3) 切片の免疫染色

■はじめに
 研究対象のタンパク質が,生体内のどの組織,どの細胞で発現しているのか? さらには,そのタンパク質が細胞のどこに存在しているか?
これらは,生物の組織や細胞に対して抗体を反応させることで調べることができます。(タンパク質以外でも抗体が抗原として認識する物質なら OK。)
この実験では,生物を固定して,組織や細胞をできるだけ生きている時と同じ状態に保ち,その試料に対して抗体を反応させます。固定した試料
から組織切片を作製し,切片上で免疫染色をおこなえば,顕微鏡をつかって,目的の物質が存在している場所を詳細に知ることができます。


■実験結果

切片染色の結果はこちら →→ 1-6 組

切片染色の結果はこちら →→ 7-12 組


実験で使った試薬の組成

  こちらから


■実験結果の解説

 みなさんが染色した切片の写真をデータとします。

 皆さんは切片の様子を顕微鏡につながったモニターで見ましたね。
 初めて見るホヤの細胞,しかも切片ですから,よく分からなーい,,,砂長の話を聞いているうちに終わってしまった人もいたでしょう。
ここで,しっかりと切片写真を見て,思い出して下さい。

 切片には,ミダレキクイタボヤというホヤの断面が見えていました。代表的な細胞や器官は,ギムザ染色の写真中に引き出し線を
つけて分かるようになっています。
 免疫染色したのは,ギムザ染色した切片から 3〜5 μmほど離れたすぐ隣の切片で,ギムザ染色した切片とほとんど同じ器官や
細胞が見えるはずです。 2 つを見比べることで,どんな組織や細胞が Vasa タンパク質を発現しているか が分かります。
逆に,発現していない(正確には,抗体で検出することができない程度しか発現していない,も含まれます) 細胞についても
分かります。免疫染色で染まった部分がギムザ染色のどこにあたるか分かりますか?よーーく見比べてださい。 
どの細胞がどんなふうに染まってますか?濃さの違いにも注目です! 濃く染まっているところは薄いところよりも多くのタンパク質が
あると考えて OK です。  染まらなかった細胞はどんな細胞でしょうか?

 ちょっと話が脱線しますが,,ギムザ染色で染まっている青色と,免疫染色で染まっている青色は,発色の仕組みが全く違うことは
分かりますか? 「先生,今さらそんなこと聞かないでください!!」と思ってくれるのが理想ですが,,,,大丈夫かなぁ,,。?


 ギムザ染色液は,以下の3種の色素の混合染色液です。市販されている染色液を原液として, PBS で希釈して使いました。
ギムザ染色では抗原抗体反応はおきていませんね。それぞれの色素で何が染色されるかな?


  アズールブルー  (塩基性色素) 
  メチレンブルー   (塩基性色素)

  エオシン           (酸性色素)


※レポートの結果には,次のことをかくこと!


    ホームページに載せた写真に対するあなたの観察結果を記述してください。必ず,高解像度版の写真をレポートに貼り付けて
   説明すること。なお,写真を貼っただけじゃダメだよ。必要にあわせて,写真の修飾もしてください。

    説明は丁寧に! もしも,写真がレポートに貼りついていなくても,説明文を読めば,写真の様子が理解できるような説明を
   目指してください。 これ,冗談ではなくて,レポートの書き方の基本事項です。



●課題●


 まず,下の写真を見てください。 (この写真は,レポートに貼らなくてよい)

 A は実験でつかったミダレキクイタボヤというホヤの幼生です。オタマジャクシに似た形をして
いるのでオタマジャクシ幼生と呼ぶこともあります(ただし,オタマジャクシではない!!)。
B, C, D は A の四角で囲った部分の断面写真です。C はよく見ると 1 つ 1 つの細胞の輪郭をなぞるように
赤く光っています。D では青い点々の 1 つ 1 つが核を示しています。

実は C と D では全く同じ断面を見ています。

ということは,,C と D は写真をぴったり重ねることができます。実際に重ねたのが B の写真です。
つまり B の写真は,ホヤの幼生に対して,細胞の輪郭と核をそれぞれ染色して,見えるようにした
二重染色の写真ということになります。

 二重染色とは,同じサンプルを二種類の染色法で処理します。可能であれば 3 種類以上の染色を
することもあり,こういう染色を多重染色と呼びます。
 
 では,ここからが問題です。
----------------------------------------------------------------------------------
 これから,あなたは,上の写真で示したサンプルを,さらに 抗 Vasa 抗体で免疫染色し,細胞の輪郭と核,
Vasa タンパク質を同じサンプル(同じ断面)で見えるようにする「三重染色」をします。その方法を考えて
説明してください。 Vasa タンパク質だけでなく,細胞の輪郭と核もどうやって見えるようにするか(光らすか?)
説明するのですよ
!!
-----------------------------------------------------------------------------------

 ざっっくりとした問題なので,最低限押さえるポイントやヒントを下に示します。よーく読んでください

@同じ断面(もしくは切片)を観察できる方法を考えること。実験 II でやったような,数μm離れたお隣の
 断面(切片)ではなく
,まったく同じ断面(切片)の三重染色象を観察できなければならない

A抗体を使う場合は,どんな物質に結合する抗体で,どんな動物でつくった抗体なのかを具体的に示すこと。
 実際に売っているかどうかとか技術的につくることが可能かどうかはあまり気にしなくてよい。もし,今回の実験のように,
 一次抗体,二次抗体と 2 種類の抗体を使うなら,どの動物で作製した抗体なのか?それぞれ抗原は何か? 
 標識物質はどの抗体に付いているのか?などがはっきり分かるように説明すること。

B使用する抗体が結合する物質(抗原)抗体に付ける標識物質はできるだけ具体的な
 物質の名前を示すこと
。例えば,「細胞膜を認識する抗体」や「核を認識する抗体」ではなく,
 「XXXという物質に結合するする抗体で染色することにより細胞の輪郭を見えるようにする」のように,説明して
 ください。同じように,「青く光る物質で標識した抗体」ではなく,「XXX という物質で標識した抗体」と示し,どうやって
 見えるようにするか(光らせる場合は,どうやって光らせるのか)の説明もして欲しい。
 

C(ヒント)目的の物質を見えるようにする方法には,抗体を使わない方法もある。つまり,自分の見たい
      物質にだけ結合するような分子であれば抗体じゃなくてもいいのです。

D(ヒント)何を書いたらいいのか全く分からないとき,ホームページの説明に不備があるときは,砂長に質問する。

E(ヒント)インターネットを使うと有効な情報を得ることができる。ただし,コピペは厳禁!!質問サイトへの投稿も
 ダメです(発覚したら 0点)。 過去のレポートのコピペも厳禁!! というか,これまでも同じような課題を出しています
 が,満足できる答えを書いてきた先輩はほとんどいない。(つまり,皆さんが手に入れるレポートの大半は,そもそも
 お手本にならない。) アホな後輩に簡単には見せたくないっ!て思えるくらいのレポート書こう!!

*3 年生にとっては,具体的な物質名や細かい方法を説明するのは難題ですので,実験の大まかな手順が正しく書いてあれば,
合格点をあげます。高得点を望む人は,是非是非,頑張ってください。

はじめにもどる →→