巻貝をコントロールする寄生虫

寄生虫は宿主に様々な影響を与えます。潮間帯の巻貝の一種では、寄生虫に感染されることにより殻が巨大化してしまうことが分かりました。さらに、寄生虫に感染された巻貝は行動パターンが変わり、住み場所や食べ物まで変わってしまいます。このような変化は、寄生虫が次の宿主へ乗り移る際に有利に働くと考えられます。したがって、解釈の仕方によっては、自分の都合の良いように寄生虫が宿主をコントロールしているようにも見えます。現在は、寄生虫はどのようにして宿主の生態に影響を与えているのかについて解明したいと考えています。

海岸の外来種

交通の便が飛躍的に向上したのに伴い、人間以外の生物たちも偶然・または必然的に広範囲に拡散できるようになりました。このように人間活動により、本来の生息域から新規の場所へと移動させられ、そこに住みついた生物を「外来種」と呼びます。船舶の移動により海岸にも多くの外来種が運ばれてきています。私は、日本からアメリカ西海岸に移入し、現地で大発生しているホソウミニナとそれに寄生する二生吸虫の移入経路の研究をしています。これまでの研究により、宿主が新規の場所へと侵入すると、寄生虫は鳥などを介して、人間の助けなしにでも宿主が生息する新規の場所へと侵入できることが分かりました。


中米地峡に隔離された海洋生物の進化

太平洋と大西洋を縦に隔てる中米地峡は、自然の「生物進化の実験場」と言われています。パナマ地峡が完成し、中米地峡が太平洋と大西洋を分断したのは、今から約300万年前のことだと考えられています。中米地峡は、2つの海洋を分断すると同時に、海の生物も大きく2つの集団へと分断しました。そして、300万年という途方もなく長い時間を経て別の種へと進化した生物が、現在の太平洋と大西洋には多数分布しています。私は、中米のマングローブ林の中に生息するウミニナ類の巻貝の進化や寄生虫との関わり合いについて研究を進めています。

社会性を持つ寄生虫

アリやハチを始めとする社会性昆虫は、コロニーの中で役割分担をして生活しています。これと類似した役割分担が巻貝に寄生する二生吸虫からも見つかりました。巻貝の中で二生吸虫は、外敵と戦う兵隊型と、幼生を産む繁殖型に分かれ、効果的に子孫を残す戦略をとっていたことが分かったのです。日本では現在3種の二生吸虫が役割分担をしていることが報告されていますが、研究が進めばその種数は飛躍的に増えることが予想されます。また、役割分担のメカニズムや、敵と味方をどのようにして見分けているのかなど、興味深い課題が沢山あります。そのような謎を一つでも解こうと研究に取り組んでいます。


イソギンチャクと褐虫藻の共生

サンゴの体内には褐虫藻という共生藻がいて、サンゴに栄養を提供しています。サンゴと同様に、一部のイソギンチャクにも複数種の褐虫藻が共生しています。そしてその褐虫藻は、種類ごとに、光や温度等の環境要素に対して異なる反応を示すと考えられています。上部と下部とで環境が著しく異なる潮間帯において、褐虫藻はどのような分布パターンを示すのでしょうか?このような視点から、潮間帯の環境条件と褐虫藻の分布パターンの関連性について研究を進めています。


東日本大震災の海岸生態系への影響

2011年3月11日に起こった東日本大震災に伴う大津波は、東北太平洋沿岸の景色を一変させました。海岸に住む生物にも大きなダメージがあったことが予想されますが、その実態はまだ明らかにはなっていません。私は、干潟の代表的生物であるウミニナ類の巻貝に着目し、大津波が干潟生物にどれほどの被害をもたらしたのかを生態的・遺伝的な側面から調査しています。


その他の研究

その他にも淡水の巻貝の進化や寄生虫の感染率の季節変動など、色々な事に興味を持ち研究しています。