2)  ウェスタンブロッティング

■はじめに

 目的とするタンパク質がどんな大きさ(分子量)をもっているのか?どんな組織でいつ発現しているのか?
こんなことを知りたいときに,ウエスタンブロッティングが有効です。ウエスタンブロッティングとは,ゲル電気泳動
により分離したタンパク質を電気的にヌクレオポアフィルター(ふつうメンブレン と呼びます)にブロットする(染み付ける)
実験を指します。ただし,ほとんどの場合,ブロッティング後に,特定のタンパク質を,抗体をつかって,メンブレン上で
免疫化学的に検出すしますので,,タンパク質を抗体をつかって検出する作業までを含めて,ウエスタンブロッティングと
呼びます。また,抗体反応によって検出することから,immuno-blotting (イムノブロッティング)ということもあります。

■実験方法

 実験では,ホヤという動物(正確には,ミダレキクイタボヤという種)の,Vasa 遺伝子にコードされているタンパク質を標的の
タンパク質とします。この Vasa タンパク質に結合する抗体があります。 本来なら,ホヤの組織,器官からタンパク質を抽出して,
ホヤの生体内にある Vasa タンパク質を検出したいところです。しかし,生体を学生実習用に準備することが難しいので,
今回は大腸菌にホヤのVasa 遺伝子を導入し,大腸菌に Vasa タンパク質を発現させ,そのタンパク質を抗体で検出することにします。

実験で使った試薬の組成

  こちらから

  タンパク質の分子量マーカーについてはこちら(製造元のHPにジャンプします)


  メンブレン(ニトロセルロース)についてはこちら。 リンク先のページの下の方にメンブレンの構造が見える写真があります。


■実験結果

皆さんの結果はこちら →→1組〜6組


皆さんの結果はこちら →→7組〜12組

■実験結果の解説
 
 今回の実験では,V と E の 2 種類のサンプルをメンブレンにブロットし,免疫染色をしました。
メンブレンの V のレーンには,ホヤの Vasa タンパク質を発現するように遺伝子導入された大腸菌から
抽出したタンパク質がブロットされています。一方,E は,V と同じように遺伝子組換え操作がされていますが,
ホヤの Vasa 遺伝子だけ除いてあります。つまり,E の大腸菌はホヤの Vasa 遺伝子を持っていません。

 まずは,期待した結果について説明します。V の大腸菌で発現するホヤ Vasaタンパク質の質量は約 78 kDa です。
 今回の実験では 72 kDa のマーカーのちょっと上くらいにバンドが出れば,予想通りということになります。
皆さんの結果を見ると,,,うまくいきましたか?。
 
 ポンソーS で染色したメンブンレンを見てみましょう。マーカーから順に V12 → V2 → E2 です。
V12 はタンパク質の量をわざと多くしたので,見えやすいですね。メンブレン上に質量の異なるたくさんの種類の
タンパク質があることがわかります。また,ポンソーS 染色は感度がそれほど良くないので,V2 や E2 で赤く染まって
いない部分にも実際にはタンパク質があることが想像できると思います。。つまり,抗体を使うことで,大腸菌から抽出
したたくさんのタンパク質の中から Vasa タンパク質だけを見つけることができたわけです(できたかな?)

 E のレーンには抗原となる Vasa タンパク質がないはずなので,抗 Vasa 抗体を使って免疫染色しても,何も染まらないはず,
と予想できます。こちらは予想通りになったでしょうか?

 ところで,この E のメンブレンは何のために作業したんだっけ? なぜ,当たり前の結果が出ると分かっている実験をわざわざ
やったのでしょうか?これは,科学の実験で大変重要な作業で,[コントロール実験,対照実験] と呼びます。実験で使う抗体に
対する抗原が含まれていない,と分かっているタンパク質に対して免疫染色をする。その結果,何も検出されないことが重要なのです。

 見方を変えて,こんな場合を考えてみてください。V に 78 kDa の位置にバンドが検出されたとします。けど,そのバンドが,E でも検出
された,,, こうなると,見えたきたバンドは,抗体が Vasa タンパク質に結合したことで見えたバンドなのかどうか,怪しいですね。。 
抗体がどのタンパク質結合したのかも? 実験操作が正しかっただろうか? と結果を疑わなければなりません。

 同じ条件で、同時に作業したコントロール( E サンプル)と V サンプルの結果を併せて示すことで,V のメンブレン上で確かに Vasa
タンパク質を検出したと強く主張できるわけです。  もし,V でも E でもバンドが見えたとなると,,,抗体は特異的か? 2 次抗体が
大腸菌のタンパク質に結合したのかも?? 実験の手順は間違いないか? さまざまな可能性を考えなければなりません。

 簡単に言うと,V サンプルで見えたバンドから E サンプルかでも染まってししまったバンドを引き算して,残ったバンドが,
抗 Vasa 抗体がちゃんと Vasa タンパク質に結合したことによって見えたバンド と考えるわけです。



 皆さんのレポートには,実験結果として見えた通りの結果を記述して下さい。見えた通りに示すのが「結果」です。
もし,複数のバンドがでていたなら,無視しちゃダメですよ。 たとえ,薄くても,見えているなら説明してください。そして
それがどういうことなのか,,,あなたの考えを記述してください
 

 他の組の結果についても何か思いつけば,ぜひ考察してみてください。 これはボーナス点につながります。





●課題●(問題は 1 つ)

@ 皆さんが実験に使った「抗ホヤ Vasa タンパク質モノクローナル抗体」は,細胞分子工学研究室と高知大動物実験施設(岡豊キャンパス)で
 作製されたもので,実際に研究で使われています。2008年,学術論文のなかでをこの抗 Vasa 抗体ができたことを報告しました。論文では,
 下のようなウエスタンブロットの結果を載せました。 論文の実験では大腸菌ではなく ホヤ からタンパク質を抽出し,Vasa タンパク質を検出
 しました。ホヤの Vasa タンパク質については Vasa 遺伝子の塩基配列をもとにアミノ酸配列が分かっており,そこからタンパク質の質量を予測
 することができます。予測された分子量は 74 kDa だったので,作製した抗体は,きちんとミダレキクイタボヤの生体に存在する Vasa タンパク質
 に結合する(写真の矢尻のところのバンド)と報告しました。

 
ところが!,論文の審査員から 「42 kDa くらいにバンド(*印)が見える!これが何なのかちゃんと説明しなさい,その抗体は Vasa タンパク質以外
にも結合してしまうのではないのか?」というコメントが来ました。
 
 ということで,ここでの課題は,この 42kDa くらいにバンドがでてしまった理由を考えて下さい。 皆さんは「抗体は悪くない」という立場で考え,
コメントをくれた審査員を納得させてください。

 ←論文に載せた写真

★注意点
 この課題には,決まった1つの答えがあるわけではありません。それぞれ結果の写真にたどり着くまでの実験過程,
(タンパク質の精製方法や抗体が出来る仕組み,モノクローナル抗体の作り方,ウェスタンブロッティング etc..)を考えて,
どこでどんなことがおこった結果,そこに(42 kDa の)バンドがでたのか?ありとあらゆる可能性を考えてみてください。
重要なのは,きちんと論理が通っていることです。また,「何かの手違いがあった とか 実験が下手くそだから」というような
一言で済ますのもだめ(点数あげない)。 よーーーく 考えて,書いてください。

 疑問がある人は遠慮なく砂長まで相談してください。無論,答えは教えませんけどね。

 再度,書きますが,答えが1つ決まっているわけではありません。

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