最近の研究テーマ



 
第四紀後期の植生と環境の変遷に関する花粉分析的研究
 生物群集は,それを取り囲む様々な環境条件の変化に多様に影響されながら変遷を繰り返しつつ現在に至ったものと考えられます.現在,そして未来の生物群集を考えるとき,過去からの生物群集の変遷を環境の変遷に伴う一連の流れとして捉えることが大切です.
 この研究室では,堆積物コアを通した化石花粉群集の記録から,第四紀後期,特に更新世後期(最終氷期)以降の植生と環境の変遷を調べています.
 南四国は,花粉分析的研究の多い地域の一つで,中村 純,
山中三男ほかの研究者らによって,主として海成段丘や低湿地の堆積物を用いた事例研究が数多く報告されています.その中で,特に完新世以降の植生変遷については比較的詳細に明らかにされています.
 私は,高知平野を中心とした各地域に点在する完新世の花粉分析結果から,メソスケールでの植生変遷の違いを読みとり,特に照葉樹林の発達史,農耕活動と植生との関わりなどについて明らかにしていきたいと考えています.
 中村,山中ほかによって分析された堆積物は完新世以降のものが多く,また,この地域では連続した地層と,地層の年代を対比する上で有効な火山灰の鍵層に乏しいため,更新世後期,特に最終氷期を通して連続した,しかも同一地点で採取された堆積物コアの花粉分析から,南四国の植生変遷史について検討した研究は未だ報告されていません.
 南四国において,最終氷期を通して連続したコア堆積物を採取することも急務になっています. <→このページの最初に戻る>

 
森林土壌の花粉分析 −方法論的課題の検討と植物群落の動態に関する研究への応用
 従来,花粉分析は湿原の泥炭や湖沼堆積物などを対象に,長期にわたる広域的な植生の変遷を解明するために行われてきました.
 森林域における花粉堆積様式および表層花粉と現存植生との対応関係の解析が進むにつれて,森林域に堆積する花粉群は林分レベルの植生動態を反映していることが明らかとなってきました.この事実は,森林域の小凹地堆積物,モル型腐植(mor-humus)などを対象とした花粉分析的研究を促進させました.
 森林域における花粉分析から導き出される植生の動態記録は,その時間・空間スケールからみて森林群落の研究分野に対して適用的です.すなわち,群落の構造・組成の成因や動態,あるいは種多様性の維持や共存の機構などを過去の撹乱現象などと結びつけて検討する上で森林域の堆積物試料の花粉分析は有効です.
 しかしながら,小凹地堆積物,あるいはモル型腐植を採取できる調査地は限られており,わが国においては隣接する複数の調査地点でこれら試料を採取することは極めて困難です.
 その一方で,森林土壌は,基本的にどの地域においても採取が容易であり,湿原の泥炭や湖沼堆積物の採取不能な地域における植生変遷を解明する上でも期待されます.わが国,特に東北,関東甲信越地方では,完新世を通して活動した火山が多く,テフラ物質による土壌母材の供給が断続的ながら繰り返されてきたという経緯があります.したがって,土壌断面には起源または降下年代を異にしたテフラ物質を母材とする複数の埋没層位が認められる場合があり,このような土壌は花粉分析の対象として有効であると考えられます.
 私は,土壌中での花粉の保存状態や下方移動など,土壌花粉分析の方法論的問題に焦点をあて,それらの基礎的研究を行うとともに,土壌花粉分析により植物群落の動態の解析を行い,森林群落の研究分野への適用を模索しています.
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温帯林の構造と維持・更新の機構
 近年の工業化にともなう産業構造の著しい変化と,特に大都市近郊における大規模な宅地開発と幹線道路の敷設によって,自然状態に近い森林は著しく減少し,各地に残存する自然林も孤立して分布するようになってきています.
 しかしながら,森林のもつ生物資源としての重要性,生態系の環境保全機能を見直し,森林を健全な状態で保全しようとする試みもまた増加しつつあります.孤立した自然林に対する保全・復元事業を策定するには,植物個体群の維持にとって重要な要因や条件,さらに生物群集の組織化・安定性に重要な役割を果たす種や生物間相互作用を明らかにするための基礎的研究とそのモニタリングが不可欠です.
 本年5月に,高知県土佐郡土佐山村の三辻山(標高1,108 m)の尾根から頂部斜面上に孤立した自然林に調査プロットを設置しました.調査プロットは,暖温帯常緑広葉樹林と冷温帯落葉広葉樹林の推移帯域に位置しており,暖温帯林構成要素のアカガシと冷温帯林構成要素のブナに加えて,モミ,ツガ,ヒノキなどの温帯針葉樹が混交する温帯混交林となっています.
 私は,日本の温帯林における優占種の一つであり,また,この研究対象地の優占種であるブナ科樹木数種(アカガシ,ブナ,イヌブナ,コナラ)に焦点をあて,堅果の生産から,齧歯類による散布,堅果の発芽,実生の定着に至るまでの過程を定量的に把握し,また,対象林分の種組成・構造を明らかにした上で,孤立した自然林が今後健全な状態で更新するか否かを明らかにしたいと考えています.さらに,その結果に基づいて,孤立した自然林の保全に向けた計画策定のための基礎資料を提示したいと考えています.
 なお,この研究は
独立行政法人 森林総合研究所四国支所(倉本惠生さん)との共同研究の一環として行われているものです.特に堅果の生産量(落下量)の調査については,倉本さんが1998年度から継続して精力的に取り組まれています. <→このページの最初に戻る>

 
高知市およびその近郊における竹林の分布拡大
 タケ類は,日本人にとってもなじみの深い植物であり,観賞用として人家に植えられたり,建築材やタケノコの生産のために広く栽培され,利用されてきました.また,竹林は里山を構成する景観要素としても重要なものです.
 近年,近畿地方,九州北部など西日本各地を中心として竹林が拡大しており,防災学上,あるいは生態学上の大きな問題となっています.タケ類は,数十年ごとに一斉に開花・枯死するという特異な生活史もち,京都大学上賀茂試験地に植裁されたモウソウチクは67年おきに開花したことが知られています.現在のところ,種子による桿の天然更新は報告されていません.しかしながら,タケ類は地下茎を伸ばしタケノコによって盛んに群落を拡大します.モウソウチク群落,マダケ群落の物質収支について調べた研究では,いずれも総生産量の約30%,葉の余剰生産量の約50%の光合成産物が根系に投資されていたとされます.タケ類は,根系の維持・更新に大きなコストをかけて群落を拡大し,タケノコによるすみやかで確実な桿の更新を可能にしているようです.
 高知県も例外ではなく,最近の竹林の分布拡大は著しいものがあります.特に高知市から南国市の北部に連なる山地域(椎木峠〜白木谷)は,タケ類によって席巻されており,竹山と称してもよいほどの景観を呈しています.この地域には現在も集約的な施行がなされている竹林も残存するものの,大部分は管理放棄された竹林と近年自然状態で拡大してきたと考えられる竹林で構成されています.現在の社会的背景を考慮すると,集約的に維持・管理された竹林の面積は今後ますます減少すると考えられます.また,在来植生の竹林化は,林分の構造と組成の単純化を招き,地域の生物多様性に大きな影響を及ぼすことも懸念されています.
 私は,1)近年における高知市北山地域の竹林の分布と拡大過程,および2)竹林化にともなう林分の構造と種組成の変化を明らかにすることを目的として,昨年度から竹林の研究を始めました.
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