生体機能物質工学実験 II

第 5 週のレポートへの簡単なコメント



講評:

実習、お疲れさまでした。今回の実習は作業が簡単な割りに内容が難しくて、レポート課題を
考えるのに苦労したことと思います。しかし、レポートで考察したことを、実際の実験の失敗で
体験することができて、勉強になったのではないでしょうか? いまは、全部のことを理解でき
なくても焦ることはありません。卒業研究をするようになれば、理解できるようになります。
実習で学んだことを忘れないでくださいね。

課題 1:

* 実験の結果が、方法のところに付け足しのように書いてあるという前回のコメントを意識
  してか、今回は、学術論文のようなスタイルで、「方法」、「結果」、「考察」 というセクション
  構成にしてあった人が結構いました。来年みんなが書く卒業論文も、また将来研究者に
  なる人が投稿する学術雑誌の論文(英語ゼミで読んでる論文など)もそういうスタイルです
  ので、その練習になると思います。
   その場合には、結果のところでも、実験の概略を書く必要があります。もちろん、細かい
  実験の条件は書く必要がありません。その結果を読むために必要な部分だけです。
  例えば・・・
  「S148P 変異をもつ EGFP の発現を最終濃度 1 mM の IPTG で誘導した。 IPTG
  存在下で 2 時間培養した大腸菌をペレットにして、トランスイルミネーターの紫外線
  を照射したところ、同様の条件で発現を誘導した野生型の EGFP と比べて明るく
  光った。」

  というような感じです。ちょっと細かすぎるかも知れないけど、このくらいの説明はあった方
  がいいです。これに対して、「結果」のセクションに、例えば
  「光らなかった。」
  とだけ書いてあるのではちょっと不親切な感じです。“何が” 光らなかったのかは、文章と
  して必要な要素ですよね?その “何が” にあたるのは、どんな操作を加えたサンプル
  なのかということです。 “それは「方法」に書いてある” というのではなくて、どの文章にも
  それは必要なのです。今回は、論文ではないから構いませんが、論文のときはしっかり
  書けるように、そういう書き方を英語ゼミで読んで勉強しておきましょう。

  注目してほしいのは、ここでは
  「2 mL の培養液に対して 100 mM IPTG を 20 μL 加えた」 というような表現をして
  いないことです。これは「方法」の書き方です。「結果」の書き方と違いますよね?

  それから WJ とか YR などといったように、それぞれの変異型のタンパクや大腸菌の系統
  を略語であらわしましたよね。それをレポート中で説明なしに使っている人がたくさんいます
  が、そういうのもきちんと説明をするのが本当です。こういうことも、これまでのレポートでは
  指摘しませんでしたが、将来、(卒業)論文を書くときのために敢えて、最後のこのレポート
  でコメントをしておきます。論文を書くときには、 DNA とか ATP とか、あまりにも当たり前に
  なっている言葉を除いて、必ず最初に出てくるところできちんと定義(あるいは省略しない
  書き方を示すということ)をしないといけません。特に SJ とか YJ というのは、この実習で
  だけ使われた略語ですから、説明はした方がいいですよ。今回のレポートでは書き手も
  読み手もその言葉を知っているわけですが。

* 塩基配列がきれいに読めなかった原因については、多くの人が考えてありました。 pQE30
  は pBluescript と比べて大腸菌細胞あたりのプラスミドのコピー数が少ないので、miniprep
  をしたときにはプラスミドの回収量が少なく、相対的に不純物の多いサンプルになります。
  そのことが配列が読みにくい原因の一つかも知れません。さて、それではどうしたら読める
  でしょうか?みんなが今回の実習で修得した技術で、プラスミドをきれいにすることができる
  はずです。せっかく、うまく行かなかった原因を考えたのですから、それに対する “対策” も
  考えましょう。それが今後の実験・研究に活かされるはずです。これはもちろん塩基配列に
  限ったことではなく、「タンパクの発現量が少なかった」、「タンパクが誘導されていたのに
  光らなかった」などのことについても、原因を考えたのなら対策も一緒に考えて見ましょう。
  課題 2 と課題 3 でも、ね。

