生体機能物質工学実験 II

3. 大腸菌からのプラスミド DNA の精製
(miniprep)


はじめに

さて、変異を導入したプラスミドがうまく大腸菌に導入されていれば、プレートには
プラスミドを持つ大腸菌のコロニーができるはずです。しかし、例えばその中から 1 個の
コロニーを拾った場合、大腸菌の中に自分の期待どおりの配列のプラスミドが入っている
とは限りません。変異の入っていない元通りのプラスミドや、2 ヶ所に変異を入れたかった
のに 1 ヶ所にしか変異の入っていないプラスミドが入っていたり、あるいは、プラスミドに
思いがけない場所に変異の起こったプラスミドが入っていたりします。
 そこで、通常は、1 つのプレートから多数のコロニーを拾って、中のプラスミドが “本物”
かどうかを確かめる
必要があります。今回の実験では、大腸菌を試験管で液体培養して
その大腸菌からプラスミド DNA を抽出・精製し、配列決定をして期待通りの変異が導入
されているかどうかをチェックします。Kunkel 法での変異導入実験の場合、1 つのプレート
から数個〜10 個程度のコロニーを拾うのが普通ですが、今回は 1 人 1 コロニーに
しましょう。



実験

トランスフォーメーション後の大腸菌をまいたプレートにはたくさんのコロニーができる
はず。実験の前日の夜に、コロニーを拾って 1.5 mL の 2x YT/amp (a) 液体培地
(試験管)で一晩振盪培養する。(これは教官の方でやっておく。) 実験当日は、
大腸菌がいっぱいに増えた試験管をみんなに渡し、そこから作業を始める。

1. 試験管の大腸菌をエッペンに移す。
   注: エッペンに入る分だけでよい。ピペットを使う必要はない。
    
2. 30 秒遠心して大腸菌を沈殿させる。
   
3. 上清(培養液)を完全に捨てる。
   最後はマイクロピペットを使って、できるだけ完全に捨てる。

4. Solution I (b) を 100 μL 加え、ボルテックスして沈殿をほぐす。

5. Solution II (c) を 200 μL 加えて、エッペンを上下させて混ぜる。
   注 1: これで大腸菌が溶けて、液の濁りが消える。そして、大腸菌のゲノム
     DNA と RNA、タンパク質、そしてプラスミド DNA などが溶液中に溶け出す。
     ゲノム DNA は 400 万塩基対を超えるため溶液がネバネバする。試しに
     フタを開けてみる。溶液が糸を引くのがわかるはず。
   注 2: ボルテックス不可! 激しく攪拌すると染色体 DNA が断片化して
     プラスミド DNA と分離できなくなる。 

6. 氷上に 5 分おく。

7. Solution III (d) を 150 μL 加え、エッペンを上下させて混ぜる。
   タンパクが沈殿し、同時に巨大な染色体 DNA はそれにからめとられる。
   白い大きな沈殿ができる。
   注: ここでもボルテックス不可! 染色体 DNA を断片化してはいけない。
     でも、確実に完全に混ぜる。
   
8. 10 分間、遠心する。

9. 上清をとって新しいエッペンに移す。
   上清にはプラスミド DNA と大腸菌の RNA、タンパク質が溶けている。このあと
   フェノール抽出で除タンパクする場合もあるが、ほとんどの人が省略している。

10. エタノールを 1 mL 加えて混ぜる。
   もう染色体 DNA はないので、ボルテックスを使ってもよい。

11. 10 分間、遠心する。
   今度は DNA と RNA が沈殿する。タンパク質も結構沈殿する。

12. 上清を完全に捨て、75% エタノールを 200‐300 μL 静かに加える。
   勢いよく入れると沈殿がエッペンの底からはがれて扱いにくくなる。

13. 軽く(数十秒)、遠心する。
   沈殿がチューブにくっついていれば省略してもよい。

14. 上清を完全に捨てて沈殿を乾燥させる。
   チューブのフタを開け、50℃ 程度のヒートブロックで加熱し、沈殿を完全に乾燥
   させる。乾燥すると透明になるはず。

15. 沈殿を 20 μL の RNaseA 入り TE バッファー(e) に溶かす。

16. 37℃ ウォーターバスに 30 分おく。
 


実験に使う試薬・器具

(a) 2xYT/amp

2xYT 培養液は [1.6% トリプトン、1% 乾燥酵母エキス、0.5% NaCl]。
これに 50-100 μg/mL のアンピシリンを溶かしたものが 2x YT/amp。
LB より栄養がたっぷりで、プラスミドの回収率が上がるので、この実験でも
2x YT/amp を使います。
(b) Solution I
[50 mM グルコース、25 mM Tris-HCl (pH 8.0), 10 mM EDTA]
調製したあと、オートクレーブ滅菌する。
(c) Solution II
[0.2 N NaOH, 1% SDS] 滅菌はしない。
室温で数週間は保存して使えるが、使用直前に作るのがベスト。
特に NaOH は直前に溶かすのがいい。
(d) Solution III 
5 M 酢酸カリウムを 60 mL、 酢酸を 11.5 mL、蒸留水を 28.5 mL 混ぜる。
最終濃度は酢酸については 5 M、カリウムについては 3 M となる。
(e) RNaseA 入り TE バッファー
TE バッファーに、最終濃度 0.1 mg/mL の RNaseA を溶かす。RNaseA のストック
は 10 mg/mL 程度で作っておく。粉を買って、[10 mM Tris-HCl (pH 7.5), 15 mM
NaCl] に溶かす。それを 100℃ で 15 分煮る。この作業で、DNase やタンパク質
分解酵素などは変性・失活するが、RNaseA は冷えたら再び活性を持つようになる。
冷えたら分注して ‐20℃ で保存する。

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