生体機能物質工学実験 II

第 2 週のレポートへの簡単なコメント



講評:

多くの人のレポートでは、1 回めのレポートへのコメントが活かされていて、「方法」のところが
よく書けていました。次回以降も「自分の行った実験の結果を報告する」のだということを
忘れないように、書き方に注意してください。

課題 1:

* 今回は、変異を導入したプラスミド DNA を in vitro で合成し、これを用いて大腸菌 DH5α
  をトランスフォーメーションしたところで終わっていますので、“結果” と言えるようなものは
  ほとんどありませんでした。結果についての考察は、次回のレポートを楽しみにすること
  にします。

課題 2:

* コメントの必要はありませんね。わからなかった人、わかった人に教えてもらってください。
  わかった人、ほかの人に教えてあげることは、自分の頭を整理するのに役立ちます。
  わかりやすく解説してあげてください。

課題 3:

* 課題 2 では、0.01 μg のプラスミドを導入しました。課題 3 は今回と同様の実験です。
  ここでは、課題 2 で用いたプラスミドの量(0.01 μg)よりもかなり多い量の含ウラシル
  一本鎖 DNA を用いました。にも関わらず、できたコロニー数は課題 2 の実験よりも
  はるかに少なかった・・・なぜか(?)という問題です。ここでは、課題 2 の実験条件と
  課題 3 (今回の実習で行った実験)の条件とでどこが違うかを考えましょう。課題 2
  では、環状二本鎖の完全な姿のプラスミドを正味 0.01 μg 使っています。それに対し
  課題 3 では一本鎖 DNA を鋳型として相補鎖を in vitro で合成しています。ここでは、
  試験管の中で何段階もの化学反応を行っていますから、「全てのオリゴがリン酸化
  されていない」、「リン酸化オリゴが全ての鋳型鎖に対してアニーリングしない」、
  「例えば鋳型鎖内部に短い回文構造があり、部分的に分子内塩基対合をしてしまった
  などの理由で合成反応が途中で止まることもある」、「合成反応が最後まで(一周)
  進んでもライゲーション反応が起こらないこともある」などの理由で何パーセントか
  ずつロスが出ることになります。実際には、これらの過程が全て起こらないとコロニー
  はできないわけですから、鋳型のうちで、コロニーを作れるような状態のプラスミドを
  生成できるものの割合は、各過程でうまく行った反応の割合の “掛け算” ということに
  なります。意味、わかりますか?例えば、各過程で 80% の反応が期待通りに進むと
  しても、5 段階の反応をすれば、 0.8 x 0.8 x 0.8 x 0.8 x 0.8 = 0.33 となり 30% 程度しか
  プラスミドにならないという計算になるわけです。だから、全体としてはかなり効率の
  悪い実験になることは避けられません。このような効率の悪さは、教科書で理論を学ぶ
  ときには無視していますが、現実の研究をするうえでは、知っておかないと成功しません。

課題 4:

* この課題の内容は、現実のみんなの実験結果を見て実感できたことだろうと思います。

* 含ウラシル一本鎖 DNA は、大腸菌 DH5α の中で分解され消えていくことを期待して
  いますが、消えない場合もあります。このときには、変異の入っていないプラスミドが
  回収されてくる場合もあります。ときどき、1 個の大腸菌の中に変異の入っていない
  プラスミドと変異の入ったプラスミドが両方入っていることがあります。トランスフォー
  メーションの効率の悪さ(課題 2)を考慮すると、1 個の大腸菌細胞内に 2 個のプラス
  ミドが入る確率はほとんど無視していいほどです。したがって、そのような場合には
  含ウラシル一本鎖 DNA が分解されずにプラスミド複製の鋳型として機能したことが
  示唆されます。ただし、みんなの今回の実験では、変異のないプラスミドが入っていた
  大腸菌の中には、変異の入ったプラスミドは混在していませんでしたよね(塩基配列
  のピークは混ざっていなくてきれいだったはず)。そういう場合については、別の理由
  を考えた方がよさそうです。

* 変異型の配列をもつリン酸化オリゴがきちんと一本鎖 DNA にアニーリングしていれば
  相補鎖は変異型の配列になるはずです。ここで、安いオリゴを注文してしまうと、たまに
  配列の違うオリゴが混ざってしまう場合があります(ごめん。実習のは安いやつだった)。
  そうでないとすれば、考えられるのは、オリゴがアニーリングしなかった・・・そのため
  変異を導入したい部分がオリジナルの配列を持つ含ウラシル一本鎖 DNA の配列の
  そのままに複製されてしまった・・・ということです。どうしたらそういうことが起こるので
  しょうか?一番ありそうなのは、「変異を導入したい部分とは別の箇所にプライマー
  結合して相補鎖の合成が始まった・・・そして変異を導入したい部分では、単純に合成
  反応が通り過ぎて行っただけ・・・」ということです。この場合、問題は、何がプライマー
  になったか(?)です。ここで考えられるのは、一本鎖 DNA の調製の作業です。ここ
  ではプラスミドとヘルパーファージを感染させた大腸菌の培養液から一本鎖 DNA を
  精製しました。この過程で、死んだ大腸菌(少しくらいはいるでしょう?)から出てきた
  RNA や DNA のクズ、ヘルパーファージ・・・あるいはプラスミドなどの断片などが、プライ
  マーとして機能できる可能性があります。DNA 合成酵素は数ヌクレオチドの短い断片
  でもプライマーとして使うことができます。一本鎖 DNA が完全に純粋なものではあり
  得ない以上、こうした可能性も避けることはできないのです。

* 「ミスマッチ修復が起こってしまった」という可能性を指摘した人が結構いました。そういう
  可能性を否定することはできないと思います。
  
課題 5

* cDNA を使う代わりにゲノム DNA を使ったらどうなるか・・・。一番の問題は、イントロン
  です。真核生物の遺伝子の多くはイントロンを持ちます。クラゲの GFP 遺伝子がどうか
  は、問題文には書きませんでしたが、実際にイントロンがあります。みんなはもちろん
  イントロンがあるかないかを知らないわけですが、可能性としては考えないといけません。
  大腸菌にはスプライシングに関与する因子群が存在せず、転写された mRNA はそのまま
  (転写の反応が終わりもしないうちに)翻訳に使われます。イントロンを含むような真核生物
  の遺伝子を大腸菌で発現させると、イントロン部分も強引に翻訳されます。そのため通常は
  イントロン内部に終止コドンが来てタンパク合成は止まってしまいます。運良く終止コドンに
  出会わなくても、意味のない長いペプチドがはさまるので、正常に機能するタンパクは、
  まず合成されることはありません。

* プロモーターの違いについて考えた人もいました。確かにプロモーターの配列は、原核
  生物と真核生物で違います。ただ、今回の実習と同様の手順で実験を進めるとすると
  タンパク発現用に使うプロモーターは pQE30 に備わっている T5 ファージのプロモーター
  です。また、転写開始点も、Shine-Dalgarno 配列も、開始コドンも、pQE30 に最初
  から備わっているものを使うわけで、そこの部分は問題ないのです。



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