専門コア情報処理演習

作業を始める前に必要な予備知識



この授業は『情報処理演習』なので、詳しいことは知らなくても OK です。 3 年生向けの
『遺伝子工学』や『生命分子工学』で学んでください。ここでは、ごく簡単に要点のみを
説明します。

1. 遺伝子の本体は DNA という物質です。DNA は 4 種類のヌクレオチドアデニン
  グアニンシトシンチミンという 4 種類の塩基のうち一つを持っており、それぞれ A、
  G、C、T という略号で表されます)と呼ばれる物質が 1 列に並んだひもが 2 本並んで
  できています。片方の鎖が A ならもう一方の鎖には T が、片方の鎖が G ならもう
  一方の鎖には C が向かい合っていて、”対”をなしています。

2. DNA の鎖には方向があります。たとえば、一方の鎖が GATTTCACAGT と読まれる
  場合は、その鎖のその部分は TGACACTTTAG という配列と同じものではありません。
  また、この鎖と対をなすもう一方の鎖は逆向きになっているので、上の配列と対をなす
  部分の配列は ACTGTGAAATC です。鎖の先頭の方を 5' 末端、おしまいの方を
  3' 末端と言います。

3. タンパク質は一般に 20 種類のアミノ酸という物質が 1 列に並んでできています。
  そのアミノ酸の鎖が複雑に折りたたまれて決まった立体構造をとります。

4. DNA の鎖には、タンパク質の設計図が(A、G、T、C の4文字からなる)暗号として
  書き込まれていると考えることができます。 DNA の配列の中にはタンパク質の設計図で
  ある部分と、そうでない部分とがあります。言い換えれば DNA の配列の”一部分”がアミ
  ノ酸の配列を指定していると考えることができるわけです。

5. アミノ酸 1 個は DNA の配列(塩基配列という) 3 個(コドンという)で指定されます。
  例えば ATG という塩基配列(開始コドン)はメチオニン(M)というアミノ酸を、TGG は
  トリプトファン(W)というアミノ酸をコードします。また、例えば、TTA、TTG、CTT、CTC、
  CTA、CTG のいずれもがロイシン(L)というアミノ酸をコードするというように、複数の
  塩基配列が 1 種類のアミノ酸をコードする場合がありますが、1 種類の塩基配列が
  複数のアミノ酸をコードすることはありません。 DNA の塩基配列(暗号)をアミノ酸配列
  として翻訳するための暗号表(遺伝暗号表、コドン表)は このページ にあります。

6. 1 個のタンパク質は 1 本または複数本のアミノ酸の鎖でできていますが、1 個の遺伝子
  がコードするのは 1 本の鎖だけです。その始まりは必ず ATG(メチオニン)であり、その
  終わりは TAA、TAG、TGA のいずれか(終止コドン;これらの塩基配列に対応する
  アミノ酸は存在せず、ここでアミノ酸の鎖の合成が終わる)です。

7. 例えばある遺伝子の一部分の塩基配列 AAGATCTGGTTCCAGAATCGTAGA が
  コードする可能性のあるアミノ酸配列は KIWFQNRR、RSGSRIV、または DLVPES*
  (* は終止コドン)のいずれか、あるいはもう一方の鎖がタンパク質をコードしてい
  る可能性もあるので、逆向きの配列 TCTACGATTCTGGAACCAGATCTT に対応す
  る STILEPDL、LRFWNQI、または YDSGTRS というアミノ酸になるのかも知れません。
  つまり、6 とおりの可能性があるわけです。単離した遺伝子が全長でなく断片である場合、
  実際に、上記のどの可能性が正しいかを断定することはできません。

8. タンパク質の持つ機能は、その立体構造によって決まっており、よく似た機能を持つ
  タンパク質は、生物の種を超えてよく似たアミノ酸配列をしています。
  例は、 このページ を参照してください。

9. cDNA とは complementary DNA の略です。mRNA鋳型として、試験管内で
  逆転写反応(RNA 依存的な DNA 合成)を行い、mRNA に相補的(complementary)な
  DNA を合成します。最初の段階では cDNA (これを特に cDNA の第一鎖 first strand
  と言います)は、mRNA と
塩基対を作っています。最終的には、mRNA を分解しながら
  第一鎖に相補的な(つまり mRNA と同じ側の) DNA 鎖を合成して
二重鎖 DNA とします。
  こうしてできた二重鎖の DNA のことも cDNA と言います。この二重鎖 cDNA についても
  mRNA の
5' 側と同じ側を cDNA の 5' 側という風に表現します。したがって、タンパクを
  コードする領域(
翻訳領域)の開始コドンは cDNA の 5' 側に近いところに、そして、
  終止コドンは cDNA の 3' 側に近いところにあることになります。もちろん、cDNA には
  5' 非翻訳領域リーダーセグメント)と 3' 非翻訳領域トレイラーセグメント)も
  含まれることになりますので、注意しましょう。
ゲノム上の遺伝子と cDNA はどこが
  違いますか? cDNA は、
プロセッシングを受けた後の mRNA を鋳型として合成された
  ものなので、
イントロンを含みません。したがって、翻訳領域がイントロンによって分断
  されることがなく、開始コドンから終止コドンまでが完全に連続しています。また、
  cDNA の合成の方法によっては、cDNA の
3' 末端にポリ(A)配列が含まれることも
  cDNA の特徴です。
  
10. 最初、試験管の中では別々の遺伝子に由来するたくさんの種類の mRNA から合成
  された cDNA がごちゃ混ぜに存在しています。これを適当な
プラスミドバクテリオ
  ファージなどに組み込んだ後、そのプラスミドを
大腸菌などの宿主に導入し寒天培地に
  ばら撒けば、1 種類の cDNA のみを細胞内にもつ大腸菌の
クローンを多数手に入れる
  ことができます。それぞれの大腸菌には 1 本の mRNA に由来する cDNA のみが入って
  いるのですが、そういう大腸菌を何十万クローンも何百万クローンも揃えれば、たくさん
  の種類の遺伝子に対応する cDNA を揃えることができるわけです。このような cDNA
  のセットのことを
cDNA ライブラリーと言います。大腸菌のクローンに含まれる単一の
  種類の cDNA のことも
クローンと言います。そんなわけで、単一の cDNA を手に入れる
  (単離 isolate する)ことを
cDNA クローニングと表現します。
 


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