生体機能物質工学実験 II

2‐7. 大腸菌からのプラスミド DNA の精製
(miniprep)


はじめに

さて、みんなの組み立てたプラスミドがうまく大腸菌に導入されていれば、
プレートには、プラスミドを持つ大腸菌のコロニーができているはずです。
しかし、例えばその中から 1 個のコロニーを拾った場合、大腸菌の中に
入っている自分の期待どおりの形のプラスミドが入っているとは限りません。
例えば、pQE‐30 プラスミドを BamHI と SalI で切ったときに、運悪く
BamHI の方でだけ切断されて SalI では切れなかったとします。このように
してできたプラスミド断片は、その両端が BamHI の切断末端ですから、
cDNA を挟みこまなくても勝手に環を閉じられるのです(セルフライゲーション)。
しかも、2 本の鎖をつなぎ合わせるよりも、セルフライゲーションの方が
かなり効率よく起こります。(自由に歩き回る二人の学生がキャンパス内で
出会う確率と、紐でつながれた二人がキャンパス内で出会う確率を比べて
みましょう。)したがって、制限酵素処理が不充分だった場合などには、
このような期待しない形のプラスミドが入ったコロニーがたくさんできている
可能性もあります。
 そこで、通常は、1 つのプレートから多数のコロニーを拾って、中の
プラスミドが”本物”かどうかを確かめる必要があります。チェックの方法は
いくつもあります。例えば、
(1) コロニーを拾って大腸菌を溶かし、DNA を抽出して特異的プライマーを
  用いて cDNA を PCR で増幅し、 cDNA がきちんと増幅されてくるかどうか
  を調べます。
(2) プラスミドを精製して塩基配列を決定する方法もあります。
(3) タンパクを発現させる目的で組み立てたプラスミドの場合、実際に
  タンパクを発現させてみるのもいいでしょう。
通常は複数の方法で何段階かのチェックを重ねて、本物かどうかを確認します。
この実習では、第 1 段階として最も一般的に行われるチェック方法をやってみましょう。
(4) プラスミドを精製して制限酵素で切ってみるのです。

ここでは、まず大腸菌からプラスミド DNA を抽出・精製します。
本当は、1 つのプレートからコロニー数十個は拾うのが普通ですが、今回は、
1 人 1 コロニーにしましょう。
 



実験

トランスフォーメーション後の大腸菌をまいたプレートにはたくさんのコロニーが
できるはず。実験の前日の夜に、コロニーを拾って 1.5 ml の 2x YT/amp (a)
液体培地(試験管)で一晩振盪培養する。(これは教官の方でやっておく。)
実験当日は、大腸菌がいっぱいに増えた試験管をみんなに渡し、そこから
作業を始める。

1. 試験管の大腸菌をエッペンに移す。
   注: エッペンに入る分だけでよい。ピペットを使う必要はない。
    
2. 30 秒遠心して大腸菌を沈殿させる。
   
3. 上清(培養液)を完全に捨てる。
   最後はマイクロピペットを使って、できるだけ完全に捨てる。

4. Solution I (b) を 100 μl 加え、ボルテックスして沈殿をほぐす。
   この Solution I は、前の実験で使った DNA Ligation Kit の Solution I とは
   別物なので注意。

5. Solution II (c) を 200 μl 加えて、エッペンを上下させて混ぜる。
   注 1: これで大腸菌が溶けて、液の濁りが消える。そして、大腸菌の
     染色体 DNA と RNA、タンパク質、そしてプラスミド DNA などが
     溶液中に溶け出す。染色体 DNA は 900 万塩基対に及ぶため
     溶液がネバネバする。試しにフタを開けてみる。溶液が糸を引くのが
     わかるはず。
   注 2: ボルテックス不可! 激しく攪拌すると染色体 DNA がブツブツに
     切れて、プラスミド DNA と分離できなくなる。 

6. 氷上に 5 分おく。

7. Solution III (d) を 150 μl 加え、エッペンを上下させて混ぜる。
   タンパクが沈殿し、同時に巨大な染色体 DNA はそれにからめとられる。
   白い大きな沈殿ができる。
   注: ここでもボルテックス不可! 染色体 DNA を断片化しては
     いけない。でも、確実に完全に混ぜる。
   
8. 遠心 10 分。

9. 上清をとって新しいエッペンに移す。
   上清にはプラスミド DNA と大腸菌の RNA、タンパク質が溶けている。
   このあと、フェノール抽出で除タンパクする場合もあるが、最近は
   ほとんどの人が省略している。

10. エタノールを 1 ml 加えて混ぜる。
   もう染色体 DNA はないので、ボルテックスを使ってもよい。

11. 遠心 10 分。
   今度は DNA と RNA が沈殿する。タンパク質も結構沈殿する。

12. 上清を完全に捨て、75% エタノールを 200‐300 μl 静かに加える。
   勢いよく入れると沈殿がエッペンの底からはがれて扱いにくくなる。

13. 軽く(数十秒)、遠心する。
   沈殿がチューブにくっついていれば省略してもよい。

14. 上清を完全に捨てて沈殿を乾燥させる。
   チューブのフタを開け、50℃ 程度のヒートブロックで加熱し、沈殿を
   完全に乾燥させる。乾燥すると透明になるはず。

15. 沈殿を 20 μl の RNase A 入り TE バッファー(e) に溶かす。

16. 37℃ ウォーターバスに 30 分おく。
 


実験に使う試薬・器具

(a) 2xYT/amp

2xYT 培養液は [1.6% トリプトン、1% 乾燥酵母エキス、0.5% NaCl]。
これに 50-100 μg/ml のアンピシリンを溶かしたものが 2x YT/amp。
LB より栄養がたっぷりで、プラスミドの回収率が上がる。
(b) Solution I
[50 mM グルコース、25 mM Tris-HCl (pH 8.0), 10 mM EDTA]
調製したあと、オートクレーブ滅菌する。
(c) Solution II
[0.2 N NaOH, 1% SDS] 滅菌はしない。
室温で数週間は保存して使えるが、使用直前に作るのがベスト。
特に NaOH は直前に溶かすのがいい。
(d) Solution III 
5 M 酢酸カリウムを 60 ml、 酢酸を 11.5 ml、蒸留水を 28.5 ml 混ぜる。
最終濃度は酢酸については 5 M、カリウムについては 3 M となる。
(e) RNase A 入り TE バッファー
TE バッファーに、最終濃度 0.1 mg/ml の RNase A を溶かす。

RNase A のストックは 10 mg/ml 程度で作っておく。粉を買って、
[10 mM Tris-HCl (pH 7.5), 15 mM NaCl] に溶かす。それを
100℃ で 15 分煮る。この作業で、DNase やタンパク質分解酵素など
は変性・失活するが、RNase A は冷えたら再び活性を持つようになる。
冷えたら分注して ‐20℃ で保存する。



 遺伝子工学的実験法の目次へ戻る