった」ということを報告するための文書なわけです。学生実習
  ではあらかじめ結果がわかっていることをやっているので実感がわかないかも
  知れませんが、そういうことを心がけてレポートを書いてください。

* RNA の電気泳動の解釈は難しかったようですね。RNA と、混入した DNA は
  下図に示したように泳動されています。今回は少量のサンプルから出発している
  ので抽出された RNA の量が少なくて、バンドが見難かったのだと思います。
  
* 上の写真では mRNA はバンドとして見ることができません。これは、全 RNA に占める
  mRNA の割合が小さいからというよりも、mRNA というものが、様々な長さの RNA の
  混ざったものだからです。rRNA や tRNA については決まった配列で決まった長さの
  RNA が大量にあります。しかし、mRNA はタンパクの設計図です。数万種類の遺伝子
  の産物である mRNA は、数万塩基の長いものから数百塩基の短いものまで、
  いろいろな長さの RNA がごちゃ混ぜになったものです。だから、泳動すると上の方
  から下の方まで全体に引きずったような(smear な)シグナルになるのです。
* それから、一番上の明るい部分は泳動の起点(サンプルを注ぎ込んだ穴)です。
  ここには水に溶けきらなかった核酸が溜まって明るく光ります。 DNA とは限りません。
  DNA は確かに巨大ですが、ボルテックスによってある程度断片化しており、多少は
  泳動されます。

課題 2:
* リボースの 2 位の -OH 基(デオキシリボースでは 2 位は -H だけ)にみんな注目
  していました。 OK です。ただ、そのことは、RNA の方が DNA よりも親水性が強い
  ことを示してはいるものの、”酸性の条件下で” フェノール/クロロホルム抽出を
  したときに DNA が有機溶媒層に行くことの説明としては不十分です。実際、中性で
  フェノール/クロロホルム抽出を行うと DNA は水溶液層に行きます。
  なぜ ”酸性” だと DNA が有機溶媒層に行って RNA が水溶液層に行くのかな?
* また、RNA は酸性やアルカリ性で加水分解されやすいことを理由に挙げた人が
  何人もいましたが、この実験では(というより一般的に RNA を抽出するときには)
  RNA が加水分解するほどの強酸や強塩基では処理しません。実験の目的は
  ヘモグロビンの cDNA を手に入れることですよね?もし RNA が加水分解するような
  条件下においたら、ヘモグロビン mRNA も断片化するから、逆転写して PCR を
  してもヘモグロビン cDNA は増幅できませんよね?

課題 3:
* みんなよくできていました。例年、計算では四苦八苦するのですが、今年はすごい。
* まず、ヘモグロビン mRNA の量は 2.7 x 10-9 g だというところまでは、大体みんな
  同じです。そのあと、多くの人がこれを 300 で割って、その値をモル数としています。
  これは、ヘモグロビン mRNA を構成するヌクレオチドの 1 個 1 個を 1 分子と
  考えた場合のモル数です。だから、その値に 6 x 1023 を掛けて、(仮の)分子数を
  求め(これが 5.4 x 1012 になります)、そして最後にヘモグロビン mRNA 1 本が
  600 塩基だからということでこれを 600 で割って、9 x 109 個という値を導き出して
  います。 ・・・ 確かに、(注)の中で、「ポリヌクレオチド鎖中のヌクレオチド 1 個の
  分子量を 300 として計算する」と書きましたが、分子としては 600 塩基の mRNA
  1 本を 1 分子と考えるのが自然ですから、2.7 x 109 g を ”300 で”割るのではなく
  ”300 x 600” で割るのが考え方としては自然なんじゃないかと思います。



2 つめ(逆転写〜PCR〜制限酵素処理)

