黄緑藻トリボネマ属の一種におけるセルロースミクロフィブリルの形成
内藤知恵 (自然環境科学専攻 生物科学講座)

Tribonema属の一種は黄緑藻綱トリボネマ目に属し,淡水域に生育している.藻体は直径 3.5-4.5 μmの円筒形の細胞からなる単列糸状の体制を示す・1個の核と4個の着壁性の葉緑体を含むが,となり合う細胞間をしきる隔壁がその断面においてH型構造をもつことがトリボネマ属の特徴となっている.
 本研究では,Tribonema属の一種における細胞壁を構成するセルロースミクロフィブリル(CMF)の形態と,CMFを合成するセルロース合成酵素複合体(TC)の構造を,電子顕微鏡を用いて明らかにした.
 細胞壁がセルラーゼの一種 CBH−?に結合させた金粒子によって標識されたこと,及び化学的に分離したミクロフィブリルを電子回折し,得られた回折像より,本種の細胞壁はセルロースからなることが明らかとなった・ネガティブ染色により,CMF は,その幅が1.5-14nmで変動し,厚さが平均 2.58 nm でほぼ一定な,扁平なリボン状の形態を呈することが明らかになった.しかし,CMF の幅の計測値は,acetic・nitric reagent による処理よりも,NaOH/HClによる処理の方が大きかった.このことは CMF がいくつかのもっと微小な繊維からなることを示唆している.
  CMF を合成するセルロース合成酵素複合体(TC)の構造を明らかにするために生細胞を急速凍結し,フリーズフラクチャ一法によって原形質膜割断面を観察した.細胞壁内にはランダムに配向するCMFが層をなしていた.また,原形質膜割断面のPF面及びEF面においても,ランダムに配向するCMFの軌跡が観察された.原形質膜 PF面において,CMFの軌跡の先端部に頼粒の集合体が観察された・この顆粒の集合体の多くはCMFの先端に位置していたので,この集合体はTCであるとみなした.TCは頼粒が2列または3列直線上に配列する構造であった.列を構成する平均顆粒数は 4. 37個であり,頼粒の直径の平均は6.5nmであった.TC頼粒は原形質膜の他の頼粒に比べ,小さかった.CMF の軌跡を伴わないTC様頼粒も存在した.
 本研究で明らかになったトリボネマ属の一種のTCの構造は,今までに知られてきている黄緑藻綱に属する種におけるTCの構造と異なっていた・これは,同一系統群に異なるTCが存在するという最初の報告となる.                    「藻類学会発表

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