海洋生命・分子工学実験 II

(1) 材料となるプラスミド DNA の準備

 みんなのデータ



はじめに

みんながこの実習で切り貼りするための材料は 2 種類のプラスミド DNA です。
一つは,mCherry cDNA を組み込んだ pCR IIpCR II-mCherry と名づけましょう) と,
EGFP cDNA を組み込んだ pBluescript II SK+SK+EGFP と呼びましょう) です。
この 2 つのプラスミドを,自分たちで準備しましょう。 みんなに渡す試験管の中では,
大腸菌がさかんに増殖中です。その培養液からプラスミド DNA を精製します。

ここでは,最も普及している簡便法 (アルカリ法あるいは miniprep といいます) によって
プラスミドを精製します。



実験

1 人に 1 本ずつの試験管を渡します。試験管には, 2x YT/amp (a) 液体培地が 1.5 ml 入って
います。その中で大腸菌が増殖中です。そこから作業開始です。約半分の人は pCR II-mCherry
を,残り半分の人たちは SK+EGFP を使います。
 
1. 大腸菌のコロニーを爪楊枝で 1 個つついて,試験管の培養液に入れる。
   注: 無菌操作のコツは,当日実演して教えてあげます。
    
2. 37℃ の,シェイカー付きのウォーターバスで一晩,振盪培養する。
 
3. (・・・翌日) 試験管の大腸菌を全部エッペンチューブに移す。
   注: ピペットを使う必要はありません。
    
4. 30 秒遠心して大腸菌を沈殿させる。
   
5. 上清(培養液)を完全に捨てる。
   最後はマイクロピペットを使って、できるだけ完全に捨てます。

6. Solution I (b) を 100 μL 加え,ボルテックスして沈殿をほぐす。

7. Solution II (c) を 200 μL 加えて,エッペンを上下させて混ぜる。
   注 1: 大腸菌が溶けて液の濁りが消えます。大腸菌のゲノム DNA と RNA,タンパク
      質,そしてプラスミド DNA などが溶液中に溶け出します。ゲノム DNA は 480 万
      塩基対に及ぶため溶液がネバネバするはず。試しにフタを開けてみましょう。
      溶液が糸を引くのがわかりますか?
   注 2: ボルテックス不可! 激しく攪拌するとゲノム DNA が断片化して,プラスミド
      DNA と分離できなくなります。
 
8. 氷上に 5 分おく。

9. Solution III (d) を 150 μL 加え,エッペンを上下させて混ぜる。
   タンパクが不溶化し,巨大なゲノム DNA がそれにからまって,大きな白い沈殿に
   なります。
   注: ここでもボルテックス不可! 染色体 DNA を断片化してはいけません。
      でも確実に完全に混ぜなければいけません。
   
10. 遠心 10 分。

11. 上清をとって新しいエッペンに移す。
   上清にはプラスミド DNA と大腸菌の RNA,タンパク質が溶けています。このあと
   フェノール抽出で除タンパクする場合もありますが,最近はほとんどの人が省略して
   います。
 
12. エタノールを 1 mL 加えて混ぜる。
   もうゲノム DNA はないのでボルテックスを使っても OK です。
 
13. 遠心 10 分。
   今度は DNA と RNA が沈殿します。タンパク質も結構沈殿します。
 
14. 上清を完全に捨て,75% エタノールを 200〜300 μL 静かに加える。
   勢いよく入れると沈殿がエッペンの底からはがれて扱いにくくなります。

15. 軽く(数十秒),遠心する。
   沈殿がチューブにくっついていれば省略してもよいです。
 
16. 上清を完全に捨てて沈殿を乾燥させる。
   チューブのフタを開け,50℃ 程度のヒートブロックで加熱して沈殿を完全に乾燥
   させます。乾燥すると透明になるはず。
 
17.  沈殿を 20 μL の RNase A 入り TE バッファー(e) に溶かす。

18. 37℃ ウォーターバスに 30 分おく。

19. できたプラスミド溶液のうち 1 μL を,新しい 0.5 mL チューブに移す。
   残りのプラスミド溶液は翌日まで冷凍保存しておく。

20. 0.5 ml チューブに移した方の,1 μL のプラスミドに対して,TE 4 μL を
   加え,さらに 6x 色素溶液(f) 1 μL を加えて,よく混ぜる。

21. 1% アガロースゲルで全量を電気泳動し,回収したプラスミドの量を確認する。
   注: アガロースゲルについては,後でもう少し詳しく説明します ( こちら )。
      まあ,専門基礎実験で経験してるから・・・わかるよね?




実験に使う試薬

(a) 2xYT/amp
2xYT 培養液は [1.6% トリプトン,1% 乾燥酵母エキス,0.5% NaCl]。 これに 50〜100 μg/mL
のアンピシリンを溶かしたものが 2x YT/amp。LB より栄養がたっぷりで,プラスミドの
回収率が上がる。
(b) Solution I
[50 mM グルコース,25 mM Tris-HCl (pH 8.0),10 mM EDTA]
調製したあとオートクレーブ滅菌する。
(c) Solution II
[0.2 N NaOH,1% SDS] 
滅菌はしない。室温で数週間は保存して使えるが,使用直前に作るのがベスト。
特に NaOH は直前に溶かすのがいい。
(d) Solution III 
5 M 酢酸カリウムを 60 mL,酢酸を 11.5 mL,蒸留水を 28.5 mL 混ぜる。最終濃度は
酢酸については 5 M,カリウムについては 3 M となる。
(e) RNase A 入り TE バッファー
TE バッファーに最終濃度 0.1 mg/mL の RNase A を溶かす。RNase A のストックは
10 mg/mL 程度で作っておく。粉を買って,[10 mM Tris-HCl (pH 7.5),15 mM NaCl] に
溶かす。それを 100℃ で 15 分煮る。この作業で DNase やタンパク質分解酵素など
は変性・失活するが,RNase A は冷えたら再び活性を持つようになる。 RNaseA は
分子内に多数の S-S 結合を持っていて,熱に非常に強い。冷えたら分注して ‐20℃ で
保存する。
(f) 6x 色素溶液
この実験では [30% グリセリン,0.05% キシレンシアノール,0.05% ブロモフェノールブルー]
を使う。グリセリンは溶液を重くするため。ブロモフェノールブルーは泳動中にサンプルが
どの程度まで泳動されてきたかをモニターするための色素。1% アガロースゲルでは,
ブロモフェノールブルーは約 300 bp の DNA 断片とほぼ同じ位置を流れる。




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