〜 1 回めも 2 回めもですが、「やればいいんでしょ」というような手抜きの
  レポートが 1 つもないのでうれしいです。

課題 1:
* 1 回めのレポートを返したのが、2 回めのレポート提出期限と同時になったので
  1 回めのレポートで指摘した点の全てが改善されたわけではありませんが、それでも
  実験方法の書き方などがかなりよくなっています。・・・というわけで、今回は、少し
  細かいことを書こうと思います。
* 実験の目的や原理について書く部分は、web テキストを写すのではなく、できるだけ
  自分の言葉に換えてください。その作業によって、内容を消化し、活きた(使える)
  知識とすることができます。
* 一般的に数字と単位の間にはスペースが入ります。「100 μl」 とか 「2.5 mM」 とか
  「25 pmol/μl」 という感じです。数字と単位はそれぞれが一つずつの単語のような
  ものですから、単語と単語の間にはスペースが必要です。ただし、「75%」 とか
  「37℃」 については( % や ℃ が数字の一部ということなのでしょうか)スペースを
  空けないという決まりになっています。みんなが将来英語で論文を書くようになった
  ときにはこのルールをしっかり守らなければなりません。
* それから、Word でレポートを書いている人、書いた文書の英語の綴りなどを自動で
  校正する設定は思わぬ間違いの元になります。たとえば RNase というような単語
  では R と N の 2 文字が大文字なのに、2 文字めが勝手に小文字になってしま
  います。Word は、結構 ”余計なお世話” を焼きますので、私はオートコレクトの
  ほとんどを解除しています。「ツール」メニューの中から「オートコレクト」を選んで、
  不要な分を解除したらいいと思います。
* 「凍らせて保存してあった RNA を指で温めてとかした」というところは、ほとんど全員
  「溶」の字を使って、「溶かした」と書いてありました。でも、凍っているものをとかす
  ときには「解」か「融」の字を使わないといけません。「解凍」「解氷」「融雪」などの
  単語からもこれらの字の意味がわかりますね?一方、「溶かす」は、例えば粉を
  水にとかすときに使う言葉です。「溶液」などという語からも、そういう意味だと
  わかるはず。

〜さて、結果についても書きましょう。

* PCR で増幅される cDNA 断片は下の塩基配列の色の濃い部分です。この部分の
  長さは 626 bp です。BvII プライマーには BamHI サイトを含む 9 塩基
  (AAAGGATCC)が余分についていて、アダプタープライマーの方は
  下の塩基配列と別に (GACTCGAGTCGACATCGATTTTTTTTTTTTTTTTT) という
  35 塩基(以上)が余分につくはずです。したがって、PCR 産物の長さは、
  およそ 670 bp になると予想されるわけです。

GCGCTTACTC CCTTTCTGAG AAAGACACTT ATTTAGATCA CCGCTGCAGA ATTAGAGCCT
AAGAATGAGT AAACCAGCTG AAGCCATTGC TGCTGTGACA CAGCCAGACG TCAAAGCAGC
ACTCAAGTCC TCATGGGGTC TACTGGCTCC CAATAAAAAG AAGTATGGTG TTGAGTTAAT
GTGCAAGTTA TTTTCATTGC ACAAAGATAC CGCTCGATAC TTCGAACGGA TGGGGAAGCT
TGATGCAAAC AATGCAGGAA GTAACCGAGA GTTGATCGGA CACGCTATTT ACCTTATGTA
TGCAATTGAA TCATTTGTGG ATCAACTTGA CGACCCTAGC ATCGTAGAAG ATATTGGTCG
TAACTTTGCA TATAGACATT TAAAGAGGGG TATTGGAAGC AAATCATTTT CGGTGATCCT
CGACACACTT GATCAATTTC TCGGAGATTC ATTAGGAGTT AACTACACCG CAGAAGTTAA
AGATGCATGG GAGAAACTTG TTAAAGTTAT CTTGGCCCTT CTTGATGATG AGAAAAAGTG
AATGAAATGA CATTAAATAA TACAAAATGT TCATAACATA AGAAACATTG TCTGCAAAAT
GCTCTCTTCT CTGCGCAAAA CTGCAAAACT TTTAATATCT TATTGTTAAT TTATGTGTTC
TTGTCTCTTG AAAATAAAAA TTTTAAGTTG

課題 2:
* みんな、よく気づいていました。そうです。ポイントは、ヘモグロビン遺伝子に
  イントロンがあることです。真核生物の遺伝子の多くはイントロンを持っていて
  スプライシングが起こらないと正常に翻訳されません。一方、細菌は基本的に
  スプライシング機能を持たず、遺伝子にイントロンもありません。したがって、
  イントロンを持つ遺伝子を細菌に導入してもタンパクを作らせることができません。
  これを解決する方法はスプライシング機構を備えている真核生物の細胞を利用
  したタンパク合成です。広く使われているのは酵母や、昆虫細胞です。これらに
  遺伝子を導入してタンパクを発現させるためのプラスミドベクターやウィルス
  ベクターはいろいろと開発されており、市販されています。
* ここで、ちょっと気になったのは、みんなの答案の中に、イントロン(=タンパクを
  コードしない領域)そしてエクソン(=タンパクをコードする領域)という記述があり
  ましたが、厳密に言うとそれらはイコールでは結べません。イントロンを全て
  捨てた後の成熟 mRNA (エクソンのみの配列からなりイントロンを含まない)にも
  開始コドンより上流の 5'-非翻訳領域や、終止コドンより下流の 3'-非翻訳領域
  というものがあって、これらはタンパクのアミノ酸配列をコードしていないからです。
* プラスミド自体に、あるいは大腸菌に、スプライシング機能を持たせるように
  必要な遺伝子を導入するというアイデアもありましたが、スプライシングには
  多数の因子が関与するので、このアイデアは(面白いけれど)あまり現実的では
  ないと思います。
* イントロンには発現を活性化する配列(エンハンサー)が含まれている場合があり
  真核生物で遺伝子を発現させる場合にはイントロンがある方が高い発現レベル
  を得ることが可能な場合も少なくありません。

