海洋生命・分子工学実験 II

(4) 大腸菌からのプラスミド DNA の精製



はじめに

みんなの組み立てたプラスミドがうまく大腸菌に導入されていれば,プレートにはプラスミド
持つ大腸菌のコロニーがたくさんできているはずです。 1 個のコロニーには,1 個のライゲー
ション反応産物に由来する単一種類のプラスミドが導入されていることが予想されます。
(なぜかは実習の当日にみんなで考えましょうか・・・。) したがって,コロニーを拾って大腸菌を
培養し,そこからプラスミドを精製すれば,単一種類の cDNA を手に入れる(同一の配列の
 cDNA を大量に調製する)ことができるはずです。

これがすなわち,cDNA の “クローン化クローニング cloning)” です。

しかし(!!!),拾った大腸菌に入っているプラスミドが,自分の作りたかった形であるか
どうかは,まだわかりません。例えば pQE‐30BamHIHindIII で切ったときに,運悪く
BamHI の方だけで切断されて HindIII では切れなかったとします。そのような不完全な反応で
できたプラスミド断片は,その両端が BamHI の切断末端ですから,cDNA を挟みこまなくても
勝手に環を閉じられますよね(セルフライゲーション)。しかも,2 本の鎖を連結する反応より
もセルフライゲーションの方がかなり効率よく起こります。(自由に歩き回る二人の学生が
キャンパス内で出会う確率と,紐でつながれた二人がキャンパス内で出会う確率を比べて
みましょう。)したがって,制限酵素処理が不十分だった場合などには,このような期待しない
形のプラスミドが入ったコロニーがたくさんできている可能性もあります。そこで,通常は 1 つ
のプレートから多数のコロニーを拾って,中のプラスミドが “本物” かどうかを確かめる
必要があります。そのためにも,まずはコロニーを拾って,プラスミドを精製し,自分の目的
とする形に組み立てられたプラスミドであるかどうかを確認しなければなりません。

ここでは,最も普及している簡便法(アルカリ法あるいは miniprep といいます)によって
プラスミドを精製します。普通なら,1 人でたくさんのコロニーのチェックをするのですが,
この実習では 1 人 1 コロニーでやります。



実験

トランスフォーメーション後の大腸菌をまいたプレートにはたくさんのコロニーができるはず。
実験の前日の夜にコロニーを拾って 1.5 mL の 2x YT/amp (a) 液体培地(試験管)で
一晩振盪培養します(藤原がやります)。実験当日は,大腸菌がいっぱいに増えた試験管
をみんなに渡し,そこから作業を始めます。
 
1. 試験管の大腸菌をエッペンチューブに移す。
   注: ピペットを使う必要はありません。
    
2. 30 秒遠心して大腸菌を沈殿させる。
   
3. 上清(培養液)を完全に捨てる。
   最後はマイクロピペットを使って、できるだけ完全に捨てます。

4. Solution I (b) を 100 μL 加え,ボルテックスして沈殿をほぐす。

5. Solution II (c) を 200 μL 加えて,エッペンを上下させて混ぜる。
   注 1: 大腸菌が溶けて液の濁りが消えます。大腸菌のゲノム DNA と RNA,タンパク
      質,そしてプラスミド DNA などが溶液中に溶け出します。ゲノム DNA は 480 万
      塩基対に及ぶため溶液がネバネバするはず。試しにフタを開けてみましょう。
      溶液が糸を引くのがわかりますか?
   注 2: ボルテックス不可! 激しく攪拌するとゲノム DNA が断片化して,プラスミド
      DNA と分離できなくなります。
 
6. 氷上に 5 分おく。

7. Solution III (d) を 150 μL 加え,エッペンを上下させて混ぜる。
   タンパクが不溶化し,巨大なゲノム DNA がそれにからまって,大きな白い沈殿に
   なります。
   注: ここでもボルテックス不可! 染色体 DNA を断片化してはいけません。
      でも確実に完全に混ぜなければいけません。
   
8. 遠心 10 分。

9. 上清をとって新しいエッペンに移す。
   上清にはプラスミド DNA と大腸菌の RNA,タンパク質が溶けています。このあと
   フェノール抽出で除タンパクする場合もありますが,最近はほとんどの人が省略して
   います。
 
10. エタノールを 1 mL 加えて混ぜる。
   もうゲノム DNA はないのでボルテックスを使っても OK です。
 
11. 遠心 10 分。
   今度は DNA と RNA が沈殿します。タンパク質も結構沈殿します。
 
12. 上清を完全に捨て,75% エタノールを 200〜300 μL 静かに加える。
   勢いよく入れると沈殿がエッペンの底からはがれて扱いにくくなります。

13. 軽く(数十秒),遠心する。
   沈殿がチューブにくっついていれば省略してもよいです。
 
14. 上清を完全に捨てて沈殿を乾燥させる。
   チューブのフタを開け,50℃ 程度のヒートブロックで加熱して沈殿を完全に乾燥
   させます。乾燥すると透明になるはず。
 
15.  沈殿を 20 μL の RNase A 入り TE バッファー(e) に溶かす。

16. 37℃ ウォーターバスに 30 分おく。



実験に使う試薬

(a) 2xYT/amp
2xYT 培養液は [1.6% トリプトン,1% 乾燥酵母エキス,0.5% NaCl]。 これに 50〜100 μg/mL
のアンピシリンを溶かしたものが 2x YT/amp。LB より栄養がたっぷりで,プラスミドの
回収率が上がる。
(b) Solution I
[50 mM グルコース,25 mM Tris-HCl (pH 8.0),10 mM EDTA]
調製したあとオートクレーブ滅菌する。
(c) Solution II
[0.2 N NaOH,1% SDS] 
滅菌はしない。室温で数週間は保存して使えるが,使用直前に作るのがベスト。
特に NaOH は直前に溶かすのがいい。
(d) Solution III 
5 M 酢酸カリウムを 60 mL,酢酸を 11.5 mL,蒸留水を 28.5 mL 混ぜる。最終濃度は
酢酸については 5 M,カリウムについては 3 M となる。
(e) RNase A 入り TE バッファー
TE バッファーに最終濃度 0.1 mg/mL の RNase A を溶かす。RNase A のストックは
10 mg/mL 程度で作っておく。粉を買って,[10 mM Tris-HCl (pH 7.5),15 mM NaCl] に
溶かす。それを 100℃ で 15 分煮る。この作業で DNase やタンパク質分解酵素など
は変性・失活するが,RNase A は冷えたら再び活性を持つようになる。 RNaseA は
分子内に多数の S-S 結合を持っていて,熱に非常に強い。冷えたら分注して ‐20℃ で
保存する。


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