生体機能物質工学実験 II

2. 分子生物学的実験法/遺伝子工学的実験法 (2003)

担当: 藤原滋樹 / 鈴木知彦 / 湯浅創  


はじめに

生体機能コースの多くの人は「生物学概論 II」、「分子遺伝学 C」、「生化学 C
などで、遺伝子の構造や機能を学んだことと思います。それらの講義では、
全ての生物の体は細胞でできているということ、そして生命活動の基本は細胞の
機能であるいうことを学びました。細胞の活動を支える主役は分子機械である
タンパク質です。そして、タンパク質の設計図が遺伝子です。私たちは、生命活動
のメカニズムを知るために、タンパク質の機能を知る必要があります。そこで、
ある特定の機能を探るためには、その機能を担うタンパク質を直接精製するか、
あるいはその設計図を手に入れる必要があります。
 生物の持つタンパク質を精製し、その機能を調べることは非常に重要なことですが、
しばしば重要な機能を持つタンパク質は細胞の中にほんのわずかしかありません。
例えば、ホルモンの受容体や、転写調節因子のようなタンパクの多くは 1 個の細胞の
中に 1000 分子ほどしかありません。そのような場合には遺伝子 DNA そのものや、
mRNA のコピーである cDNA といったような”設計図そのもの”を手に入れることが、
とても有効な手段になります。
 一旦設計図を手に入れてしまえば、私たちは、実験のたびにタンパク質を抽出・精製
しなくても、設計図を元にして(大腸菌や酵母、動物細胞を利用して、あるいは細胞の
抽出液を利用して試験管内で)大量のタンパク質を作り出すことができます。また、
設計図を書き換えることによって、自然のものと異なる活性をもつタンパクを作り出す
ことだって可能になります。このようなテクニックは、生体内に微量しか存在しない
タンパク質の機能解析に威力を発揮するだけでなく、有用なタンパク質の大量生産
という応用面にも多くの貢献をしてきました。実際、成長ホルモンやインシュリンなどは、
このようにして生産されたものが医薬品として利用されています。
 遺伝子は、どんな生物から取り出したものであっても基本的な構造は同じであり、
その本体が DNA という分子であることも学びました。また、DNA は簡単に
切ったり貼ったりできる
ということを、みなさんも知識としては知っているはずです。
実際、「分子遺伝学 C」で学んだようなさまざまな酵素(DNA ポリメラーゼDNA
リガーゼ
など)は、精製品が市販されていて、それを買ってきて自分の注目する
遺伝子を切ったり貼ったりすることが簡単にできるようになっています。DNA を
自由自在に切り貼りする技術の確立が、分子遺伝学・分子生物学の爆発的な発展
を支える背景になったのです。

ここでは、クラゲから見つかった光るタンパク質(Green Fluorescent Protein 略して
GFP)の遺伝子を切り出して、これをプラスミドに組み込みます。このプラスミドから
GFP タンパクを発現させ、そのタンパクの性質を SDS-PAGE などで調べます。
また、部位特異的突然変異法によって、タンパク質の一部のアミノ酸が別のアミノ酸
に変わるようなミスセンス突然変異を “計画的に” 作ってみます。この突然変異に
よって GFP タンパクの出す光の調子が変わるはずです。この作業を進める過程で、
皆さんは、大腸菌への遺伝子導入法、大腸菌からのプラスミド DNA の精製法や、
DNA の塩基配列決定法DNA を決まった場所で切る方法と連結する方法
(組換え DNA 技術の基本中の基本)、PCR (これは「物質科学実験 CIII」でも学び
ましたね)、大腸菌を利用して目的のタンパクを発現させる方法などを学びます。
これらの技術は、学生実習専用の実用性のない技術ではなく、将来この分野の専門家
になるとしても、絶対に必要ですぐに役に立つものばかりです。

皆さんが実験に臨むときには、ただ説明に書いてあるとおりに右のチューブから左の
チューブに液を移すような単純作業をするのではなく、それぞれの作業の意味を常に
頭に置いていてください。
 また、約 4 週間におよぶ実験は全て一続きです。最初の実験で作ったサンプルが
次の実験の材料になります。途中のどこかで失敗すると、最後までたどり着きません。
マイクロピペット等で試薬をはかるときなどは、細心の注意を払って正確に作業を
してください。



もくじ

0. プラスミド DNA の塩基配列確認
1. 含ウラシル一本鎖 DNA の調製

2. 部位特異的突然変異の導入

3. 大腸菌からのプラスミド DNA の精製(Miniprep)
4. プラスミド DNA の塩基配列確認

5. pBluescript II SK+ ベクターからの EGFP cDNA の切り出し
6. アガロースゲル電気泳動と、ゲルからの DNA の精製
7. DNA 断片の連結(ライゲーション) 

8.
 変異タンパクの発現
9. 変異タンパクの精製



レポートの講評

第 1 週 (含ウラシル一本鎖 DNA の調製、オリゴのリン酸化)
第 2 週 (部位特異的突然変異の導入)
第 3 週 + 第 4 週 (Miniprep、塩基配列決定、制限酵素消化、ライゲーション)
第 5 週 (変異タンパクの発現、pQE30 に組み込んだあとの塩基配列確認)



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