課題 3:
* 上出来です。みんな、よく理解しています。



3 つめ(ゲルからの DNA の精製〜ライゲーション〜
 トランスフォーメーション〜miniprep〜
 制限酵素チェック〜タンパク発現誘導)

課題 1:
* 今回は、いろいろな結果が出ました。解釈の難しい結果もたくさんありました。
  よく考察ができていました。その調子です。例えば結果が予想外だったときに、
  原因として考えられるたくさんの可能性をあげ、実験のデータの中に根拠を
  探すことを、きちんとできていました。

* ゲルからの DNA の精製で、全体にプラスミドよりも cDNA の方が回収量が
  少なかったようです。これは、長い DNA ほど回収率がいいという EasyTrap の
  特徴によるものと思われます。しかし、みんな、EasyTrap に持ち込む前の
  各自の PCR 産物の量はどうだったでしょうか?写真はとらなかったけれど、
  みんな眼で確認したはずですよね。仮に最初の PCR でバンドが強く出ていた
  としても、フェノール/クロロホルム抽出とエタノール沈殿の過程で PCR 産物を
  loss したために、EasyTrap に持ち込んだ DNA 量が少なかったという可能性も
  あるのではないですか?そういうことも確認しておく必要がありますね。

* コロニーができなかった理由については、みんないろいろ考えていてよかったです。
  木曜日と金曜日のトランスフォーメーションで結果が違った原因として、ライゲーション
  の時間の違いと、使った competent cells の違いを考えるのは正しいと思います。

* Miniprep で、一番よく見られた失敗は、エタ沈後の沈殿が RNaseA 入りの TE に
  溶けないというものでした。こういうケースでは、ほとんどの場合 Solution III を
  加えたときによく混ざっていなかったのが原因です。
* 制限酵素チェックで、制限酵素の効きが悪かった(cDNA が組み込まれているはず
  なのに切れなかった)原因はいろいろ考えられます。みんなが書かなかったことの
  中には、例えば miniprep でフェノール抽出を省略したことがあります。ほとんどの
  人はこのステップを省略するのですが、その場合(原因はよくわからないものの)
  抽出したプラスミドが制限酵素で切れにくくなることがあるようです。この場合、
  抽出した後のプラスミドをフェノール処理するという対策が可能です。ただ、一般に
  タンパク発現用のプラスミドは、プラスミド DNA の扱いが難しい場合が多くて、
  今回のように電気泳動するとスメアになったり、miniprep で回収できなかったり
  というようなことがよくあります。・・・また、参考までに、大腸菌 1 個あたりの
  プラスミドの量を増やすために、通常の方法で(今回のように)菌を培養したあと、
  クロラムフェニコールを加えてさらに十数時間培養を続けるという方法があります。
  こうすると、菌は増殖せず、菌体内でプラスミドだけが複製するので回収率が
  上がります。
* 制限酵素チェックの結果 cDNA は組み込まれているように見えたのに、タンパクが
  発現しなかったクローンがあります。このような場合、連結部分にフレームシフトが
  あったり、突然変異が起こっていたりして、タンパクができない場合もあります。
  実際、Taq DNA polymerase は校正機能が非常に弱く、間違ったヌクレオチドを
  取り込むことがよくあります。ただ、cDNA が正しく組み込まれていて、塩基配列
  にも全く問題がないのにタンパクが発現しないなどということもよくあります。

