研究

1. 使用済み紙おむつリサイクル技術

 日本では高齢化に伴い、大人用紙おむつの廃棄量が増加傾向にある。現在、使用済み紙おむつの大部分は焼却処理されています。しかしながら、廃棄紙おむつの場合、燃えにくいことから、助燃料代および焼却残渣が増大しています。また、廃棄紙おむつを含む焼却では、高熱燃焼の結果、焼却炉の劣化が促進され、修繕費の増大および寿命が短くなる傾向です。そのため、環境省では紙おむつのリサイクルを促すガイドラインを策定しました。本研究では、オゾンを活用した新しい紙おむつリサイクル技術を確立しました。その結果、従来難しかった使用済み紙おむつに含まれるパルプの回収することができた。この技術により、紙おむつへのパルプの再利用が可能になりました。
また、この技術は、鹿児島県志布志市において、実証実験が進行中です。さらに、2023年度から本格実施され、回収したパルプを使用した紙おむつの製造に関する事業がスタートする予定です。

関連論文:
Journal of cleaner production 276, 123350 (2020), DOI: https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2020.123350.

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2. セルロースを活用した生分解性材料開発

 本研究では、木材成分のセルロースを用いて調製した紙の生分解性材料に関する研究です。
プラスチック代替材料として、生分解性材料としての紙に求められる場合、欠点となるのが湿潤紙力(水に濡れた場合の強度)です。それに加え、生分解性のコントールも重要です。例えば、農業用マルチシートなどに紙を使用する場合、栽培作物が育つ前に分解されてしまうとマルチシートの意味をなさなくなります。そこで、リン酸と尿素を活用した簡易な手法を用いて、微生物による分解のコントロールと湿潤紙力の兼ね備えた紙材料の開発に取り組んでいます。また、この研究成果を活用して、海中における生分解性材料の開発にも取り組んでいます。

関連論文:
Cellulose, 26, 5105-5116 (2019),DOI:https://doi.org/10.1007/s10570-019-02423-y

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3. 農業廃棄物ユズ果皮を活用した材料開発

 高知県のユズ生産量は全国第1位で全体の5割近くを占めています。ユズ果皮は県内生産量の50%以上の重さを占めているにも関わらずその利用方法が少なく、特に精油抽出後のユズ果皮の大部分は廃棄処分されています。このことから廃棄ユズ果皮残渣の利用を拡大することは、重要な課題です。 廃棄ユズ果皮残渣から、ペクチンおよびセルロース成分を段階的に抽出するための効率的かつ質を考慮した抽出を行い、有効活用することに取り組んでいます。また、紙に用いることで、紙に新しい特徴を付与する研究も進めています。廃棄ユズ果皮の再資源化および新たな機能性紙製品群の創出により、高知県の産業への寄与を図ります

関連論文:準備中

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4. イオン液体を駆使した機能紙開発

 イオン液体(セルロースを溶解できる新しい溶剤)を用いて、紙中のセルロースを部分的に溶解することにより、湿潤強度を有す紙の調製を試みました。湿潤紙力増強剤は、紙を水に浸漬した後の湿潤強度を維持する目的で、紙に使用されています。このことから、耐水段ボール、包装紙、ペーパータオル、ティッシュペーパーなどに使用されています。湿潤紙力増強剤としては、ポリアミドーポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂等が使用されていますが、副生物質の毒性が高いことから、近年、環境配慮の観点から、代替方法が必要とされています。
 本研究は、イオン液体を用いて、紙中のセルロースを部分的に溶解することで、全てセルロース成分から構成された湿潤強度を有する紙の調製を行った結果、非常に高い湿潤強度を得ることに成功しました。
 また、この成果により、水環境下で使用可能な機能紙への展開も可能です。担持体である紙に活性炭や触媒させることにより、水環境下で使用可能な水環境浄化紙や触媒紙としての展開が期待されます。
 イオン液体で処理したパルプを用いた作成した紙は、引張り強度だけでなく、比表面積やポリエチレングルコール吸着率・保湿率が向上することを明らかにしています。

関連論文:
・Cellulose 27, 8317-8327 (2020), DOI:https://doi.org/10.1007/s10570-020-03303-6
・Cellulose, 24(8), 3469-3477 (2017). DOI: https://doi.org/10.1007/s10570-017-1340-8

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5.  パームファイバーの活用(インドネシアとの大学との共同研究)

 本研究は、インドネシアのパームオイル産業から排出される廃棄物の有効活用に関する国際共同研究です。パームオイルは、インドネシアの輸出産業で12%を占めています。その結果、大量のパームオイル産業由来の廃棄物が産出され、そのうちパームファイバーが22~24%となっています。パームファイバーにはセルロースが50%含まれ、廃棄物であるパームファイバーに含まれるセルロースを活用した製品開発が求められています。本研究では、食品分野の利用、カルボキシルメチルセルロースを調製しました。オゾン処理を活用することにより、カルボキシメチルセルロースの性質コントロールが可能となり、付加価値を付与することができました。