* タンパクの発現が強く誘導されていないサンプルが結構たくさんありました。これについては
  結構たくさんの人が慎重に全部のサンプルを見比べて、「室温ではタンパクの発現が誘導
  されないのではないか?」「転写や翻訳など、タンパク発現にかかわる各過程で働く酵素が
  室温では十分な活性を持たないのではないか?」というようなことを考えていました。確かに
  37℃ で培養したもので強く発現が誘導されていて、室温培養の方ではタンパクができて
  いませんでしたね。それでは、どうしたら室温でタンパクを発現させることができるでしょうか?
  37℃ で培養すると S148P 以外のタンパクは、発現しても光らないことが予想されますから
  何とかして室温でタンパクを発現させたいですよね?考えてみてください。

* リコンビナントタンパクの分子量の見積もりは 267 アミノ酸で計算しないといけません。
  その理由はわかりますか?

課題 2:

* 可能性はいろいろ考えられると思います。分子量は正常だったけれども、正常な立体構造を
  とっていないんじゃないか(?)などといった可能性については、十分あり得ると思います。
  たとえアミノ酸配列に変異が入っていなくても、真核細胞で発現させたときのような正常な
  立体構造をとらない場合が、実際によくあると思われます。また、今回の実習のように
  pQE30 などのプラスミドを使うと、cDNA がコードする本来の開始コドンではなく、pQE30 に
  備わっている開始コドンから翻訳が始まり、本来のタンパクにはないアミノ酸配列が付加され
  る場合がありますよね?(短いとは言っても)余分な配列が付加されたせいで、正常な立体
  構造をとらなくなることもあります。このことはよく憶えておかないといけません。

* この酵素が機能するには、補酵素などといった他の分子が必要である。あるいは他のタン
  パクと複合体を作って働くので、単独でタンパクを発現させても機能を持たない。
  このような答えがたくさんありました。そういう可能性はありますね。 NAD とか FAD など
  といったような低分子の補助因子は、原核生物・真核生物の両方に共通な場合が多いと
  思います。また、酵素の活性測定実験をするときには通常、補酵素などは自分の手で
  反応液に加えますから(例えば今回の実習でも T4 DNA ligase の反応液を作るときには
  ATP を加えましたよね・・・)、その点はそれほど問題にならないとは思います。しかし、そう
  いう可能性を考えておかないといけないということは間違いありません。

* この酵素が機能するにはリン酸化糖鎖の付加などの修飾が必要である。こういう答えも
  多かったです。その可能性もありますね。課題 3 とも関係があります。特に、リン酸化は、
  酵素の活性の調節の方法として一般的ですよね。真核生物と原核生物とではそのような
  修飾の仕組みが全然違うので、大腸菌で発現させたタンパクが機能を持たない場合に
  こういった翻訳語修飾の可能性を考えることは重要です。タンパクの修飾としては、
  リン酸化、糖鎖の付加の他、メチル化、アセチル化、脂肪酸の付加などいろいろあります。
  もしも、こうした修飾を正常に受けたタンパクを発現させたいと思ったらどうしますか?
  考えてみてください。

課題 3:

* ここで考えられることも、原核生物と真核生物の違いです。素直に問題文を読むと、大腸菌
  では、アミノ酸配列から期待される分子量と SDS-PAGE の結果が一致したのですから、
  むしろ、タンパクに何らかの変化が起こっているのは真核生物の方なんじゃないか(?)と
  いうことになります。で、やっぱり一番に考えられるのは翻訳後修飾です。特に糖鎖は、
  タンパクの分子量を大きく変える場合があります。リン酸基や脂質などの付加によっても
  ほんの少しですが分子量が増しますね。このような翻訳後修飾の仕組みは原核生物と
  真核生物で全然違っているのです。

* こちらの問題でも補酵素などの付加をあげた人がいました。しかし、これは・・・。
  なぜかというと、補酵素などの補欠分子団はタンパクと共有結合では結合していません。
  だから SDS 化すればはがれてしまい、電気泳動の移動度には影響しないはずなのです。
  同様に、複数のタンパクが複合体を作っている場合にも、それらのサブユニットが共有結合
  でくっついているのでない限り、SDS-PAGE では分離できるのです。



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