* リコンビナントタンパクの分子量を、アミノ酸配列から計算で求めることができます。
  その際、注意しなければならないことは、ヘモグロビンの翻訳領域を正しく
  掴むことだけではありません。何人かの人は、プラスミド側にコードされている
  開始コドンから His-タグ、そして BamHI サイトまでの DNA がコードするアミノ酸
  配列を全く無視していました。忘れずに・・・。
* アミノ酸の平均分子量をもとに計算している人の中には、ペプチド結合で水分子が
  はじき出されることを考えず、フリーのアミノ酸の平均分子量から計算している人
  がいました。平均分子量について言えば、いくつかの本でポリペプチド鎖中の
  アミノ酸の平均分子量は 110 と書かれています。実際に 20 種類のアミノ酸の
  分子量から自分の手で平均を算出した人がいましたが、その数値は 120 くらい
  になっています。アミノ酸の中にはタンパク質の中にそれほどたくさん含まれて
  いないものもあれば、たくさん含まれるものもあります。110 という数値は、含量を
  考慮に入れて算出されているものと思われます。実際、今回の His-tag 付きの
  BvII タンパクのアミノ酸配列から正確に計算した分子量は 19022.78 となります。
  アミノ酸の平均分子量を 110 として計算したときの値に近いですね。

課題 2:
* みなさん、なかなか論理的に考えて、正しい答えを導き出していました。
  これはただのパズルです。原理を理解していれば簡単だっただろうと思います。

課題 3:
* セルフライゲーションが起こる条件についていろいろな可能性を考えていました。
  OK です。

課題 4:
* みんな、いろいろ考えてあってよかったです。実に様々な可能性があります。
  アミノ酸配列が正しければ酵素が活性を持つわけではないということ、タンパクを
  発現させて機能解析をするということが、それほど単純な作業ではないという
  ことをわかってもらえましたか?
* みんなの解答の中からいくつかピックアップしてみます。

「真核生物のタンパク質の中には、大腸菌では活性のある形で発現できないもの
 がある(糖鎖をもったタンパク質のように、合成途中あるいは合成後に大幅な
 修飾を受けるタンパク質など)。」
「アミノ酸配列は期待通りのものが得られても、その折りたたみがうまくいかなくて
 活性をもたないことが考えられる。」

これは真核生物のタンパク質を大腸菌などの細菌で発現させようとした場合に
よくあることです。重要なので憶えておきましょう。
「ある種の酵素は、プロ酵素という活性のない大きめのタンパクとして合成され、
 特定のペプチド結合を切断することにより、初めて活性をもつ。その切断がなされず
 に活性がなかったことが考えられる。」
上のと似たようなケースですが、これも重要です。
「この ”ある動物” の ”ある酵素” の働く最適条件と、大腸菌の中での条件が
 まったく違う場合。例えば、”ある動物” が極端に寒い場所で生活する動物の場合、
 大腸菌の中では絶対にこの酵素は働かないだろう。」
実際、哺乳類のある遺伝子を哺乳類の培養細胞で発現させると
ちゃんと機能するのに、その遺伝子と相同なカエルの遺伝子を哺乳類の
細胞で発現させると活性を持たなかったという例があります。この場合、
哺乳類の細胞を培養している 37℃ という温度が問題だったようで、
室温で培養できるサカナの細胞に導入したら活性を持ったそうです。
「”ある動物” には存在する補欠分子族が大腸菌に存在しなかった。」
「混在する物質によって酵素の安定性が失われた。」
「大腸菌内にその酵素の阻害剤に似た物質があり、それによって阻害された可能性
 がある。」
このあたりも検討しないといけませんね。
「だいたい同じ大きさのタンパクができていたが、突然変異が入っていた。」
これも考えないといけませんね。実際には、プラスミドを組み立てた後に
塩基配列を端から端まできちんとチェックするのが普通ですが、それを
やらないとこの落とし穴にはまることがあります。上述のように、Taq DNA
polymerase は、proof-reading 機能(校正機能)が弱いことで有名で、
間違ったヌクレオチドを取り込んだために変異の入った PCR 産物が
できることがあります(この場合の変異は点変異で、欠失・挿入はほとんど
起こりません)。タンパクを発現させたい場合には Pfu DNA polymerase
や Vent DNA polymerase、KOD DNA polymerase など、proof-reading
機能の強い耐熱性酵素を使って増幅を行います。 
* 1999 年度の細胞分子工学実験のレポート課題で似たような問題を出したときの
  答案とコメントのページがありますので、見てみてください(こちら)。
 


4 つめ(タンパクの精製と塩基配列決定)

