海洋生命・分子工学実験 II

2. 遺伝子工学的実験法(2010)

担当: 藤原滋樹 



はじめに

海洋生命・分子工学コースの人は「生物学概 論 II」,「分 子遺伝学」,「生化学」,「分子生物学」,
遺伝子工学あるいは発生工学」, 「生命分子工学」, 「細胞工学」など で遺伝子の構造や機能
学んだ(あるいはこの実習と並行して学んでいる)ことと思います。それらの講義では,全ての
生物の体は細胞でできているということ,そして生命活動の基 本は細胞の機能で あるいうことも
学びました。細胞の活動を支える主役は分子機械であるタンパク質です。そして タンパク質の
設計図が遺伝子です。私たちは,生命活動のメカニズムを知るためにタンパク質 の機能を知る
必要があります。タンパク質の機能を調べるためには,そのタンパク質を精製するか,あるいは
その設計図を手に入れる必要があります。
 生物の持つタンパク質を精製し,その機能を調べることは非常に重要なことですが,しばしば
重要な機能を持つタンパク質は細胞の中にほんのわずかしかありません。 例えば,ホルモンの
受容体や,転写調節因子のようなタンパクの多くは 1 個の細胞の中に 1000 分子ほどしか
ありません。そのような場合には,遺伝子 DNA そのものや,mRNA のコピーである cDNA と
いったような “設計図そのもの” を手に入れることがとても有効な手段になります。
 一旦設計図を手に入れてしまえば,私たちは,実験のたびにタンパク質を抽出・精製しなくても,
設計図を元にして(大腸菌や酵母,動物細胞を利用して,あるいは細胞の抽出液を利用して
試験管内で)大量のタンパク質を作り出すことができます。また,設計図を書き換えることに
よって,自然のものと異なる活性をもつタンパクを作り出すことだって可能になります。
このようなテクニックは,生体内に微量しか存在しないタンパク質の機能解析に威力を発揮する
だけでなく,有用なタンパク質の大量生産という応用面にも多くの貢献をしてきました。実際,
成長ホルモンやインシュリンなどはこのようにして生産されたものが医薬品として利用されて
います。
 遺伝子は,どんな生物から取り出したものであっても基本的な構造は同じであり,その本体が
DNA という分子であることも学びました。また,DNA は簡単に切ったり貼ったり できるという
ことを,みなさんも知識としては知っているはずです。実際,「分子遺伝学」で学んだような
さまざまな酵素(DNA ポリメラーゼDNA リガーゼな ど)は,精製品が市販されていて,
それを買ってきて自分の注目する遺伝子を切ったり貼ったりすることが簡単にできるように
なっています。DNA を自由自在に切り貼りする技術の確立が,分子遺伝学・分子生物学の
爆発的な発展を支える背景になったのです。

ここでは,クラゲから見つかった光るタンパク質(Green Fluorescent Protein 略して GFP
の cDNA を切り出して,これをプラスミドに組み込みます。このプラスミドから GFP タンパクを
発現させ,そのタンパクの性質を SDS-PAGE などで調べます。この作業を進める過程で,
皆さんは,大腸菌への遺伝子導入 法,大腸菌からのプ ラスミド DNA の精製法 DNA を
決まった場所で切ったり連結したりする方法
(組換え DNA 技術の基本中の基本),大腸菌を
利用して目的のタンパクを発現させる方法などを学びます。これら の技術は,学生実習専用の
実用性のない技術ではなく,将来この分野の専門家になるとしても絶対に必要ですぐに役に立つ
ものばかりです。 皆さんが実験に臨むときには,ただ説明に書いてあるとおりに右のチューブから
左のチューブに液を移すような単純作業をするのではなく,それぞれの作業の意味を常に頭に
置いていてください。
 また,2 週間の実験は全て一続きです。最初の実験で作ったサンプルが次の実験の材料に
なります。途中のどこかで失敗すると最後までたどり着きません。マイクロピペット等で試薬を
はかるときなどは細心の注意を払って正確に作業をしてください。



もくじ

(-1) 練習問題 

(0) プラスミドの塩基配列の確認
(1) 制限酵素によるプラスミドの切断
(2) アガロースゲルからの DNA 断片の精製
(3) ライゲーションとトランスフォーメーション
(4) 大腸菌からのプラスミド DNA の精製
(5) PCR によるプラスミドクローンのチェック  (2010 年は この方法 で)
(6) 塩基配列の決定法
(7) リコンビナントタンパクの発現
(8) リコンビナントタンパクの精製



みんなの実験データ

練習問題 (5/6) 制限酵素処理の結果 
練習問題 (5/7) PCR の結果 

制限酵素処理の結果 (5/7)
  
アガロースゲルからの DNA 断片精製の結果 (5/13) 
コロニー PCR (5/20) 
SDS-PAGE (5/27)  
塩基配列 (5/28)
 

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レポートの解説




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