関連論文:
・Journal of applied polymer science 138, e54228 (2023), DOI: https://doi.org/10.1002/app.54228
・Journal of applied polymer science 138, e49610 (2021), DOI: https://doi.org/10.1002/app.49610
・森林バイオマス利用学会誌 14, 1-9 (2019)

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6. インテリジェント機能紙

 インテリジェント材料とは、外部環境に応答して、機能を発現する材料である。このインテリジェント機能を有する素材の開発を行い、紙・不織布に適用することを試みる。これにより、外部環境の変化を鋭敏に検知し機能
を発現する、従来には無い機能を有する紙・不織布の創製が可能となり、世界初となるインテリジェント性を有する商品の開発が期待される。体内成分や体温に応答し、機能発現する素材、具体的には、Naイオンに応答して保湿剤を放出する紙の創製、温度応答性機能紙、外部変化に応答して匂いを放出する紙などの調製を行っています。

関連論文:
・ Journal of Applied Polymer Science, 134(9) , 44530 (2017) DOI: https://doi.org/10.1002/app.44530.
・Chemical Engineering Journal, 245, 17-23(2014).  DOI: https://doi.org/10.1016/j.cej.2014.02.019
・Journal of Applied Polymer Science, 129, 2139-2144 (2013). DOI: https://doi.org/10.1002/app.38941
・Journal of Applied Polymer Science, 127, 1725-1729 (2013). DOI: https://doi.org/10.1002/app.37902.  
・ Journal of Materials Science, 45, 1343-1349 (2010) DOI: https://doi.org/10.1007/s10853-009-4088-1.
・Journal of Materials Science, 44, 992-997 (2009).DOI: https://doi.org/10.1007/s10853-008-3220-y
・Journal of Materials Science, 43, 1486-1491 (2008). DOI: https://doi.org/10.1007/s10853-007-2341-z
・ Journal of Materials Science, 40, 1987-1991 (2005).DOI: https://doi.org/10.1007/s10853-005-1221-7

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7. 製紙スラッジの完全再資源化

紙パルプ産業から排出される製紙スラッのパルプ成分は焼却され、残った無機物質は埋め立て処分されている。また、現在では無機物質の再利用に関する研究も行われているが、パルプと無機物資の分離は困難であり、パルプ分を焼却して無機物資とパルプ分の分離を行っている。本研究では、パルプ成分および無機成分同時に有効に再生利用する方法として、イオン液体を用いて、パルプ成分と無機成分の分離回収を行う。イオン液体はパルプ成分を溶解することが報告されており、イオン液体を使用すれば、パルプ分のみを選択的に溶解することができ、そのことにより、無機成分とパルプ成分の分離回収が可能になる。 イオン液体は環境負荷のないグリーンインダストリーの未来の溶媒として注目を集めている材料であり、このシステムの確立により、環境に優しい廃棄物処理法の確立が期待される。

関連論文:
・ Journal of Material Cycles and Waste Management, SPECIAL FEATURE: ORIGINAL ARTICLE AGRO' 2014,18(2), 215-221, (2016). DOI :
https://doi.org/10.1007/s10163-015-0391-x
・ Chemical Engineering Journal, 173, 129-134 (2011) DOI:https://doi.org/10.1016/j.cej.2011.07.048
・“酸化チタン含有人工ゼオライトの合成及びその消臭能”、紙パ技術誌、60、1561-1567(2006) 

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8. 界面重合反応を活用した機能紙開発

本研究では、“紙表面上のナノ界面制御”をキーワードに、シート状素材である紙や不織布の表面機能化を試みる。紙表面上に形成したナノ界面領域を利用して、紙表面上で機能材料の合成と定着を同時に行うことを基本コンセプトとし、種々の機能を有するシート状素材の創製を試みる。界面重合反応を利用して、紙や不織布等のシート状素材表面上で直接高分子膜の合成を行い、マイクロカプセル状、ファイバー状、多孔状の形態を有する高分子膜の開発を試みる。種々の形態の高分子膜の合成が可能であることから、その形態の特徴に応じたシート状素材の開発が期待される。本研究ではこの形態が変化するメカニズムの解明を目的とした基礎的実験を行っている。 また、本手法を活用して、徐放効果のある防虫紙、剥離紙のいらない粘着紙などの開発も行っている。

関連論文:
・Journal of fapplied polymer science (2023). DOI: https://doi.org/10.1002/app.55077.
・Chemosphere, 256, 127143 (2020). https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2020.127143
・ Industrial & Engineering Chemistry Research, 55(4), 961-966 (2016). DOI: https://doi.org/10.1021/acs.iecr.5b04548
・ Polymer bulletin, 72, 2621-2632 (2015). DOI: https://doi.org/10.1007/s00289-015-1426-0
・ Industrial & Engineering Chemistry Research, 52, 9137-9144 (2013). DOI: https://doi.org/10.1021/ie401082a
・Journal of Applied Polymer Science, 124, 242-247 (2012). DOI: https://doi.org/10.1002/app.33900
・Journal of Materials Science, 41, 7019-7024 (2006).DOI: https://doi.org/10.1007/s10853-006-0789-x

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