課題 1:
* タンパク精製の結果についての考察はみんなよくできていました。ただ、回収された
  タンパクの量(回収率)の見積もりに関してはちょっとした見落としがあるようです。
  精製タンパクの SDS-PAGE では、各段階のサンプルを 50 μl 取って、そのうちの
  一定量を電気泳動に用いたわけですが、例えばレーン (1) に流した大腸菌の
  溶菌液は全部で 1 ml のうちの 50 μl ・・・ 一方バッファー E' で溶出させたレーン
  (3) のサンプルは全部で 100 μl のうちの 50 μl です。これを直接比較することは
  できませんよね?
* なお、ビーズへの吸着、溶出などのステップで、100% ということはありませんので、
  各ステップで徐々に loss が増えてきます。だから、理想的には、ビーズと混ぜて
  30 分おいた後の上清にはリコンビナントタンパクは含まれていないはずですが、
  そのレーンにバンドが出ることは珍しくないし、それは失敗ではありません。
* 超音波破砕をするときに、氷で冷やして行うことと、あまり長時間行わないことは
  タンパクを上手に抽出するコツです。超音波や熱で、タンパクが変性すると、不溶化
  してしまい、機能解析どころではなくなります。今回は尿素を使ってタンパクを
  穏やかに変性させた状態で行いましたが、機能解析のときには精製されたタンパク
  を尿素を含まないリン酸バッファーや Tris-HCl バッファーに対して透析します。
  透析で尿素が抜けたときに沈殿してしまうのです。
  
* 昨年の塩基配列データを見た人へ:
  GATC 以外の文字があったことと思います。それらの文字は以下のような決まりに
  したがって使われています。R はプリン塩基のことで A or G、W は A or T、
  S は C or G、D は A, G or T、B は C, G or T、N は A, C, G or T のいずれか
  (要するにわからんということ)、Y は ピリミジン塩基のことで C or T、M は A or C、
  K は G or T、H は A, T or C、V は A, C or G のことです。

* それから、マイクロの書き方ですが、(前にも言ったような気がするけれど)全角
  ではなく半角で Symbol というフォントを使って書きましょう。全角のマイクロは
  機種依存文字で、Macintosh では文字化けするんじゃないかな。

課題 2:
* まず、大腸菌で発現させたタンパクの分子量が、塩基配列から推測される分子量
  に近いということ。そして、もとの動物から精製したタンパクから精製したタンパク
  の分子量は計算で求めた数値より大きかったということ。この二つから、動物の
  細胞内ではこのタンパクが共有結合による修飾を受けているのではないかと
  予想するのが自然です。例えば、糖鎖や脂肪酸の付加などは、分子量に大きく
  影響する場合があります。また、リン酸などの付加でも SDS-PAGE でバンドが
  シフトします。
* もちろん、この他にも、いろいろな可能性があると思います。明らかに間違って
  いるのでなければその可能性も検討しなければいけませんね。
* NAD や FAD などの低分子化合物がタンパクと結合している場合があります。
  これらが分子量を大きく見せている原因であるという答案がいくつもありましたが
  これらの低分子化合物は非共有結合でタンパクに結合しています。したがって
  今回の実習と同じように SDS-サンプルバッファーに溶かして煮ると、それらの
  結合はみんなはずれてしまいます。
* また、通常、この動物の体内では、他のタンパクと複合体として存在しており、
  したがって大腸菌でこのタンパクだけを発現させた場合には分子量が小さい
  という答えもありました。この場合も、他のタンパクとの結合が非共有結合で
  あったり、共有結合でも S-S 結合であるなら、2-メルカプトエタノール入りの
  サンプルバッファーで煮ることによって結合は簡単にはがれます。

課題 3:
* みんな、ゲルの写真の見方がよくわかっていて、考察もしっかりしてありました。
* 精製がうまく行かないときには操作自体よりも、試薬や溶液の組成、pH、あるいは
  古くなったり保存が悪かったために試薬の成分が酸化したなどの原因を考える
  ことも大切です。多くの人が最初にとる対策は、試薬を作り替えてみることなのです。
* タンパクがビーズに結合しないときには His-tag がリコンビナントタンパクの表面に
  露出していない場合があります。今回の実習では尿素存在下の変性条件で精製
  しましたので、そのようなことは起こりにくいのですが・・・。機能解析に用いることを
  目的とする場合には尿素などの変性剤を含まないバッファーで精製します。このとき、
  タンパクのアミノ酸配列によっては His-tag 部分が立体構造の内側に埋もれて
  しまって、ビーズに結合しないことがあります。そういう場合には His-tag を C 末に
  結合させることもあります。
 


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